ブラックオアホワイトが終わってからというもの、アイドリッシュセブンの仕事は以前にも増して忙しくなっていた。この1年は新人アイドルとして活動してきたが、年末にブラックオアホワイト勝者となりその名前にもどどんと箔が付いたらしい。
当然、彼らをマネジメントする紡の仕事量も比例して大きくなるばかりで。
「… やっと……おやすみ…」
外勤後事務所に帰社し、やっと本日最後であるデスク業務を終えるとくたりとデスクに首を垂れる。と、後ろから万理が「お疲れさま、よく頑張ってたね」紅茶を差し入れた。
―――明日は、久々のオフだ。
久々のオフ、とは言っても丸一日なんて取れる訳もなく。紡に与えられた束の間の休息は午前中のみだった。午後にはテレビ局へと赴かなければならない。
そんな短い時間を何に使おうか、紡はんん、と考える。あっという間に大晦日や正月を駆け抜けたかと思えばもう春はすぐそこまで来ている。新しい服だって買いたいし、この1年間まだこれといって特に手を付ける暇もなかった給料で奮発してバッグでも買ってしまおうか。うんうん唸った紡はやがてはたと思いつき、ようやくオフの使い道を決めた。
「こんにちは、今日はどういった感じにしましょうか?」
さらりと髪に触れながら正面の鏡に映る紡に話しかける女性。紡の決めたオフの使い道ーーーそれは、美容室に来る事だった。
「ええと…だいぶ伸びてきたので前髪と毛先を少し切って、後は朝スタイリングしやすいように整えてもらえると助かります」
「了解です。社会人…ですよね? 朝は早いんですか?」
「早い日もありますね」
なるほど、と美容師の彼女はイメージを固めているのか、相槌を打ちながら再び髪に触れる。
これからアイドリッシュセブンの冠番組やゼロアリーナのこけら落としへの出演を控える中で身嗜みを整えておこうと思ったのだ。新しい季節が訪れるから心機一転の意味も、含めて。鏡に映る自分は思ったよりも髪が伸びていて、それに気づかない程忙しい毎日を送っていたのだと改めて紡は思う。
カットケープをかけられた後は手持無沙汰になり、目の前にいくつか並べて置かれたファッション誌を手に取った。春らしくパステルカラーに彩られた誌面は眺めているだけでも楽しくて。ぱらぱらと捲りながらなんとなく春服の目星をつけ、今度のオフにでも買いに行こうだなんて考えていた矢先に見つけたページ。
「八乙女楽だ」
「!」
手を止めた紡に、後ろから声がかかる。
紡の開いたそこは、楽のインタビューが載っているページだった。春から始める新しい連続ドラマの宣伝に、女性向けの雑誌らしくファッションのスナップと共に自身の恋愛観に関するインタビューなんかが掲載されている。
「めっちゃカッコいいですよね、前のお客様もそのページで手を止めてました」
「そ、そうですか」
はは、なんてぎこちない笑いを紡は浮かべる。つい先日この八乙女楽と一緒に仕事をしたばかりだなんてーーーそして来週にも収録で現場が重なるだなんて、口が裂けても言えるはずがない。
紡は、TRIGGERのファンだった。TRIGGERがデビューを飾ったあの日、紡はまだ学生だった。大手芸能事務所である八乙女事務所からの大型新人アイドルだとあらゆるメディアで取り上げられ、その華やかなビジュアルと圧倒的なパフォーマンスは一目で紡を虜にしたのだ。
メディア越しで見る彼らは
「お、髪型変えた?」
かわいいじゃん、と