柳生をロッカーに押し付けると、衝撃で髪が乱れた。少し長めの前髪が眼鏡にかかって鬱陶しそうだけど、直してなんかやらない。俺は、ジャッカルとは違うから。
「何ですか」
柳生がキッと俺を睨む。どれだけ俺が乱暴に触れたって、柳生の気丈な態度は変わらない。どれだけ触れて、この手で乱してやっても、柳生は変わらず、綺麗なまま。汚れなんて知らないという顔をして、凛と背筋を伸ばしている。
「何も」
今日こそは、今度こそはこのお綺麗な存在を汚してやりたいと思いながらその唇に吸い付く。先程着替えたばかりのシャツを早速スラックスから出しても、眉を顰めるだけで拒まれはしない。
「……嘘吐き」
小さく呟かれた声に口角が上がる。ご名答。正解したところで、手を止める気も理由を告げてやる気もないけれど。柳生だって本当は望んでいるくせに、全く口ぶりが可愛くない。拒絶だって出来るくせに、俺なんかに好き勝手させて。自分の意志ではないという顔をしたって、本音は隠せない。
その本性を暴いてやりたいと、ずっと思っている。きっちりと着込まれた服の中身など何度も暴いてきたけれど、それだけでは足りない。どれだけ触れても、まだ見えてこないその、更に奥すら全て見せてほしいと。
シャツの中へ手を差し入れれば、柳生は声が漏れ出ないように歯を食いしばる。完全に俺に身を委ね始めている柳生には多分聞こえていないだろうが、遠くに足音が聞こえていた。誰かが来ていることは明白だが、柳生の正気が戻らない程度の大人しいものだ。これがドシドシと煩く、足早な真田のものならば面倒だから今すぐ手を止めたけれど、そうではない。幸村が一人で来るとも思えないし、その線もない。幸村でも真田でもないのならば、然程問題ではない。この雰囲気を察して、引き返してくれる奴ならばいいけれど。
ガチャリと音を立てて扉が開かれた。「なっ……!」なんて間抜けな声が聞こえて、小さく笑う。ゲームオーバーだ。気付いていないふりで手を動かし続けるが、やっと理性を取り戻したらしい柳生にガバリと引き剥がされる。そのまま柳生は何食わぬ顔でシャツを入れ、元の清廉な姿に逆戻り。いつもこうだ。散々俺に身を委ねて暴かれたって、その美しさが奪われることはない。
グイッと後ろから腕を引かれ、小さく舌を打つ。
「仁王、部室で何やってんだよ」
幸村でも真田でもないのならば誰でも問題ではないと思っていた。けれどそのジャッカルの声を聞いて、再び得も言われぬ衝動が沸き上がる。
つい数時間前、部活中に強い風が吹いた。それはいつもきっちりと分けられた柳生の前髪も、それどころか後ろ髪すら乱してしまうほど。その乱れた髪を直したのは、柳生本人ではなく、隣に立っていたジャッカルだった。ジャッカルは柳生の前髪を七三に分け、後ろ髪を撫でつけ、襟まで整えてやる。まるで執事のように甲斐甲斐しい。「これでよし。紳士なんだから乱れてちゃ示しがつかないだろ」と告げた笑顔には、下心なんて何処にもなかった。しかし、下心が無かろうが、腹が立つものは腹が立つ。簡単に他の男に髪の毛を触らせる柳生にも、いわば自分の思う「柳生」を押しつけるジャッカルにも。
「何って……見れば分かるじゃろ」
わざとらしく口角を上げてやれば、目の前の男は顔を顰める。
「お前比呂士にそういう変なこと教えんなよ」
多分、ジャッカルの中では俺が無理矢理迫っていることになっているのだろう。この詐欺師が、とその瞳は語っている。俺を拒んだあの手が、ジャッカルが足を踏み入れるその少し前まで背中に回ってたことなど、知らないのだ。
自分の全てを暴き汚してほしいと願い、そのくせ、俺以外の前では潔癖ぶる。それに、周囲はまんまと騙される。詐欺師はどちらだ。
「別に、恋人同士なら当然じゃろ」
柳生も望んでいるし、という言葉は飲み込む。柳生の思いを汲んでやる、というわけではない。俺だけに見せてくれる柳生の本音を、他人に知らせたくないと思うからだ。紳士らしくない姿など、他人は知らなくていい。お綺麗な存在だと、一生夢を見続ければいいのだ。
とりあえずおわりです!お疲れ様でした!
ありがとうございました!
ちょっと整えたら上げます