ビィービィービィー。
白い壁、白い床。白いシーツに白いカーテン。全てが白の無機質な部屋に、これまた無機質な電子音が鳴り響く。音の発信源は片手で握れてしまう程小さい長方形。どこか懐かしい小型機器。
ビィービィービィー。
それは、清潔なベッドに横たわるつぐみの額の上で小刻みに震えながら喚いている。
コトリ。小型機器はつぐみの額からベッドシーツに落ちる。それでもなお、喧しさは変わらない。
「はぁ……」
つぐみは重たいまぶたをなんとか押し上げる。右耳の鼓膜が悲鳴を上げているのに身体は動かない。脳内には、先程から焦りと怒りと呆れの感情がガンガン伝わっている。低気圧が近づいているあの時に似ている。
「ふぅ……」
本日二度目のため息が漏れた。つぐみは左腕だけを布団から出すと、器用に小型機器を摘み脇のスイッチを押す。
静寂が訪れた。少なくとも常人からすれば、彼女の部屋は静寂そのものだ。ポケットに入るサイズのあの機械以外、電子機器と言えるものはない。狭い部屋にはスチールパイプのベッドが一つ。木製の机と椅子、姿見、少しの衣類と一冊の本が置かれた棚。ずらり白衣がかけられているハンガーラック。歩くスペースは僅かながらある。
「煩いなぁもぉ」
つぐみはベッドから跳ね起き、乱雑に白衣をラックから取ると寝巻きの上にそれを羽織り、小型機器を白衣のポケットに突っ込むと欠伸を噛み殺しながら部屋を後にした。
「小巻博士、呼び出しには早く応じていただかないと困ります」
つぐみより幾分背の高い……青年と言うにはまだ幼い男性が眠そうなつぐみの背を押しながら歩いている。彼は士官候補生の隊服の上にまだ新しい白衣を着ている。
「仮眠室ならまだしも、自室でフツーに寝てたんだよー? 勘弁してぇ」
「そんなこと言ってられません! A-03とA-67のコロニーに異常が起きたんです。それに、博士に言われた通りにやったハムスターへの遺伝子導入が上手くいかなくて、それから隣の研究室で実験していたチョウザメに凶暴性が見られなくなったとか。あ、村田博士が探してましたよ。今思い出しました」
だから早く歩いてください、と彼は言う。
「えぇ、つまり何で私は呼び出されたの?」
「解剖です! 一〇ニ番が十五分くらい前に突然亡くなったので、今すぐ解剖しましょう」
緩やかなカーブとなっている軍の宿舎の廊下。その真ん中でつぐみは棒のように立ち止まる。
「えっ! 嘘! 死んじゃったの?」
慌てて後ろを振り返り、彼の肩をしっかり掴むと彼女は叫ぶ。
「そうです、だからベル鳴らしたんですよ」
「どうしよぉ……! 死ぬところ見てない!」
つぐみは彼の肩をガクガク揺する。軍服を着込んだ何人かが、それを疎ましそうに見ながら横を通り過ぎた。
「だぁいじょ、ぶ、です」
彼はつぐみの小さな手をなんとか振り解く。
「心電図モニターは血圧に異常が出てから記録始まってますし、簡易的な録画ですが被験者を写してるものもあります!」
「そもそも、心電図がアラーム鳴らした時になんで私呼ばれなかったの?」