窓ガラスの外が薄暗くなったと思えばぽつぽつと窓を叩く雨粒の音に顔を上げた。音からして大粒の雫が降っているのだろう。雨に打たれた薄紅の花弁が散る光景が儚く、美しく。著名な歌人が儚さに美を見出した情景を身近に触れている気がして本を閉じた。
「桜流し、だね」
桜流し?と鸚鵡返しをする僕の髪を掻き混ぜた節ばった指の心地よさに猫のように目を細めたのにくすりと笑って彼は言葉を紡ぐ。言葉の意味を説明し終えた彼は息を吐き出してぽつりと一言。
「儚くて……美しい光景だ」
「そうですね」
本心からの同意を返してからはたと閉じた本に描かれた桜の魔性に魅入られた男を思い出す。行動力がある彼に僕のエゴで足枷をかけることは望んでいないけれど、せめて今だけは、彼が何処かに行ってしまわないようにカーディガンの裾を握り締めた。 [了]
できた!おわり!
カット
Latest / 17:54
カットモードOFF
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
てすと
初公開日: 2020年04月04日
最終更新日: 2020年04月04日
ブックマーク
スキ!
コメント
zat夢文庫版書き下ろし原稿
「雑渡昆奈門と先見の仙女」のイベント頒布用文庫本の書き下ろし用の話。
砂凪