夜の帳に落ちるは、静かな雨だった。暗闇の中でさあさあと落ちる雨粒は大きくもなく、小さくもなかった。ただ静かに広げた傘に打ちつけ、飛び跳ね、小さな雫となっていく。
 長義は丁度塾が終わったところで、友人たちと別れて最寄り駅へと続く路地を歩いていた。塾は、駅前近くにあるのだが、徒歩五分なんて売り文句のくせに、実際は歩くと十分程度かかる。同じ塾に通う友人らは、反対側の街へと帰るので、帰り道はいつも一人だった。
 少し進むとやっと大通りらしい明るい通りに差し掛かる。車が通り過ぎる通りにある横断歩道を渡ろうとしたところで、隣にいた同じ学校の制服姿を横目に見た。この辺りで同じ制服の生徒をあまり見たことなかったせいで、ついまじまじと見てしまった。長義の視線に気がついたのか、スマートフォンから視線を外した隣にいた女生徒は長義の姿を見て、おや? という表情をした。
「あれ、君もこの辺の塾通ってるの?」
 女生徒はさも当たり前のように話し出した。普通なら一瞥をして無視されてもおかしくないのに。
「ああ、ごめん。うちの学校から、ここまで通うの遠いし、行く人少ないから、びっくりしたの」
 彼女はにこやかに続けた。
 信号は青で同じペースで横断歩道を渡る。歩幅は彼女のほうがやや小さい。水溜まりを避けながら歩く姿に、ここの横断歩道がやや水溜まりが出来やすいのを熟知しているらしかった。
「俺もびっくりしま、した」
 敬語にするか悩んで一応の形をとってみた。長義の学年では見ない顔だから、恐らく先輩なのだろう。そんな長義の様子に彼女はくすくすとし出す。
「もしかして一年生?」
「はい」
「私は二年。どうりで見ない顔なわけだね」
 大通りから駅改札へと続くターミナルを横切っていく。やや暗い路地を通ってきたせいか、目がちかちかと眩しい。
 傘を畳みながら改札を抜けると、たまたま彼女と路線が一緒だった。
「路線も一緒なのに、今まで見かけなかったなんて」
「最近、転入してきたので」
 夏休み明けに転校してきたばかりだった。塾も転校と同時に探し直して通い始めたばかりだ。
「あっ、じゃあ君が一年で最近噂になってた子?」
「噂って……」
 知らないわけではない。高校生にもなって転校生となればそれなりに目立つし、たまたま地元に帰ってきての転校だった。
「顔がきれいな男子が一年に転校してきたって聞いてたの」
 彼女の納得した物言いに、長義も成程と納得した。女生徒らしい反応だった。見目のいい人間に興味が出るのは、学年問わないらしい。
「先輩に褒められるなんて、嬉しいですね」
 お世辞そのままに返した。人から賛辞をもらうのは悪い気はしなかった。
 そのまま適当に世間話でもして過ごそうかと頭の片隅で考えていた時だった。
 電車が到着し、人の流れに合わせて乗り込む瞬間。隣にいた彼女は目を丸くし、それから興味が失せたような表情になった。
「随分いい子ちゃんのお返事をするんだね」
「なんのことでしょうか」
「いや、横断歩道で視線が合っときに、もっと地が強いのかと思ったからね」
 一瞬のことなのに、読み取られたことが恐ろしい。
「……あれ? 間違ってたかな」
 余裕そうな彼女は長義が黙ったままを肯定とは受け取らなかった。
「先輩がそう思うなら、そういうことにしておいてください」
 それが長義に残された言及もしない断り方だった。
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0422配信
初公開日: 2020年04月22日
最終更新日: 2020年04月22日
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