はい、もう6月という事実から首がねじ切れるほど目を背けながらお送りします映画感想。
今回鑑賞したのはこちら。
例によって例のごとく前情報はゼロだったんですが、「なんかよくわからんがすっげー作品」的オーラを感じ取ったので見てきました。
さて感想なんですが……いやこれ、サンサン劇場で見た映画の中でどころか、今まで見てきたあらゆる作品の中でもっとも感想を明文化しにくい作品かもしれません。
わたくし人形使いは、これまでそれなりの数の映画をはじめとするさまざまな作品に触れてきました。そしてそれらの作品から得たものは、また別の作品を紐解くための足がかりとなります。言わば、さまざまな創作作品から得てきた感性や感覚は、ほかの作品の持つ扉を開けるための「鍵」、あるいは分解するための「工具」と言えるでしょう。
しかるに本作についてなんですが、少なくともわたくし人形使いの持つどんな「鍵」や「工具」をもってしてもこの作品を十分に分解・解釈することができません。
いやまあごく表面的な部分を拾うことはできるんですよ。異物を後天的に追加されたことで異形化していくアレクシアと致命的な欠落を抱え続けていることでやはり異形化していくヴァンサンとの対比とか。
しかし本作、今まで見てきたどんな作品とも類似点が少なく、さらにいわゆるジャンル映画でもないので本当に解釈が難しいです。
なので、感想ではなく自身の感覚をメインに書いていこうと思います。
まず感じたのは、生理的嫌悪感に近い感覚でした。本作はR-15なので、ショッキングなシーンが頻発します。しかしそれに対して直接的な生理的嫌悪感を覚えたかと言えばそうではありません。
ではこの生理的嫌悪感はどこから来たのかというと、不可解さでしょう。
本作の主人公であるアレクシアは、幼い頃に交通事故に遭ったことで頭蓋骨にチタンプレートを移植されます。それがきっかけで彼女は車に異常な執着を感じるようになって……というのが本作の冒頭なんですが、そこからアレクシアの行動は常軌を逸していきます。
おおよそ創作作品というのは登場人物に感情移入して見るものなんですが、本作に登場するアレクシアをはじめとする登場人物は誰一人として感情移入ができません。全員何考えてんだかわからないし理性的な行動がほっとんどないし。
なので、鑑賞中に感じた生理的嫌悪感は、あまりの不可解さから生じたものだと思います。
たとえばエログロにも生理的嫌悪感はありますが、エログロに対する生理的嫌悪感ってまだ万人が理解できるものでしょう。それは言わば共通言語です。しかしながら本作に対して覚えた生理的嫌悪感は、今まで感じたことがない種類のものでした。そうした意味では、本作は「言葉が通じない作品」とも言えるでしょう。
言葉といえば本作、セリフでの状況や感情の説明というかセリフ自体が少ない作品です。特に主人公であるアレクシアは、序盤から正体を偽ってヴァンサンの息子のふりをしているので、正体を隠すためにほとんど話しません。
その代わりに饒舌なのがBGMと音響。特にBGMは意図的にこもった不明瞭な音にすることで、人物の心理や感情を投影していたと思います。
印象的だったのがヴァンサンが自分の息子のふりをしているアレクシアの正体に気づくか気づかないかというシーン。アレクシアの変装は、変装と言えるようなものでもなく、髪を切って鼻の骨を折って顔の印象を変え、体型はテープを体に巻きつけてごまかしている程度のもの。
にもかかわらず、ヴァンサンはアレクシアを息子として迎え入れます。本作はいわゆる正体隠しものではないので、いつ正体がバレるかのハラハラドキドキというのは本作の主眼ではありません。むしろ、いわゆる神の視点で物語を見ている観客の側から見てみれば、ヴァンサンの息子の部屋には鏡があるので、最初の着替えのシーンで明らかにアレクシアが女性であることはバレてるはずなんですよね。
ヴァンサンはおそらく、自分から積極的にアレクシアは自分の息子であると思い込もうとしていたんだと思います。中盤で登場した彼のかつての妻の言葉からも、ヴァンサンは正常な判断能力を失っていると思われます。
それでも、作中で明らかにヴァンサンがアレクシアが自分の息子などではないことを認めかけるシーンがあります。そこでBGMが彼の内面の乱れを表現するかのようにこもった音になり……そこから元通りになるというこのBGMを使った演出は非常にうまいと感じました。
主人公であるアレクシアについては、前述のとおりなかなか感情移入ができませんが、徹底して異形の存在として描かれている気がします。
チタンを頭蓋骨に埋め込まれたことによる車に対する異常な執着や対物性愛、衝動的な殺人に加え、男性に変装するために自分の持つ女性性である髪や体型をハサミで切り落としテープで押さえつける、男性への変装とは正反対の妊娠という肉体的な矛盾。
アレクシアはまさにそうした異常な要素を文字通り「孕んで」いる存在だと言えるでしょう。本作にはモンスターや幽霊といったわかりやすい超常的な存在は登場しませんが、アレクシアのこうした異常性は本作の中では際立っていました。
……とつらつら思うがままに書いてきましたが、やはりこの作品、手持ちの「鍵」や「工具」ではなかなか分解できない、今までにない作品です。まさに「怪作」という言葉がふさわしい作品でしょう。いやマジであらゆるジャンルに当てはまらない異常な作品だぞこれ……。