第五代ローマ皇帝ネロの家庭教師を勤めたローマ帝国の政治家であり哲学者でもあるルキウス•アンナエウス•セネカは言った。仕事は高貴なる心の栄養なり、と。フランスの博物学者であり『昆虫記』を記したジャン=アンリ•カジミール•ファーブルは言った。一分間さえ休む暇のないときほど幸せなことは無く、働くことだけが生き甲斐であると。日本にもことわざとして古くから親しまれている働かざる者食うべからずとは、元々は新約聖書の一説らしい。
なるほど、先人たちの言うことは正しい。仕事とは自らを沸き立たせるための栄養分であり、生き甲斐であり、働かないと飯が食えない世の中なのだ。だからこそ、教師として働きだした俺も一言言うとしよう。
仕事なんてクソだ。
しゅう、と電車のドアが開く音て俺は目が覚めた。肩からずり落ちる鞄に気付いて慌ててそれを持ち直すも、もう遅い。つり革から手を離した瞬間に俺は後ろからの圧に流されるように電車の外へお押し出される。
「うわ、と、と、」
人一倍体格のいい俺がここで止まって仕舞えば、自分は無事でも相手が怪我をするかもしれない。俺は流れのままに電車から一歩、二歩と離れていく。そして流れを避けるように横へ避けて、もう一度乗り直そうと振り返った瞬間目の前でドアがしまった。
嘘だろ、という俺の言葉を置き去りにして電車は去る。呆気にとられた俺が気を取り戻したのは電車がすでに去って、俺の隣にまた人が並んでからだった。やや重い足取りで時刻表を観に行くと、次にくる電車は三十分後だった。
時計の針は午後六時三十二分を示している。突きつけられた現実に俺は思わず頭を抱えてため息を吐いた。
よりにもよって下りた駅が悪かった。こんな何もないような駅でおりることになるなんて……
三十分後に電車が来るとすると、家に帰れるのは八時近くになる。そこから飯を食って風呂に入って明日の授業の用意をして部活の準備をしてとなると、寝れるのはいったいいつになるのやら。
「ありえねぇ……」
本来ならこの三十分で夕飯が食べれたのに、と項垂れる。が、すぐに気を取り直してすぐ近くの階段を上った。このままここでぐずぐずしているほうが時間の無駄だ。それならこの近くで夕飯を済ませた方がいい。二段飛ばしで階段を駆け上がって改札にICカードをタッチさせる。
駅の近くなら居酒屋の一つか二つあるだろう。ここで飯を食っていけば後は
地下の階段を上がってから
風が吹く。するとその風に吹かれて俺の足元に一枚の紙が飛んできた。一枚の紙はカサカサとつま先をくすぐる様に動いている。拾おうと腰を屈めると同時に前から「すいませーん!」と元気な声が聞こえて来た。そして声に続いて聞こえる軽快な足音。
「ごめんなさい、拾って貰っちゃって…!」
「別にいいって、これくらい」
足音は俺の目の前で止まる。可愛らしい黄色のスニーカーに白の靴下。肌色の健康的な足を見て子供か、とすぐに感じた。
「ほらよ」
そう言って拾った紙を彼女へ差し出し、俺は目を見開いた。
「ありがとうございますっ!」
その紙を彼女が手に取る。同時におさげに結った金色の髪が揺れる。はにかんだ顔と相まってきらきらと星が瞬いたようだった。
服の説明
「あの、どうしましたか?」
「いや、何でもねぇ」
年甲斐もなく、十は年下のガキに見惚れてしまった。
「こう……いや、中学生か?こんなとこで何やってんだ」
「あ、一人じゃないです!