世界が滅びれば良いなんて戯言を呟いて空を見上げる。本当に世界が滅びたら、人類が滅亡したらなんて想像を頻繁にする。倒壊したコンクリートの建物が風に吹かれて砂煙を巻き上げる。血塗れの石や鉄骨なんかがそこら中に散らばってたりする。
 ――自分が死ぬ光景を想像することは無い。いつだって誰も居ない孤独な世界を想像している。これじゃ現実と何も変わらない。みんな消えちゃえば良いなんて本気で想っても無いことを呟いてみる。みんな消えちゃえば良い? なんで? そんなの簡単だ。ボクは幸せそうな奴が嫌いだ。明るい笑顔を振りまいても、その笑顔がボクに向けられることは無いからだ。そんな奴らが消えちゃえば、ボクは何も気にせず淡々と『生きる』ことが出来る。
「変だよ。女の子なのにボクなんて」
 きっかけなんて何でも良かったのかもね。人と少し違うという理由で人を傷付ける。それが正義だって顔で暴力を振るう。反撃は悪の象徴。見て見ぬふりをする奴らも、ボクが反撃したら一斉に攻めて来るんだ。
 正義を振りかざす心地良さにハマった人間の汚れた顔が大嫌いだ。虐めはダメとかよく言うよ。どの顔して言ってるんだ? 周りの人間もそうさ。正義を振りかざすくせに人を救うことをしない。傷付けることに躊躇が無い。
「お前が変なのが悪いんだ」
 変なのが悪いのか。あ~あ。世界がボク基準になれば全部上手くいくのかな? いや、そんな訳が無い。何でも良いからこの状況をぶち壊したかった。これほど拒絶され続けたんだ。少しくらいは救われても良いだろう。神様だって居るはずなんだ。少しくらい力を欲したって怒られないはずだ。
「なんて。本当に手に入るなんてね」
 何でも傷付けられる力。相手の足が吹き飛べば良いなとか、両腕が消えちゃえば良いのにとか。そんな他愛もない願いが具現化する。ボク含め人間はやっぱり愚かだ。一人潰してしまえば、今までの行いを無かったかのように貼り付けたような笑顔で話し掛けてくる。自分は仲が良いから助かる。なんて浅はかな考えで近付いてくる。馬鹿じゃねぇの? 助けを求めても見ないふりしてたのはお前らだろ。
「私は恋花れんかちゃんのこと、ずっと素敵な人だって思ってたよ! だから――」
 人の醜さと全てを消し去る力を身に付けた十四歳。孤独は加速していく。
「誰? キミ」
 スイカをコンクリートの上に落として割れた時の音だ。夏を感じるなぁ。
 月日は流れてボクも高校二年生。あれ以降、人を傷付けることはしなくなったけど、やってしまったことに変わりはない。相変わらず、周りはボクを避け続けている。そりゃそうだろ。気に触れれば即死。コンティニューの効かない一度きりの人生を意味の分からない奴にリセットされるのは嫌だもんね。
「恋花ちゃん! お昼行こ!」
 あぁ、そうだった。高校入学と同時に変な奴に懐かれたんだった。何度か力を見せたこともあったし、脅しもした。近くに居たらいずれ頃してしまうかもしれないことも。
「恋花ちゃんが私を殺してしまう? 面白い冗談だね!」
「冗談じゃねえよ。見せただろ? 簡単に人を消せる力があるんだよ」
「違うよ恋花ちゃん」
「は?」
『それっぽっちで私を殺せると思い込んでることが面白いの』
 笑顔を崩さず明るい声でそう言った。なんだこれ? 冷や汗が止まらないし、手や足も震えてしまってまともに動かせない。あぁ、恐怖ってこんな感じなんだって。何となく理解出来たよ。
「何が怖かったのか未だに分かんねぇけど。逆らわない方が良いか」
 言われるがままに食堂へと向かう。こいつはボクと違って周りからの信頼や友情関係が厚い。ボクと一緒に居ることにメリットなんか無い。本当に変な奴だ。
「恋花ちゃんは何食べる?」
「ランチセットで良いや」
「私、このパフェ気になってるんだよね」
「あ? 勝手に食えば良いじゃん」
「一人じゃ食べきれないよ。恋花ちゃんと半分こしたいな」
「……しゃーねぇな」
 別に食べたい物が決まってた訳じゃないし。仕方なく協力してやってるだけだ。別にこいつが怖いとかじゃない。
「てか、他の奴誘えば良かったじゃん。なんでボクを誘うんだ?」
「私が恋花ちゃんのこと気に入ってるから!」
「は? 別に気に入られるようなことしてねぇよ」
「絶対的な力を持って、人なんか簡単に殺せちゃうくせに私が怖くて何も出来ないところ」
「舐めてんじゃねぇぞっ!」
 振り上げた拳を見つめて笑顔を浮かべている。どこまでも気味が悪い。この拳を振り下ろしたとして、ボクの望む結果は絶対に来ない。どうなるのかは分かんねぇけど、それだけは言える。
「ほらね?」
「お前はボクが怖くねぇのかよ?」
「怖くないよ。恋花ちゃんは可愛いもん。お人形さんみたい」
 その言葉が何を意味してるのか。到底聞く気にもなれなかった。
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