「うん?せりがまだある。お隣さん、残しておいてくれたんじゃなぁ」
「こっちはこごみ。少ししてから食べるなら、あく抜きを忘れんように。」
「雑草に見えるか?…あはは!一つづつ覚えていこうな。」
お前さんはとびきり器量良しだから。と、自分よりすこしだけ大きいくらいの手で頭を撫でられる。
「採るのは食べる分だけ、いいか?山は皆のもの。」
山菜が三分の一背負い籠を覆ったくらいで、んしょ、と少し勢いをつけてから立ち上がり膝と手の泥を払う。茜の空の遠くを見るようにしてから、明日は晴れるし、ヒヨも呼んで、少し奥まで行ってみようか。とこちらへ笑いかけてくる。
今日はてんぷら。
息が上がった行きの山道も、下りになるとすぐだ。
彼女は何でも知ってる。
今晩の献立は台所に立つ彼女次第だから、しょうがないとして。
山の歩き方、料理のコツ、魚を針に引っ掛ける方法、雨の降る合図。
私が、まだ手を繋いで家に帰るのを少し嬉しく思っていることすら、きっと彼女は知っている。
下り坂では少し早足になる。隣で揺れる籠と、揺れる呼吸に少し目をやった。
「…もうすこし、ゆっくり歩きませんか。」
「ヒヨ~?置いていくよ~」
「まって!まってください、ぽんぽんがあったの!」
ぶち、と自分よりすこしだけ小さいくらいの手が、みずみずしい青の茎を握り締めて、引きちぎる。
たんぽぽの綿毛を手に入れて随分とご満悦な様子。ふう、ふう、息を吹きかけてすっかり白のぽんぽんに夢中になるヒヨの手を引き、山道を少し先に行ってしまった姉に追いつくべく少し足をはやめた。
そのくらいたくさん道中に咲いているのにな…。優しく撫でるように吹く息では種は飛ばなかったらしく、今やぶう、ぶうう!と頬を膨らませてまで必死に綿毛の相手をする妹に、少しそう思わないでもない。
…狭い歩幅だ。
「…ヒヨ、かごをしょってください。姉様に追いつかないと。」
籠を小さい背中にひっかけて、妹ごとおんぶしてしまう。
きゃっきゃ!高くなった視界と、いつも背負わせてもらえない籠にはしゃぐ妹。別にいいけれど…
あれだけ足止めさせられた綿毛は、すでに興味の対象外になってしまったのか。すっかり後ろの方で捨て去られているようだ。
「ヨリにいさま、はやくー!ねえさまときょうそう!かって!はしってー!」
…はぁ…、とこっそり小さく肩を落とした。
「よし…少し休憩!ヨリ、ヒヨ、お弁当を食べようか」
「やったー!」
「…やった……」
お日様が真上よりも少し傾いたくらいだから、正午を過ぎたころか。まだ幼い女の子とはいえ、自分と数年しか変わらない人間ひとり背負って山を登ったのだ。…なんだか男児が廃ってしまう気がして、意地を張ってここまでヒヨをおぶってきたわけだが、もう膝がぐらぐらして限界。柔らかいのであろう陽の光でさえ、目の前を眩ませるように感じる…。
木が多く茂る森の入り口と、背丈の低い若草が覆う草原の間のような場所。日陰になっていて気持ちよく風も通る。とても良い休憩場所。
恐らく景色も良いんだろうがそれよりも、座り込んだことで体重から解放できた足と、水筒に入った冷たい水が何より嬉しい…
「今日のお弁当は~…じゃん、八尺おにぎり!はい、梅干しがいい人~?」
ぶはぁ!と、今度は水分に夢中で疎かになっていた酸素を取り込む。
振り返ると姉と妹は八尺おにぎり…花火の八尺玉に見立てた、いつものおにぎりよりも大きな丸いおにぎりだ。それを既に膝に広げていた。梅干しは…あぁ、すでに売れてしまった様子…。
「…ヨリ、お前さん、おかかでもいいかい?」
「かまいません、ありがとうございます。」
おにぎりを受け取ると、中身を見分けるためだろうか…小さな煮干しが一匹、頂点に突き刺さっている。…思わずふふっ、と笑ってしまった。おかかだから魚か、それにしても他にあったろうに。
「「「いただきます」」」
手を合わせてから、八尺玉へかじりつく。
…おいしい…
姉は料理がうまい。それに、お腹がぺこぺこで、たくさん歩いてへとへとで…美味しくないわけがない。夢中でばくばくと食べていると、子供っぽく妹の頬にはりついた米粒を取ってやったりなどしていた姉が、今度はこちらの隣へ移動してきた。
「うまいか?」
こくこくこく、と食い気味に頷けば、ひどく嬉しそうに、そうかそうか!と笑った。
「なら、良いものをやろう!目を閉じて。…ん。それから口を開けて…もう少し。…よし」
言われた通り、目を閉じて、口を開けて…
「………ぅむ"?!」
何か、と思っていたら、急に口の中が何かでいっぱいになった。驚いて思わず目を開けると、ころころと腹を抱えて笑う姉が居た。…??…口のこれは……米…?
「あははは!ふふふ……はぁ…!…ヒヨの面倒を見てくれていたろう?これはそのご褒美。ありがとうな。」
ヒヨには内緒にしておれよ?と、とんとん、ご褒美でいっぱいになった頬袋を指でつついた後、口の横から何かをつまみ取って…
…あ、米粒…
口の中に広がる梅干しの味。…絶妙に恥ずかしいやら悔しいやら不思議な気持ちになって、まだ飲み込みきれていないのに、はぐ、とまた一口八尺玉をかき込んだ。
くそ…まだ子供扱いされてる…。
着地点isどこ