爆発ボルトでハッチが吹き飛ばされたコクピットの中に体を滑り込ませ、コクピットユニットとヘッドセットを接続する。途端に、ヘッドセット内のスピーカーから甲高いノイズが溢れてきた。反射的にヘッドセットを脱ぎ捨てそうになるが、その手が途中で止まった。
ノイズではなかった。悲鳴だ。
『いやああああ!! やだああああ!!』
泣きじゃくる子供そのもののその悲鳴が、強制的にワンの脳裏にひとつの記憶を呼び覚ました。炎の匂い、押し寄せる熱気。それが撃ち落とされたドローンのものなのか、記憶の中のものなのかわからない。すぐそこまでドローンの群れが迫っている状況で、ワンは[[rb:飛虎 > フェイフー]]のコックピットではない別の場所にいた。異様に鮮明なフラッシュバックが、ワンの意識を過去に引きずっていく。
炎の匂い、押し寄せる熱気。そして――燃え尽きていくふたつの屍。
ワンは泣きじゃくる妹を抱えて、迫る炎から逃げている。耳を聾する爆音の中で、妹の、ルイリーの悲鳴がはっきりと聞こえる。
この悲鳴を忘れたことはない。
だが――なぜ、その悲鳴が今ここで聞こえているのか。
意識は過去に置き去りのままにワンの指は半ば無意識的に動き、機体の状態を確認する。
ノイズまみれのHMDの画面には真っ赤なアラートメッセージが溢れ、まるで燃えているよう。
データボックスに仕掛けられていたのは[[rb:論理爆弾 > ロジック・ボム]]だ。データボックスに不正接続したシステムに[[rb:逆 > カウンター]]ハッキングを仕掛け、対象のシステムにワームを送り込んで破壊する。
[[rb:飛虎 > フェイフー]]のFCSをはじめとするシステムはすでに深刻な感染を受けている。つまり――。
「おい! 自己診断プログラムをロードしろ! 聞いてるのか!」
ヘッドセットに向けて噛みつくように叫ぶが、返事はない。
ワームは侵入したすべてのシステムを食い尽くしていく。当然、機体のサポートAIも例外ではない。いつもは四六時中小生意気な声が響いていたスピーカーから聞こえるのは悲鳴だけ。その悲鳴も、徐々に割れるようなノイズに埋もれつつある。
機体のシステムがすでに修復不能なレベルにまで汚染されているのは明らかだ。作戦失敗。早急に機体を放棄して、脱出装置かなにかを見つけてこの場を脱しなくてはならない。
それはわかっているはずなのに――ノイズの合間から聞こえるか細い悲鳴が、ワンをコクピットの中に縫い止めている。