「もうお月見の頃合いですね」
良くんが空を見上げながら言った。空には満月に近い月が浮かんでいて、白く黄色く輝いている。
合宿施設にいる間、基本的に僕らは待機中という扱いだ。戦闘が起きれば僕らが優先的に戦場に駆り出されるが、そうでない時は少し暇を持て余している。だからイーターの出現率が低い時は、たまに指揮官さんがほんの少しの間、買い物に連れ出してくれたりする。それは近所のコンビニだったり、寮母さんのお手伝いだったりするのだけど、今回はコンビニで、近くのお店まで僕と良くんを連れ出してくれていた。
「コンビニにもお月見をコンセプトにした商品が多かったですし、俺も団子でも作ろうかなぁ」
「良くんのお家はお団子作るんだ?」
「ああ、莉奈がお団子作るの楽しみにしてて。あれって小学生ぐらいの子供には凄く楽しいらしいんだよな。俺も覚えがあるけど」
「そうなんだ、僕お団子作ったことないなぁ」
「じゃあ慎、一緒に作るか?」
「えっ、いいの?」
「ああ、手伝ってくれると嬉しい」
良くんが笑った。じゃあ、色々と教えてくれると嬉しいな、と返すと簡単だから教えられることなんてないけどな、と照れたように眉を下げた。
「せっかくだからなんかちょっとだけ凝ったものにしようかな、中にサツマイモ入れるとか」
「あ、凄く美味しそうだねそれ」
「よし、じゃあ明日それ作ろう」
良くんがウンウンと頷いている。僕はなんだかワクワクして明日が待ち遠しくなった。
翌日。お昼ご飯を食べたあと部屋でくつろいでいると、良くんがメッセージアプリで僕をキッチンまで呼び出した。キッチンに降りて行くと甘いサツマイモの匂いが漂っていてそわそわする。作業場を覗くと、白い団子の粉とサツマイモ、大きなボウル、ふるいなんかがテーブルの上に並べてあった。それらをしげしげと眺めていると、良くんが腕まくりをしながらサツマイモを指さした。
「俺、サツマイモの餡を作るから、慎は団子作ってくれないか」
「うん、分かった」
サツマイモはホクホクにふかされてほんのりと湯気が立っている。それを良くんが手で皮を剥いていく。僕は良くんに説明を受けながらボウルに粉の重さを計って入れて、カップで計量した水を入れてそれらを混ぜ合わせた。
「ちょうどよかったら耳たぶぐらいの固さになるから」
「耳たぶの固さ……?」
「なんかこう、若干固いけど柔らかい感じっつーか……」
良くんがサツマイモの皮を剥きながら説明してくれるが、よく分からない。一度自分のを触ってみようかと思ったが、お団子をこね始めてしまったので自分の体のどこかを触るのははばかられた。。
「一旦手洗って確かめてみるか?」
「ううん、とりあえずある程度お団子がまとまってからにするよ」
まだ全然まとまっていないお団子の粉と水を混ぜながら答える。そっか、と返した良くんの方はサツマイモを剥き終えているようだった。ボウルの中に剥いたサツマイモを入れると、すりこぎで押しつぶしていく。ある程度押しつぶし終わったら、今度はふるいに入れて上からギュッギュッと押してこしていく。こうすると口当たりがなめらかになって美味しいらしい。
僕の方もお団子の粉がまとまったので、一旦手を洗って自分の耳たぶを触ってみる。恐らく生まれて初めて固さを意識しながら触った自分の耳たぶは、思っていたより柔らかいような、固いような、変な感じだった。これと食べ物の固さが全然結びつかない。しばらく悩みながら耳たぶを触っていると、あんまり気にしすぎなくていいぞ、と良くんが声を掛けてくれる。
「一番最初にお団子の固さと耳たぶの固さを結びつけた人って凄いな、全然結びつかないよ」
「ハハハ、分かる。俺もなんで耳たぶ? って思ったもん」
もう一度手を洗ってからお団子の固さを確認する。ぐに、と指で押しつぶしてみるものの、さっきの感触とは全然違うように感じられる。お団子の粉はお団子の粉だし、耳たぶは耳たぶだ。うーんと唸って悩んでいると、サツマイモをこし終わった良くんが来て生地を少しつまんで確かめた。
「ん、ちょうどいいな」
「僕全然分かんないや」
「もうなんつーか、慣れだからな、こういうのは」
そういうものか。僕は頭にはてなマークを浮かべながら、耳たぶの固さらしいお団子の生地をつまみあげた。
「じゃあ、適当な大きさにちぎって中にこのサツマイモ入れてってくれ」
「うん、分かった」
お団子にちょうどいいぐらいの生地を取って、少しだけ丸めて中心をくぼめて、その中にサツマイモの餡を入れていく。最初は全然うまくいかなくて餡が表に出てしまったり、大きく作りすぎたりしてしまったけど、段々と慣れてきてちょうどいい大きさできちんと包めるようになった。
いくつか作り終わったところでふと良くんの方を見ると、僕の倍はお団子を作っていてびっくりする。早いね、と褒めると流石にお団子初心者の慎よりは作れねーとな、とくすぐったそうにした。
それをグラグラと沸くお湯に入れて浮き上がるまで茹でる。そうすればお団子の完成だ。お湯に沈んだお団子はしばらく経つとぷかぷかと浮き上がってくるので、そこをあみじゃくしで掬って水の中に移していく。薄くサツマイモの黄色が透けて見える熱々のお団子はとても美味しそうだった。僕が失敗してしまった、サツマイモが外に飛び出たお団子も、マーブル状に混ざっているように見えてなかなか美味しそうだと思った。
「味見してくれるか? 慎」
そう言って良くんがひとつ取り分けてくれた。湯がきたてのお団子を指でつまむとまだ温かい。水に浸かったプルプルのお団子は、モチモチとした食感とサツマイモの優しい甘い味がして、なんだか秋の味がした。凄く美味しいよ、と良くんに伝えると、そっかよかった、と良くんが笑った。
そのお団子はその日のおやつになって、みんなに食べてもらった。みんなが口々に美味しいよと言ってくれるので、なんだかくすぐったくて、嬉しかった。良くんもこんな風にくすぐったい気持ちになるんだろうか。今度良くんが晩御飯の担当になった時には、たくさん美味しいよって言ってあげようと僕は思った。
完成!した!か!??!?!一応完成ですありがとうございました!!!!!