- Banri -
「万ちゃん、もうすぐ始まるッスよ!」と声をかけられてスマートフォンから顔を上げた。今日のブラウォーのデイリークエストをやっとクリアしたタイミング。
寮ではいつの頃からか、団員の誰かがテレビに出るときは集まれるメンバーでリアルタイム鑑賞会を行うというのが慣例になっていた。
ちょっと前までテレビに出演するメンバーは天馬ばかりだったけれど、最近目出度く至が追加となり、本日は初のレギュラー出演となった連ドラの第一回目。
ちなみに本人は不在で、自分と彼のマネージャーによれば絶賛撮影中らしい。
朝から番宣でワイドショーや情報番組などにも出演していたから、寮のHDDレコーダーは一日フル稼働である。
今日集まったメンバーは万里と太一、咲也、真澄、一成、左京、紬、東である。明日の朝食の仕込みをしているらしい臣はキッチンから参加だ。
最近みんなそれぞれで忙しくしていて、土曜のこの時間は舞台に出演しているか、観劇しているか、裏方として手伝いをしているか、と現場に関わっていることも多いし、バイトが入っているメンバーも多いから集まったほうだろう。
滅多に参加しない真澄がいるあたり、至も春組の一員なのだと実感する。
最近のお気に入りは左京の晩酌用のボンベイサファイアを勝手に拝借して、それをオランジーナで割ったカクテル。今日は本人承諾のもと万里の目の前に用意されていた。
隣に座った太一もコーラとスナック菓子という至セットをいそいそとテーブルに広げていて、準備万端である。
「それにしても茅ヶ崎のやつ、大した実績もねえくせにこんな注目枠でよく役がもらえたな」
「オーディションで勝ち取ったって言ってました! こんな大きな役獲れちゃうなんて至さん凄いですよね!」
左京と咲也の話を聞きながら、このドラマのオーディションを受けているころの至を思い浮かべた。1年前の話だというのに遠い昔のように感じる。
オーディションは退職の直前から行われていたので、至は引き継ぎで忙しい最中にどうにか有休をとって臨んでいた。
オーディション対策でカメラを意識した演技について何度も天馬に指導を受けていたし、深夜までレッスン室を使って稽古を繰り返して、傍から見ていてこっちがしんどくなるほどのめり込んでいた頃が懐かしい。
今思えば、あの頃の至は退職後のスケジュールを役者としての仕事で埋めようと、らしくないほど必死になっていたように思う。
そんな時に自分は、彼を応援しながらも、なんだか置いてけぼりになったような気持ちになって拗ねていたんだっけ。振り返ってみれば、完全に構ってもらえなくて駄々をこねる子どもだ。
思い出すと恥ずかしいやら情けないやらでいたたまれなくる。
そうこうしているうちにドラマが始まった。
主題歌は日本の若手ロックバンドのもので、パラパラと映写機のように短いシーンがちりばめられたオープニングは、白い衣装をまとったキャストがゆっくりとまばたきをする。
映像のスピードが遅くなったり早くなったりして一定でないので、目が離せない。
至の青白く見えるほど白いまぶたから、あの瞳が現れ、強い意志をまとったそれと目が合った瞬間に痛いくらい心臓が掴まれた。
こうやって何度だって好きになる。そして好きになるたび、怖くて、悔しくて、ずるいと思う。
自分がこんな風に考えていることなど、彼は知らないだろう。
「オープニング神ってる!やばたん!」
「へえ、ゆるめのドラマなんだろうが、オープニングは若者向けにしてあるな。センスもいい」
「至さんカッコイイっす!」
各々が好きに感想を述べ合う中、万里は妙な既視感を覚えていた。
「……あれ」
「え、……あ!」
ほぼ同時に隣で咲也が声をあげる。視線を向けるとばちっと視線が合った。
「万里くん、今三澤さんいなかった?」
「……やっぱお前もそう思った?」
くるくると画面が切り替わる構成上よくは見えていないので確信はできないけれど、至の次に映った女優の顔に見覚えがあった。
一成が興味津々、と言った様子で、向かいからこちらに身を乗り出す。
「え、なになに知りあーい?」
「一瞬だったから人違いかもしれねえけど」
「高校のときの同級生とそっくりでした!」
「マ? 公式サイトに情報乗ってるんじゃない? 」
手慣れた様子で一成がスマートフォンを操作するのを待つ間に、グラスに口をつけた。オレンジピールの苦みごとごくりと嚥下する。なんだか嫌な予感がした。
「ミサワさんって女子?」
「はい。眼がまんまるの……」
「んー、この子かな? 三門澪ちゃん?」
一成が俺と咲也に向かって、画像検索画面を表示した。受け取って何枚かスライドさせる。
見覚えのある印象の強い瞳と
「……マジか」
「あ、やっぱり! 間違いないです。芸名三門澪さんって言うんですね。知らなかった」
「花咲にこんな可愛い芸能人いたなんて知らなかったっす〜!」
「花咲だったらまっすーも知ってるんじゃない?」
「知らない。監督以外の女なんか興味ない」
「花咲って進学校じゃなかったっけ? 芸能活動両立なんてできるの?」
「えっと、三澤さん中学の頃からモデルやってたみたいなんですけど、花咲だとやっぱり芸能活動難しかったみたいで2年になるタイミングで芸能科がある高校に転校しちゃったんです」
「高1のときはまだ三澤美央って本名で活動してたはずだぜ」
「万里くん仲良かったもんね」
「仲良かったっつーか……」
【以下ざれごと】
見えてますかね?不安だわ。
このサービスの何が不安ってサービス名のフォントが不安。ぜひ変えていただきたい。