両親を殺した企業を、ワンは憎んだ。必然、その傘下に入る道はない。結果としてワンは、アルテラの傭兵が取りうる最悪のルートで、企業間闘争に身を投じた。
すなわち、特定の企業に所属ぜず、傭兵として雇われるわけでもなく、単独でのゲリラ戦闘を行い、戦場から機体や資材をかすめ取り闇市場で売りさばく「スカベンジャー」としての活動である。
まともなバックアップ体制も資金も持たなかったワンは、だからこそと言うべきかスカベンジャーとしての経験を積むことで成長していった。
闇市場で紹介された廃工場を拠点とし、スクラップから自身の機体を組み上げてスカベンジャーとして活動していくうちに、ワンは戦闘を終えた後の帰還中の傭兵を狙うことを覚えた。戦闘終了後の疲弊し弾薬を消耗した機体相手なら、単独であっても勝率はかなりのものだった。
ワンは傭兵たちが戦闘を行った後の戦場の残り滓をさらうスカベンジャーから、どの企業にも属さず、傭兵たちを急襲する[[rb:肉食獣 > プレデター]]となりつつあった。
そうした[[rb:汚れ仕事 > ウェットワーク]]に染まった手で、ワンは唯一の肉親である妹を育ててきた。
ワンの妹[[rb:瑞麗 > ルイリー]]は、両親が死ぬきっかけとなった戦闘は一命はとりとめたものの重症を負い、半身不随となっていた。アルテラにはすでに医療用の義手・義足から発展した義体技術が普及しており、傭兵として戦っている者の中でも生身の四肢のどれかを失っているケースは珍しくはなかった。ルイリーのケースも、アルテラの技術水準からすれば義体を用いることで体の自由を取り戻せる可能性は少なくなかった。実際、ワンはそのための資金を稼ぐためにスカベンジャーとして活動していた。
しかし、ワンは忘れることはない。病床にある妹の、動かない手。その手を取ったときの、生身の肉体にしかないぬくもり。
ルイリーが自分の手足で駆け回る姿を夢想しなかった日はない。しかし、両親を失ったワンにとって、ルイリーの存在は一片たりとも欠けてはならないものだった。たとえそれが、動かない手足だったとしても。
だが、同時にワンには、それが自分の勝手なエゴであるという自覚があった。まだ幼いルイリーが、このまま廃工場の片隅に設えられた狭い部屋のベッドの上で一生を過ごすことを望んでいるだろうか。
ルイリーに直接それを聞くことなどできなかった。そしてそうしたワンの葛藤を見透かしたかのように――その男は現れた。
黒いスーツ姿。面長で青白いその顔からは生気を感じられない。まるで幽霊のような男だった。
男は無表情のまま、名刺を差し出した。
名刺には、「凍項電子開発公司」の名があった。アルテラにおける中国系企業の最大手だ。ワンは訝しんだ。一介のスカベンジャーでしかない自分にコンタクトを取る理由は思い浮かばない。
警戒するワンに構わず、男は話を切り出した。