私の耳は貝の殻
「海、行こっか」
津美紀と言い合いをしているのを五条に見つかった。アパートの部屋から放り出されていつものように物理だけで吹っ飛ばされるという直前のところで、俺を放り出した本人が思いついたように言った。海にでも鎮められるのか。五条の突飛な言動にさすがに怖くなって「はあ」と反抗とも返事ともつかない声を出すと「決まり!今から海で~す」と突然上機嫌になった。
「津美紀ぃ、今から恵と海行くけど来るぅ?」
2階にある玄関からデカい声が聞こえてきて、ややあって「今日は課題多いからダメだって」と残念そうに言いながら五条は階段を下りてきた。俺だって明日の課題も朝から授業もあるが。そんなことを言っても「そうなの?じゃあやめよっか」となる両親も常識も五条にはないし俺には適応されない。
どうやって今から海まで行くのだろうと思っていたら腕を掴まれて、風が吹いたから目をつぶったら潮のにおいがして、次に目を開いたら目の前が海だった。術式で移動したのだろう。とっくに五条の腕は離れていて、シャツの腕の所の、しわになったのが幽霊に掴まれた跡みたいになっていた。
「こういうのって車で行った方が、なんか、いいんじゃないすかね」
「なんかって……え~、そういうモン?」
「たぶん」
「じゃあ今度は車で来ようか、津美紀も一緒ね」
その今度は俺が吹っ飛ばされることが前提でないことを願いながら、そう遠くない日に来られるといいなと思った。俺が一緒かどうかはともかく、津美紀が行きたいと思っているならそれを叶えてやってほしかった。
そうして、俺は今日の言い争いの原因を思い出した。自分がどう考えたって悪くなかった。先日シメた中学の奴らが俺ではなくて津美紀に嫌がらせをしてきた。それを「ムカついちゃったから本人に言い返してきちゃった」というので、どうしてそんなことするんだと強く言ったら、お互いに留まらなくなったのだった。
俺だけが悪くないことでも五条さんは「こういうのは恵が悪いんだよ」と言って俺だけを吹っ飛ばし、津美紀へ謝ることを促した。五条にバレたが最後、「促す」なんて生ぬるいものじゃないし、慣れてきたのか津美紀もそれを止めようとしなかった。どうかと思う。
「たまにガラスとか落ちてるから触っちゃだめだよ」
「ガキじゃねえし」
「ガキじゃん」
砂浜というより砂利に覆われた海岸は、確かに美しい浜辺というより、それこそガラスやがらくたが流れ着いているような場所だった。朽ちた木もあった。
「なんでわざわざ海来たんですか」
「恵が行きたいって言ったんじゃん」
「マジで言ってない」
「ウッソだ~」
「いやマジで」
記憶の改ざんが激しい。
「何も喋らないで済むと思ってません?」
五条は何も言わなかった。何も言わずに、しゃがみこんで、ただ黙って海の方を眺めている。かと思えば、その辺を石を水切りの要領で海へ放り投げた。はるか遠くへ飛んで行った石は、たった一回で沈んだ。
「ちょっと」
「思い出したんだよ、こういうときは海だって」
「こういうとき」
「恵が喋ってくれそうにないとき」
「はあ」
言葉足らずなのは五条の方だ。
「よく来るんですか」
「いーや?」
「帰りは車で帰る?」
「