少なくともその生き物は、人の形をしていた。
両親と弟の墓に線香を上げた翌朝のこと、数年ぶりに宿泊した実家の床下に猫か何かが住み着いているようだったので、畳を外して覗いてみたら『それ』がいた。
その生き物を何と形容すればいいのかわからない。
いくつかの特徴を上げるなら、まずその生き物には角があった。体毛もあったがそれは羊のそれのように円形に輪を描き、頭部から背中までを覆っているようだった。そしておよそ飛べそうにもない小さくか弱い翼が生えていた。肌の色は画用紙のような黒色だった。
その生き物は、突然の光源とともに現れた私のことを恐れるでもなく、ただじっと床下に息を潜めていた。
生き物? はたしてあの熱源発生有機体は本当に生き物と断言して良いのだろうか?
床下に、その生き物が排泄したらしき痕跡はなかった。スリッパを落として、彼と同じ目線で床下の奥行きを確認する。しかし、周辺のどこからも侵入した形跡はなく、外へと出入りができそうな抜け穴も見当たらなかった。
首をひねりつつ、さてどうしたものかと戸惑う。
少し考えたのち、私は『それ』を見なかったことにして床板をはめ直し、畳を敷き直した。
どうせ何年も住む者のいない空き家なのである。床下にタケノコが生えていようがツチノコが合唱団を形成していようが誰の文句も出まい。
私はそのまま、墓参りを終えた実家から、一人暮らしをしている東京のアパートに帰った。
……。
東京のアパート玄関に、なぜか『それ』がいた。
移動経路に使用したのは新幹線とタクシーである。つまり『それ』は、少なくとも時速40km以上の速さで私を追い抜き、このアパートへと先回りしたことになる。
言いしれぬ理不尽を感じつつも、靴を脱ぎ、『それ』をまたぎ、スーツケースを迂回させる。帰省中に溜まった洗濯物を洗濯機に放り込み、スーツケースを物置にしまう。
振り返ると『それ』は相変わらずそこにいて、私のことを、その癖毛の隙間から鬱陶しそうに見上げていた。
死んだ弟の目に似ていた。
まったく、やってられない。
そのような経緯で、私は何やらよくわからないその生き物(?)を飼う次第とあいなったのである。