1
主から「きみにぴったりのお菓子をあげる」と言われ、渡されたのは、なんともきらびやかな包装にくるまれたものだった。文字色が黄色と緑で書かれていて、人間の目を持つ今の僕からすれば、なんとも視認性の低いフォントだった。なるほど、これは既に「人を選ぶ」という意味では、僕のなんとも人と話すときにうまくいかない感じに似ている。外面の時点で、「ぴったり」感があるのはなんとも面白い、と思った。それ、開けてみるか。袋から取り出してみたるは、プラスチックのトレイ、銀色の袋が出てきた。パッケージ裏に「説明」が書かれているので、それを読むと、どうやらトレイの一部を切って、使うらしい。ふむふむ、刀にも説明書きが最初から存在していれば楽なのに……と益体もないことを考えながら、「一番の粉」をトレイに流放り込む。トレイの一部を切ったのは、水の分量をはかるために必要なようで、粉の入ったトレイに水を流し入れ、スプーンでかき混ぜる。紫の粉が水で膨らんでいく。そして、「二番の粉」を振りかけると、おやおや……色が変わったみたいだね! 練り切りのように彩鮮やかな「何か」が姿を現した。「何か」としか言いようがない。いつかにどこか舶来のお菓子――確か、グミ—―とか言われているものと同じにおいに感じるけれどこれはほんとうのところはどうなんだろう! ああ、こんなに面白い! おそらく、現代日本の色彩センスで言うなら「ピンク」色に仕上がっているではないか! 水を含んだ粉たちは、みるみる膨らんでいき、グロテスクとしか言いようのない何かが完成した。「説明」を見ると、添えてあるキラキラしたものとともに食すのがいい、のだという。……そうだ。これは絶対に食べてもらわなくては。
「肥前君、こっちに来てくれないかな」
僕がにこにこ笑いかけながら手招きすると、
「……厭な、予感がする……」
肥前君はひきつった笑みで対応してくれた。つれないねえ。
「ほら、僕がお菓子でもてなしてあげるんだから、もっと嬉しそうな貌をしてよ」
「直感で分かった。それは、南海先生の、それは、口に合わない……っ」
「主が僕に似合うってくれたもの、なのにかい?」
「うっ……主を盾にとるんじゃねえ」
かぶりを振りながら、イヤイヤをしながらも、しぶしぶ僕のもとにやってくる肥前君はやはり人のいい刀だと思う。
「それじゃあ、食べてもらおうか!」
うっ、という声が漏れたのを気にせず、僕は肥前君の口元に「それ」を突っ込むと。
「まあ、食べれないことは、ない、が……」
食を粗末にすることにうるさい肥前君は味は最低限のクオリティを保っていれば食べてくれるのだ。
「が……ってなにかな?」
僕はまじまじと肥前君の瞳をみつめると、肥前君の眼はやや怯えの様子を見せた。
「これ、今剣たちが食べているの見たことあるけどよ、なんつうか、子供用の駄菓子っていうか、先生のことを主は見くびっているんじゃねえかって不安になってきた」
「馴染みやすい刀である、ってことじゃないかな?」
なんとか己を鼓舞しようとするけれど、
「いや、明らかに馴染みにくい色と味だろ!」
と肥前君に一蹴されてしまう。
「そんな……」
しばし、僕は衝撃を受けて寝込んだ。
2
翌日の僕はといえば。
「肥前君、こっちにおいで」
今日も今日とて、肥前君を呼び出す。寝ぼけ眼に呼び出されたので、苛ついているのかちょっと舌打ちも聞こえた気もするけれど、僕の顔を見てちょっと安心したような顔にすぐに変わった。もしかして、僕が丸半日部屋に引きこもっていたことを気にしてくれたのだろうか?
「なんだよ、先生」
「今度は別の作品を持ってきたんだ、食べてくれないかな?」
途端に厭そうな顔になる肥前くん。
「もう、『お菓子』って呼んでねえじゃねえかよ」
「いや、これは練り切り並の芸術的作品だと思うんだよ!」
すると、頭を抱える肥前君。
「……先生って、自分で作った料理を毒味しないタイプだもんな……」
「なにか言った?」
「いや……でもいいのか? 見くびられているみたい、なんて思っちまったけど、ほんとうのところ、主はどう考えているのかなんてわからねえし」
こういう時、僕は笑顔でいるのが一番だと思った。
「こういう研究しがいのある奥深い刀である、と思われたみたいじゃないか。肥前君は優しい刀だからね、心配ばかりかけてすまないね。ありがとう」
「……っ、先生が謝罪とか感謝とか、明日雪でも降るんじゃねえか?」
こうやって、なんでもなく過ごす世界もまた、楽しいと思わないかい?