二〇〇四年、六月。デンジはモンゴルの大草原にいた。
 東京から北京を経由し、モンゴルの首都ウランバートルまで凡そ三十時間の旅路。飛行機のタラップを降りたところで最初にデンジを迎えたのは、日本とは対照的に乾燥した空気。そして甘いミルクと動物の体毛を凝縮したような独特のにおいだった。
 母国の温暖な気候と紐づくぬるついた湿度と比べて、暖かくさらっとした乾燥を肌に感じる。見えざる境界線だ。地中海の近くを訪れた時も似たような感慨に襲われたが、ここが他のどこより違うのは、空気中に漂っているにおいだ。
「牧場のにおいがする」
「あー、チチ臭ぇなあ」
 中心部には首都らしくビルやマンションが立ち並んでいるのだからと高を括っていたが、その郊外には民族を象徴する伝統的な移動式住居(ゲル)がところ狭しと密集している。その隙間と背後に、雄大な土地を利用して当然のように八十万頭の家畜が飼育されているのだ。都市か牧畜か、どっちつかずの国だとデンジは思った。
 真っ黒な離着陸の案内ボードを眺めていると、ふと背後から声がかかった。
「君たちがデンジとナユタ?」
「あ、イエスイエス」
 流暢な英語だ。母国語から世界共通語へのシームレスな移行に未だ慣れないデンジがたどたどしくイエスを返すと、男は微笑ましげに眉尻を下げる。
「ちっちゃい兄妹だな。ご両親はいないのかい」
「俺ぁ酒飲める年だぜ。お前だって写真よりだいぶ老けて見えるぜ、人違いじゃねえの?」
「はっは、苦しいな。ちゃんとバトエルデネ本人だよ、デンジ。私たちの国へようこそ」
 バドエルデネは国営の旅行社から派遣された現地ガイドだ。本当は日本語が話せればよかったが、少々値が張る上に生憎予約も埋まっていた。仕方なく英語のガイドを申し込んだものの、碌に英語ができない素人や教師の合間に趣味でガイドをしている爺さんなど玉石混合だと専らの噂だった。デンジでも聞き取れる丁寧な発音を鑑みるに、今回は当たりを引けたのだろう。それだけで御の字だ。明らかに十代後半程度にしか見えない外見を揶揄されるのには慣れているし、今更気にもしない。
 徒歩十分程度の駐車場に車を停めているというので、途中ナユタにアイスを買ってやり、ぶらぶら歩きながら雑談をする。
「ところで、君たちはなんの目的でモンゴルへ? 日本人を担当するのは初めてだよ」
「ん~……ちょっと約束があってさあ」
「この国でわざわざ?」
 バドエルデネは不思議そうな顔をした。事前にモンゴルは初めてだと伝えていたので、当然の反応だろう。別にこの国に限った話というわけでもないので、適当にはぐらかす。英語がまだいまいち分からないナユタは下手に会話には入らないものの、言葉を詰まらせたデンジに気づいて心配そうな目を向けていた。その瞳の中の渦巻が、過去の出来事を思い出させる。
『血の悪魔を見つけに行け』
 ゴミ箱の中で交わした約束を覚えている。
 生臭いゴミに囲まれて、直前に何をしていたかも思い出せないような靄のかかった脳味噌で、血の魔人(パワー)と会話した記憶はもしかするとただの白昼夢であったかもしれない。
『これは契約じゃ。ワシの血をやる、かわりに……』
 けれど、パワーの血は確かにデンジの身体の中に残されていた。角を生やして自己主張するチェンソーは紛れもなく彼女の血から生成されたもので、その一閃が支配の悪魔から自由を奪った。この事実がある以上、デンジはパワーとの契約を果たさなければならない。
 悪魔は輪廻の中に生きている。マキマが支配の悪魔としての形を失って、アイスを舐めながら隣を歩く少女に生まれ変わったように。
 デンジはどんなことをしても、もう彼女でない彼女を見つける。例えそれが敵としての邂逅であっても、再び唯一無二のバディを組む。悪魔の「契約」は絶対だ。しかしそれ以上に、「契約」の成就はデンジの数ある夢の一つになっていた。
「モンゴルってさあ、悪魔とか結構出んの?」
「悪魔? どうかな……つい数年前までは見かけたけど。干ばつの悪魔とかね」
「ぽいな」
「ソ連がいる間は向こうのシャーマンが退治してくれたんだ。だけどあいつらが手を引いて暫く、こっちは内政も悪魔の被害も酷くて……でも今はこうやって穏やかに暮らせてる。悪魔なんてものはソ連が持ち込んだ陰謀だったって専らの噂さ」
「シャーマン?」
「知らない? 悪魔の力を使って悪魔を倒す人たちのことだよ」
「デビルハンターのことシャーマンって呼んでんのかよ」
 文化の違いに驚きつつ、もっとデンジの心を揺らしたのは「悪魔がいない」という事実だ。悪魔は人間の恐怖を養分とする。外国人を受け入れるガイドが穏やかな暮らしを自称するなら、少なくとも首都に悪魔はいないか、それほど強くはないのだろう。
 人口が集中し、人間関係が複雑怪奇であるほど悪魔はその脅威を増す。常に血肉に飢え、力を欲している悪魔は、本能的な敵対意識を持つ人間を少しでも多く食らうために都市部に現れ、あらゆる手段を用いて人間を殺す。日本で垣間見た悪魔被害の集中度と、ここ数年で回った諸外国の様子からしても、首都やそれに準ずる都市は日常に悪魔が溢れている。だからこそ人口密集地にはデビルハンターが多く配置されるのだ。都会の悪魔は都会の鼠と同じく、危険と引き換えに貪欲に餌を探している。
 人口が密集しているとは言い難いモンゴルに訪れたのにも、それなりの理由がある。開発途上国や未開の場所はその文化発展の度合いから、原始的な名前を持つ悪魔を強く恐れている場合が多い。アニミズム的な信仰が色濃く残っていると傾向はより顕著で、アフリカ中央部や南米の奥地などにはそういった悪魔と共存、或いは従属して生きている村もあるのだという。
 血というのはそれだけで、いつの時代、どの場所でも呪術的な意味合いを持つ。誰にも見つからないような場所で暮らしているならまだいいだろう。問題はその国が支援を受けている先進国の存在だ。国連の条約で、自国で発見された悪魔の処遇はその国に委ねられることになっている。しかし、植民地支配の関係にあった国々は、される側からする側へ悪魔を譲渡する条約を結ばされている場合も多い。討伐に関する事件も、他国による介入は依然として国際問題の被投だ。表向きには黙されているが、悪魔は兵器としての利用価値があり、強力な悪魔を懐柔することができたならそれだけで国力の強化に繋がる。先進国は悪魔を討伐しつつ、友好的な態度を示したものは捕獲して「契約」で縛り、人間の力として扱う。日本も例に漏れない。世界中どこでもやっていることだ。
 だからこそ、血の悪魔が他国の執行機関の手に落ちる前に、デンジが先に見つけたい。何度殺されても何度生まれ変わっていても構わないが、何の間違いか国の名前を背負って敵として立ちはだかってくることがあれば、デンジはそれを殺さなければならなくなる。
 中国とソ連――現ロシア――は特に秘匿主義で、所持している駒の詳細を絶対に明かさない。先兵として出てこないなら、公安の地下のような檻の中で人間と契約するだけの奴隷だ。そうなればもうデンジが血の悪魔の行方を知ることは難しい。契約した人間から情報を吐かせても当局にバレたらおしまいだ。悪魔に人権なんかない、追手が届く前に殺してしまえばいい。
 だから、その両国に挟まれたモンゴルに来るのは急務でもあった。ここ数年はソ連の崩壊で情勢が悪く、入国制限こそなかったものの、下手に動けばブラックリスト入りしていた。殺されても生き返るデンジの身からすれば、命より情報を握られる方が恐ろしい。そんな緊張も溶けて漸く来ることができたと思えば、今度は悪魔がいないときた。そんなのは話にならない。
 汚れていない箇所を見つけるのが難しいくらい砂埃がまぶされた黒のソ連製ジープが、バドエルデネの愛車であるようだった。当然舗装などされていない道のりで尻を痛めながら本日の宿を目指す。流れているラジオはモンゴル語だろう。馴染みのない発音で、全く聞き取れない。
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13:02
うりすけ
こんばんは
13:23
うりすけ
MIU10話まで見ました!!!!!!
13:41
うりすけ
今から見るw
13:59
うりすけ
寝ながらみるわ!!
14:05
うりすけ
菅田将暉好き
14:27
うりすけ
マ、、?
14:47
うりすけ
私も作業しながら聞いてまーす!
15:13
うりすけ
わかる!!!!
15:49
うりすけ
人の話聞くだけなら作業出来るんだけどね〜
16:21
うりすけ
作業用ありがたいっす!
20:45
うりすけ
頑張れ‼️
20:56
うりすけ
頑張る‼️
64:28
うりすけ
お!
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うりすけ
お疲れ様です‼️‼️
64:43
うりすけ
おっす!!
64:53
うりすけ
おっけー!
65:09
うりすけ
推しは菅田将暉だけど
65:16
うりすけ
cpは同じです!!!!!
65:23
うりすけ
当たり前じゃない?
65:30
うりすけ
1話時点でそうだった
65:41
うりすけ
www
65:50
うりすけ
わかっちまったな
66:04
うりすけ
おつ!!!!!!!!天才!!!!
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