あれから伏黒くんと会うのが恐怖で仕方ない。あの謎の告白は一体なんだったのか。できればもう二度と経験したくないものだ。そして五条先生を咄嗟に好きだと言ってしまったけど、五条先生伏黒くんに何か言われてないよね?
「ねえー。名前僕のこと好きなの?」
「……」
五条先生はため息をつきながら私に聞いた。私は数秒考えたあと、「なぜそんなことを聞くのですか」と聞き返した。
「いやー恵がさぁ」
「はい」
「名前がなんで僕のことを好きなのか理解できないって」
「……」
「酷くない?僕一応先生だよ?みんなのアイドル五条悟先生だよ?」
私はだらだらと汗を流した。伏黒くん、ガチじゃん。本気じゃん。なんだかお腹が痛くなってきた。わたしからするとなぜ私のことを好きなのか理解できない。「ねーえー聞いてる?」後ろでぐちぐち文句を言っている五条先生を無視してぐるぐると考える。私伏黒くんに何かしたっけ。
「……えーん分かんない」
「なに?独り言?」
「あれ、五条先生まだいたんですか」
「ドイヒー」
...
外のベンチに座ってもう一度考えてみた。そういえば伏黒くんって私のことをよく見ていたな。なんで見てんだろ。そんなに見ていて面白いのだろうか。足元にあった小石を蹴ると、こつんと誰かの靴に当たる。ん?この靴は……。顔を上げると、伏黒くんが私を見下ろしていた。
「ふっ、ふしぐろくん」
さあっと顔に血の気が引いて行くのを感じた。伏黒くんはなんともいえぬ顔をしていて表情が読めない。
「ち、違うんだよちょうど小石を蹴ったら君の靴に当たったんだよ。決して君に当てようと思って蹴ったわけじゃ」
「俺避けるのやめてもらえませんか」
「え」
伏黒くんは早口で言い訳をする私の言葉に被せて言った。
「ほんとムカつきます」
「ヒッすみません」
どうしよう私伏黒くんに半殺しにされるんじゃないか。びくびくと震えていると伏黒くんは更に私を睨む。
「で、あいつのどこがそんなに良いんですか」
「あ、あいつ?」
声が裏返る。
「五条先生」
「っあ、あー。そうだね〜。背が高いとこ?」
「他」
「えっ…なんだろう……」
「……」
「あ!分かった!生徒にフランクなところ!」
これは五条先生の良いところだと思う。よく捻り出した私、と自分を褒めていると伏黒くんが私を凝視していることに気づく。
「なに?」
「先輩本当に好きなんですか?」
「え」
「全然好きそうに見えない」
「っあー…………」
あまりにも五条先生の良いところが無さすぎてもうバレそうだ。こんなことなら五条先生の良いところ五個ぐらいメモっておくんだったな。どのくらいかかるか分からないけど。へらへらと笑う私に対し伏黒くんは私を睨む。
「そんなに嫌だったんすか」
「なっ……なにがですか」
「俺の告白」
こくはく、言葉にすると生々しいものだ。思い出すとやはり背筋が凍る。何も言えないでいると、伏黒くんはため息をついた。
「無言は肯定と受け取ります」
くるりと踵を返す伏黒くんに咄嗟に「待って!」と制止させる。伏黒くんは私に背を向けたままだ。
「わ、わたしのどこがいいの」
凄く嫌な顔をされそうだけど聞いてみる。ごくりと生唾を飲んだ。恵くんは暫く制止していたが、ゆっくりと振り返る。
「……言ったら付き合ってくれるんすか」
「え!?」
吃驚する私に対し伏黒くんは一歩近づいた。
「その」
「その?」
「そのバカっぽい顔」
「……え」
「好きっす」
「……」
正直女の子らしいとか笑った顔が可愛いとか言ってくれるのかと思っていた。しかしアンサーはバカっぽい顔だ。伏黒くんは恥ずかしいのか耳の裏をぽりぽりと掻く。私は口を尖らせた。
「付き合わない」
ぷいと顔を背ける私に「はあ!?」と苛立った声を上げる。
「わざわざ言ったのに」
「どちらかというと聞きたくなかったよ」
「聞いてきたのそっちじゃないすか」
「少女漫画読んで出直してきて」
「はああ!?」
声を上げる伏黒くんを無視して立ち上がる。
「あとわたしはビルゲイツと結婚するって決めてるから」
「本当に行き遅れますよ」
「うるさいな!」
行き遅れたって伏黒くんがもらってくれるんでしょ。それなら夢見たっていいじゃない。乙女心を分かっていない伏黒くんにもう一度顔を背ける。じわじわと遅れてやってきた頬の熱に私は気づかないふりをした。