「叶くん」
「はい」
カレの視線はPCのディスプレイに注がれたまま。ま、そのくらいの距離感が心地いいかもね。
「アタシさあ、カップ麺にお湯注いだんだけど」
「はい」
「いまから3分間、アタシは何も計らないから、叶くんの体内時計に合わせるね」
「待ってください」
40分ぶりに目が合った。
「それ僕の責任になるんすか」
「のびたらこの家に火つける」
「ひどい。ここ赤羽さんの家でもあるんですからね」
「9割キミの財布から家賃出てるからセーフ」
「クズいなあ……」
自分でもそう思う。でも言わせてるのはキミだよ。キミがぜーんぜんアタシに構ってくれないから。始終べったりってのも好きくないけど……同棲生活、慣れすぎじゃないかな?
「ほら、もう30秒くらい経ってるよ」
「でもぉ、それ僕が時計見て計っても―」
「ダメだよぉ! はい、目ぇ閉じてー、アタシの声だけに集中してー」
「始まりましたね赤羽葉子のASMR」
「そーゆーのいいから! 集中!」
「じゃあ……んっん!」
咳ばらいをして目をつむる叶くん。カレってしょっちゅう咳をしててもはや気にならないレベルなんだけど、咳をするときだけ声の低いところが出てて実は好きなんだよね。
……会話の止まってしまったアタシたち。目の前にはカップ麺・オン・テーブル。それを挟んで座っている叶くんを見上げる。大丈夫かな。ちゃんと数えてくれてるかな。寝落ちしてないよね。
「……ここ2分っす」
「あ、そー……」
叶くんが言うんだから間違いない。根拠はないけど、カレの声には人を不思議と信じさせる謎の魅力がある、と思う。声質の問題? 積み重ねてきた実績? たぶん、心理学の領域だ。
さあ、そろそろ3分が近づいてきたんじゃないかな。
「……」
「まだですよ」
「……」
「まだです」
「……もう限界だよっ!」
「あと5秒待ってください! 3、2,1、はい食べごろ今‼」
「いただきゃす!」
フタを開ける、お箸を突っ込んでぐるぐるとかき混ぜる、いざ実食!
「…………わ、分かんない」
「いや3分っすよ」
「え、ちょっと伸びてるかも!」
「そんなことない!」
どたどたと扉の向こうへ消えていったと思いきや、叶くんのマイ箸を右手に携えて戻ってきた。
「あげないよ! これアタシの!」
「いやひと口だけだから! ちょっと確かめさせて……ほらこれ! これ3分の味!」
「3分の味ってなんだよ!」
思わず笑ってしまった。なんでキミそんな必死なんだ?
「ま、3分の味も4分の味も変わんねーや、きっと」
「じゃあなんで僕のこと試したんですかー、うりうり」
頬をつんつんされる。やめろ! よーこがまだ食べてる途中でしょうが!
「んー、だってさー、キミと遊んだこの3分や4分がアタシは欲しかったから……」
「そんなこと言って……」
「えへ!」
珍しく照れて反応に困っている叶くんを肴に麺をすする。美味い!
「今度絶対仕返ししてやる……」
え! やっぱりこの人怖いよ!