レギュラスは微笑んだ。
 暗い水の底から這いあがることもなく、もがき苦しんであっけなく死んだ。
 暗い暗い水の底で、目を閉じて、レギュラスは微笑む。
 嗚呼、どうか。あの人が、ずっと自由でありますように。そんなことを思っていた。
「それなのに、まったく逆の事態になっていて、どういうことなのですか、兄上」
 額と額をこつんとあわせ、上目遣いで問うと、レギュラスの兄、シリウスは不貞腐れた顔になった。
「先に死んだお前に言われたくない」
 シリウスは、レギュラスより十年以上後になって死んだが、二人の見た目にたいした差はなかった。揃って十代のそれである。きっとそれは、二人が一緒に居られた時間に関わっているのだろう。
「じゃあいいです。遅かったですね、と言って差し上げます。兄上の唯一の欠点ともいえる粗忽さが、まあ予想通り命取りになったわけですが、直されていたらここへ来るのがもっと遅くなっていたと思うと、兄上のそんなところも愛嬌に見えますから、兄上はやはりずるい人です」
「素直なのか素直じゃないのか」
 シリウスは呆れた。レギュラスはむすっとする。
「これ以上になく素直でしょう。というより、褒めてませんから」
「俺が言ってんのはそこだっての」
 可愛い可愛い弟め。シリウスは堪え切れずに笑った。
「遅くなって悪かったよ。本当はもっと遅く来るつもりだったんだが」
 ぐりぐりと、額を揺らす。
「僕をいつも置いていく、兄上らしい言葉です。反省が見えません」
 レギュラスは明らかに拗ねていた。ぐりぐりと押し返してきて、シリウスは吐息と共にまた笑う。
「置いていったのはお前だろ」
「更には厚顔無恥ときました。流石は兄上です。グリフィンドール生徒らしい」
 お互いの視線の先で、手と手が振れ合った。何とはなしに指を絡め合う。
「お前はスリザリンらしく話を挿げ替えるのが上手い」
「どっちがですか。ご自分で鏡を見てみたらどうでしょう。顔に出てますよ」
 厭味ったらしいそれに、シリウスは思わず顔を顰めた。だが、シリウスの死因をしてそう言うのだから、兄が思うよりレギュラスは怒っているのかもしれない。
「分かった分かった。俺が悪かった。お前を置いていった」
 今回ばかりは分が悪いと悟って、シリウスは肩を竦めてホールドアップの真似事をした。そうすれば、レギュラスは寧ろ、意固地になっていた心が浮いてしまって、決まりが悪そうに目を逸らした。
「兄上は、ですから、ずるいんです。酷いお人だ」
 あの時の、裏切られたという気持ちは、すぐに消えた。
 元から分かたれていたシリウスの思想は、組み分けによって決定的なものとなり、ブラック家にあった一縷の望みも、シリウスが家を出て行ったことで完全に潰えた。
 レギュラスは純血の誇りを、家族の期待を一身に背負ったけれど、それがシリウスを自由にするのだと思えば重圧にもならなかったから。結局、弟のレギュラスを見ていないようで、今こうしてシリウスがレギュラスの傍に居るように、兄はレギュラスを見ていてくれていたことを知っていたから。
「ご友人にお別れを告げられなくて残念でしたね」
「今更だ」
 シリウスはレギュラスの気持ちを分かっている様に、微笑んだ。
「それに、これからは一緒なんだから、その言葉はもっと後になるまで取っておけ」
 それは、まるで。
 宣言のようで。
「そう、ですか」
「そうだ」
 死して得た未来。
 兄弟は、泣いて、また笑った。
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お題:さよならの向こう
初公開日: 2020年04月04日
最終更新日: 2020年04月04日
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コメント
黒兄弟の二次です。迷走してます。
えふごとシノアリクロスオーバー「人魚姫と作者」
タイトル通りのクロスオーバー。この二人で書いてみたかったので……話の展開とか何も考えていないのでとん…
リュックでか子