・初利用!
・公式ノベライズみたいな雰囲気にしたいです
・最終目標は「十万だ」
・ブラインドタッチが出来ません(致命傷)
――写輪眼のカカシ。
その二つ名を聞いて、一体どのようなイメージを抱くだろうか。
畑の中にぽつんと佇む案山子が、赤や青、紫や橙など、とにかく派手な目の色をして、農作物に囲まれてびゅうびゅうと風に吹かれている。そんな光景が脳裏に浮かぶ人間だって、少なくはないはずだ。
カラス除けの任務を与えられた畑の案山子が、一体どんな訳あってそんな派手な目の色をしているというのか。
写輪眼と言うからには、なにか特殊な柄でもはいっていたりするのか。だとしたら、それはどんなものなのだろうか。
はたして、目の色や作りにこだわった案山子に、一体どのような効果を期待しろというのか。
人の二つ名だと聞いて初めて、それが男か女か、何歳なのか、どんな見た目をしてどんな術を使うのだろうかと、そんな考えに初めて至る。
その名を五大国中に轟かせるくらいなのだから、見ただけで逃げ出したくなるような屈強な男、または誰もがその美貌の虜になるような女――あるいは――
そこで出てくる疑問が一つ――『写輪眼とは、一体、なんだ?』
そもそも写輪眼の正確な能力を把握しているものなど、この世には居ないと言っても過言ではない。
少なくとも、終戦から幾許かの時が流れたここ木ノ葉の里においては、おいそれとお目にかかったり、話題に上がったりするようなものではない。
だというのに、たびたび耳にする『写輪眼のカカシ』という異名。いまを生きる忍がかつて背負っていた二つ名。
それはいま、一人の少年の関心を目いっぱいに惹きつけるものであった。
「おい、ロイ、とっととみなの衣服をクリーニングに持って行ってくれ。今日はお前の当番だろ」
同じ班の先輩隊員から声をかけられて、ロイの意識がはっと戻る。
暗部のアジト。移転に伴い新設したとかで、どこもかしこもピカピカだ。
白を基調とした部屋は暗殺戦術特殊部隊などと言う物騒な名にふさわしくないと思えるほど、清潔でオープンなイメージを与えている。
ロイはロッカーが並ぶ部屋の片隅に駆け寄ると、籠一杯に入っていたすべての班員の衣服を両手で抱え込んだ。各隊員の一日の疲れの沁み込んだ布は、独特の異臭を放っている。
片手が空いていれば鼻をつまみたいくらいだが、そうもいかない。少しでも匂いの源から鼻を遠ざけるように顔を後ろに逸らし、苦し紛れに目を細めてから部屋の出入り口を目指す。
先程声をかけてきた相手とはまた別の、休憩用のベンチに座る二人の先輩の前を通り過ぎようとした時、ロイは不意に声をかけられた。
「お前また、そんな嫌そうな顔をして……新人が雑用をこなすってのは、どこに行っても必ず決まってることなんだぞ」
「そうだそうだ、オレ達なんてもっと大変だったんだぞ。なにせ、あの写輪眼のカカシさんが居た時なんかは……」
出た。
写輪眼のカカシ。
ロイが暗部に所属するようになってから、何度も何度もその名を聞いた人物だ。
といっても、目の前に座る先輩二人の年齢はそれぞれ三十代と言ったところ。写輪眼のカカシその人が居たのはもう三十年近く前である事を、ロイは知っている。つまりは、しったかぶりなのだ。
面倒なことにならないよう、適当な相槌を打ってからロイは二人の前を通り過ぎる。
クリーニング室まではさほど遠くはない。各班のロッカー室が並ぶ廊下をまっすぐ歩き、突き当たりを左に曲がればそこがもう目的地だ。
青い大きなカートが並ぶその部屋で、一番手前の未使用だったカートに抱えていた衣類たちを放り込むと、ロイは一つため息をついた。
――結局、写輪眼のカカシって、どんな人なんだよ。
先輩たちに聞いて回ってみても、みなそれぞれ違うことを言う。
穏やかで聡明な人だったという者もいれば、とにかく近寄りがたくて、その目線だけで人を射殺せるような人だったという者もいる。
チャクラ刀を主に使用していたという人もいるし、イヤ雷遁だねという人もいる。かと思えば水遁を得意としていたとか、なかには火遁を得意としていて、夜陰に浮かぶ炎の球体がまるで眼球のように見えたからそれで写輪眼のカカシだと言われるようになったんだ、なんて言い出す奴も居たりする。
そのどれもがいまいち信憑性を欠くことくらい、ロイだってわかっていた。
アカデミーを卒業してすぐに暗部入りしたロイは言うまでもなく暗部の中では最年少で、面白おかしく茶化してくる者も少なくなかった。
――遊ばれてる。
しかしそうされればそうされるほど、ロイの中の関心が高まっていくのもまた事実だった。
暗部の長い歴史の中では、偉業を成し遂げた者も多い。けれど、それが文献として残っているとか、ましてやアカデミーの教科書に記載されているなんてことは無い。
闇に紛れ夜に生き、そして塵一つ残さずに去っていくのが暗部の美徳なのだ。
その生きざまに感銘を受ける者も多い。現にこの間なんかは、映画化したいという話が来たりもしていたらしい。
無論、にべもなく断っていたそうだが。
余所の班員達の会話を盗み聞きしていたロイは、一人暗い廊下で肩を落としたのをよく覚えている。
パンパンと手を軽くはたいてから、衣類を入れたカートを搬入口まで運ぶ。
大きなシャッターの前に引かれた線のところまで持っていくと、装備部の老齢の男性班員がロイが押していたカートを引き継いだ。
「ご苦労さん。ここまででいいぞ」
声にはハリがあるが、手先は震えている。その男の様子は里外れに住んでいる祖父よりも、ずっと高齢に見えた。
「お疲れ様です。あの、大丈夫なんですか?指、震えてますけど……」
失礼なことは百も承知していた。だが、気付いたときには口から出てしまっていた。
ロイはバツの悪さをそのまま表情に出したが、老齢の隊員は仮面をかぶっていて、どんな表情をしているのかはわからない。
一瞬の沈黙。気まずさから逃げ出したいような気持ちにロイがなった時、男はプッと吹き出した。
「ハッハッハ!今年はまた、観察眼に優れた隊員が入って来たようじゃのう。色々言われてはおるが、まあお主のような若者が降りさえすりゃ、我らが暗部も安泰じゃろうて」
年寄特有の回りくどい皮肉。それを受け取ったロイは、ポリポリと頭の後ろを掻いた。
「このおいぼれもな、昔は夜の闇を駆けずり回ったものよ――しかし神経毒にやられて以来、このありさまじゃ。本当は、日常生活すらままならん。こんな仕事でも貰えているだけありがたいのう――時に小僧、ワシのことを知らんとは、さては新入りじゃな?」
「はい、まだ、三か月くらいです……」
「ではまだ任務に赴いたこともあるまいな?」
「ええ、慣れるまでは雑用からって、先輩たちが……」
ロイにとっては、不本意な事だった。
任務には同行させてくれないクセに、過去の偉人の話ばかりする先輩たちが小憎たらしかった。
――僕だって、任務に出さえすれば……
いつの間にか口先を尖らせていたことに、ロイ自身は気が付いていなかった。しかしその様子を見た老齢の隊員は仮面の下で、フ、と意味ありげな微笑を浮かべていた。
「おおかた雑務ばかりなのが気に入らん、ってとこか。最近の暗部の変わりようはすさまじいからな。昔じゃ考えられんことだ……お前さんのその不服そうな態度も、自分のことと置き換えさえすれば、まあ、わからんことでもないのう」
なにが分かるっていうんだよ。ロイは口にこそ出さなかったが、今度は頬を膨らませてみせた。
役に立たない爺さん。内心では、目の前の相手に対してそんな評価を下していた。
「こんな爺が懸念することでもないのかもしれんが、若者の士気の低下というのは暗部にとっては損失じゃろうて。お前さんたちがやる気を出してくれんと、それこそ、木ノ葉の安寧を保つのが難しくなる……どれ小僧、今日のお前の夜の時間をこのおいぼれに貸せ。なぁに心配せんども、たっぷり利子をつけて返してやるぞ」
「え、ちょ、ちょっと――!」
時間に利子なんてつくものか!心の中では悪態をつきながらも、背中を押す男の力強さに動揺して、ロイはなすがままになってしまっていた。
爺さんの名前はタムクというらしい。
道すがら聞いたロイは寝たら忘れるだろうな、とすら思っていた。
装備部の連中はいわば窓際族で、任務に赴くのが難しいやつらばかりがそろっている。オレらとは違う。そんな先輩隊員の言葉を鵜呑みにしていた。
夜の繁華街を抜け、赤ちょうちんの並ぶ路地を細い方細い方へと行き、だんだんと市街地から遠ざかっていく間ロイは何度も行き先を尋ねたが、はぐらかされるばかりでとうとうタムクがそれを教えてくれることは無かった。
歩きながら目に入る建物がどんどん低くなっていき、やがてまばらになって来た頃、ようやくタムクはしっかりとしない足を動かすのをやめた。
そこは里外れの湖のほとり。古びた素朴な建物は瓦の色さえすっかり褪せているが、広々とした造り。
黄色いのれんがかかるどうやら、割烹料亭のようだ。