審神者が率いる本陣とは別部隊――――いわゆる遠征部隊には、熟練度が少ない男士と古株の男士がバランスよく配置される。へし切長谷部と大倶利伽羅はいわゆる古株と呼ばれる男士だ。先頭を歩く遠征部隊の男士の後ろ姿を見ながら、当初は自分たちを含め数人しかいなかった本丸も気がつけばすっかり大所帯になったな、と長谷部がまるで老人のような言葉をこぼした。長谷部が珍しくぐちのような言葉をこぼしたため、隣りにいた大倶利伽羅は仏頂面を崩さずに「そんなものか」と返す。
 バニタス(空虚)のように遠征地の空はどんよりと曇り空。雨が降る予定はないが、ぐずついた雲行きは心をポジティブからネガティブ思考に変化させていく。後ろ向きではないが停滞しがちな思考に陥りやすいのかもしれない。
 大倶利伽羅のそっけない声に長谷部はため息をこぼす。彼らの視界には、新参者の男士達が歩いたり、己の分身である刀を振るったり、走ったりと様々な行動を取っているのが入る。人間の肉体に慣れていない彼らのために遠征の一環で「慣らし」が行われている。
「そんなものか、とはなんだ」
「俺もあんたもその憧憬を感じるほど、この体で長く生きちゃいないだろう」
「………大倶利伽羅」
 久しぶりに一緒の部隊に配属されて喜んでいるのは俺だけか、と長谷部は内心落胆する。彼らは本丸稼働時から審神者の刀として先鋒で敵を屠り続け、そしていつしか懇ろな関係になっていた。何がきっかけかはわからない。些細な事だといわんばかりに二振は肉体関係から始まり、恋人関係に昇華した。ちなみに好きだと告白したのは大倶利伽羅だった。(大倶利伽羅と長谷部が所謂恋人になっていた事に衝撃を最も受けたのは光忠なのは言うまでもない)
 大倶利伽羅は長谷部の色欲を持つ視線に気がついていて、特に何も行動をしていなかったが、前を歩く男士達の視線が外れたのを見るや、行動を起こす。
「だが大所帯になって色々鬱屈だというのは確かだ……こういう事がなかなかやりづらい」
 大倶利伽羅は長谷部に向き直り、顔を近づける。突然の接近に長谷部は対応できず佇むばかりで、大倶利伽羅は長谷部の唇に己の唇をそっと這わせる。舐るような口づけではなく少しばかりのバードキス。匂わせる誘いにしては疎かで稚拙なもの。
「おっ、大倶利伽羅!?」
「……俺だって、あんたと久々に一緒になれて柄に興奮しているんだ」
 ぶっきらぼうで独り言のようにつぶやく大倶利伽羅の頬だけでなく耳元までも赤く染まっていて、普段こういった行為をしない彼の精一杯の誘いだった。
「そうだな」
 たどたどしく伝える大倶利伽羅の言葉に長谷部は柔和に笑い、彼の腰を抱いて引き寄せる。そのまま腰をなでたり、顎をつかみ口づけようとする長谷部に、流石にバレるだろと大倶利伽羅が忠告するが、「これくらいなら大丈夫だろう」と厳格な彼にしては珍しい妥協案を告げる。
「俺を煽るだけ煽って放置は許さないからな」
「沸点が低いんじゃないのか」
「お前限定だが」
 そういい、再び口づける。引き寄せられた大倶利伽羅は、下腹部に当たっている彼の熱情を自覚する。押し付けているようにも見えるその膨らみは、長谷部が欲を芽生えさせている証拠で。唇をあわせて舐り合い、舌を絡ませていく。ドクンドクンと心臓が高まり、互いに興奮しているのがわかってしまう。
「……んんっ」
「はぁ……大倶利伽羅……」
「はせ、べ……っ」
 しかし褥の雰囲気を醸し出していた二振だが、二振に向けられた殺気に気づき、一瞬で互いの体から離れて迎撃体制を取る。抜き身の刀を手にし、殺気の視線の方向を睨む。二振の鋭い眼光の先からは、ネズミに近い異質な姿をした歴史修正主義者が数体飛び出してくる。数体と言っても個体差がない。クローンのような、増殖したような、全く同じ姿が並んでいるのは気味が悪い。
「………奴ら、なんか変なものに影響されたのか?」
「さあな。とりあえず仕留めるぞ。考えるのはそれからだ」
「ああ。しばらく戦場には出ていなかったが―――――――肩慣らし(と八つ当たり)にはちょうどいい」
 二振の周囲から甘い雰囲気が完全にかき消える。男士としての本分を発揮すべく、久々に暴れるべく、大倶利伽羅と長谷部はその大いなる強さを発揮し、敵を容赦なく屠るのだった。
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20221102
初公開日: 2022年11月02日
最終更新日: 2022年11月02日
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