5千
 晶に連れられてやってきた食堂は、陽が差し込んでシャンデリアが輝き、とてもあたたかい雰囲気だった。初めて訪れたわけではないのに、少しだけ指先が緊張してしまう。
 席まで案内するように歩く晶は、ふと気づいたように「ミチルもここで暮らしてましたもんね。知ってましたね」と、恥ずかしそうに眉を下げる。
「いえ、魔法舎には久しぶりに来たので、助かります」
 隣を歩く晶から見上げられるたびに、ミチルは心がくすぐったくなってしまう。視線を逸らしたいけれど、彼女の眼差しに応えたくて、数秒だけ視線を惑わせてから見つめ返した。
「ふふっ、やっと目が合いましたね」
 眼差しが絡み合い溶けた瞬間の、晶の嬉しそうな微笑みに、ミチルの心臓は大きな音をたてる。同時にぎゅっと潰されそうな甘い痛みが走った。
――か、かわいい……!
 ミチルは表情にでないよう、必死に下唇を噛んだ。ヒースクリフが恥ずかしそうにしていた気持ちが、今やっと理解できた気がする。
 晶に案内されたのは、窓際の席だった。そこは、魔法舎で暮らしていた時、よく南の魔法使いが集って食事をしていた席である。
 じんわりと心の中があたたかくなる。覚えていてくれたんだ。いいや、違う。僕の“過去”は、晶様の“今”なのだ。そのちぐはぐな事実に狂わされそうになりながらも、晶のさり気ない優しさが、ミチルの緊張をほぐしていく。
 席に腰を落ち着けると、向かい側に彼女が座った。
「ミチル……えっと、その……」
 聞きたいことがたくさんありそうな、それでも何から話をしたらいいかわからないような表情が、ミチルに向けられる。晶の双眸には、あの頃とは違い成長した自分の姿が映っていた。
――僕は晶様にどう映っているんだろう。
 幼い頃の自分と比べて、成長を感心しているのだろうか。それとも、あまり変わっていないと考えているのだろうか。
――リケの時は、どう思ったのかな。
 ふとした疑問に、腹の奥がむかむかとした。リケと比べたって、何も変わりはしないのに、些細なことでもリケと比べてしまう。ミチルの悪い癖だった。さらにそれは、晶のことが絡むと、自分は悪い人になってしまう。
――嫌だな。
 ミチルはチクチクと痛む胸にさり気なく手を当てる。表情にはださないよう努めて、晶に微笑んだ。
「そういえば、リケがここにやってきませんでしたか?」
「リケ……?」
 首を傾げる晶に、ミチルの予想は外れていく。あれれ、もしかして、リケと会っていないのかな。それとも、気づいていないのかな。
 もう少し、話を詰めてみよう。ミチルは言葉を続けた。
「リケに聞きました。魔法舎に行ったんだって」
「リケにって……えっ! もしかして、ミチル……!」
 晶が大きく目を見開くいた。
 やはり、名前は偉大だ。名前を出しただけで、事実を紐解いていく鍵になる。
 驚いている晶の表情は、昔見た時よりも鮮やかにミチルの双眸に映る。晶の表情一つひとつが全て可愛らしくて、愛おしく感じてしまう。これが、好きな人と話している、ということなのかな。ミチルは成人を目前に控えて、ようやくそれを理解する。
「はい。晶様が考えていることは、正解だと思います。リケ、とっても楽しそうに話していましたよ。リケのあんなに楽しそうな姿、久しぶりに見たなあ」
 ミチルの瞼に焼きついている、リケの姿。羨ましくなるほどに、晶と会えたことを語るリケは幸せそうだった。
■みんなくる
 食堂の扉が大きな音を立てて開かれた。
「ミチルが大きくなったって、本当ですか!?」
 駆け込んできたのは、リケだった。髪が上や横にぴょんぴょん撥ねて乱れている。全速力で駆けてきたのか、膝に手をついて俯きながら息を整えていた。
「っ、はあ……。あっ……! ミチル!」
「こんにちは、リケ」
 
「本当だ! ミチルが大きくなってる!」
「待って、リケ!」
 リケに続いて顔を出したのは、南の国の魔法使いだった。リケ同様、彼らは食堂の入り口で足は止まってしまう。ルチル、レノックスはぽかんと口を開けていた。そして最後にやってきたのは、フィガロだった。
――本当は、リケを応援すべきなのに。
ここにいるリケは、まだ自覚していないリケなのだ
「リケはどのくらいここに滞在しましたか?」
「一時間から二時間くらい、でしょうか」
「そっか……」
――そうしたら、僕も同じくらいかそれよりも短いか、かな。
「ミチル、何かしたいことはない?」
「えっ……」
 驚いて顔を向けると、ルチルの優しい眼差しが注がれていた。
――なんでもお見通しなんだな、兄様は。
 兄様は、いつの時代でも僕の兄様だ。
「僕……晶様の作った、ごはんが食べたいです」
「えっ?」
「晶様、だめですか?」
「口に合わなかったらすみません」
 困った顔をする晶に、ミチルは心の奥がじんわりと温かくなる
「大丈夫です。晶様の作ったものなら、僕は何でも好物ですから」
カット
Latest / 32:34
カットモードOFF
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
みちあきすすめる 15:30になったらやめます~ありがとうございました 
初公開日: 2020年05月02日
最終更新日: 2020年05月02日
ブックマーク
スキ!
コメント
今日中にこの部分終わらせたいけど暑くて進まない
みちあきすすめる
厄災の傷で消えてしまった文章を取り戻して完成に近づけるための旅に出る
ポン太
ネロ晶ネイキッド
なくなった文章を取り戻す
ポン太
ゆにば行く宿伏になるはず
企画の遅刻参加したいと思っているけど間に合わなかったら普通に投稿予定。ゆにばに行ってひたすら食べまく…
あぼだ