この文章は #文字書きメイキング大会 用の文章です
TOZ ザビーダ がメインの話
NPC おばあちゃん
デゼも出てくる予定ではありますが薄っすら
微ホラーかもしれない(予定)
「おや、こんな山奥にお客さんとは珍しい。お寒いでしょう。どうぞお入りなさいな」
静かな山奥にポツンと立つ山小屋から、しわがれた声がした。
急な雨に降られ、頭のてっぺんから足先までずぶ濡れになった姿を見かねたのか、薄く開いた扉の隙間から小さな手がおいでおいでと覗く。
「悪ぃなあ。まさかこんなに降るなんて思わなかったもんだからよ」
扉を開くと、防犯のためなのか、カラカラと白い鳴子が音を立てた。
「このあたりは、風と雨の強い土地でねぇ。たまに豪雨になるのさ」
パチパチと囲炉裏の薪が弾ける音と、屋根を叩く雨音が響く。
小屋の中は、囲炉裏から離れると薄っすらと肌寒く、こんな場所に老婆が一人で暮らすのはさぞ大変だったろう。
「懐かしい気配がするわねぇ。お前さん、あたしの旦那にそっくりだわ」
「旦那さん?そりゃぁ大層なイケメンだったろうな」
囲炉裏の炎に手をかざすと、冷え切った体がほのかに暖かくなってくる。懐かしそうな老婆の声を聞きながら、濡れた髪を乾かした。
「えぇ、それはもう。綺麗な白と緑色の髪で、何歳になっても若々しかったのよ」
それは。
老婆の目が髪を見やる。長い、白い髪。毛先が緑色の髪色は、風の天族特有の色だ。
「なるほどなぁ。もしかしたら、俺様と同郷の奴だったのかもねぇ」
「あら。お前さんのお里では、みんな同じような髪色なのかい?」
「ま、だいたいな。そんで、何歳になっても俺様みたいにカッコいい」
「ふふ、あの人は、もっと優男でしたけどね。今日はね、旦那の30回忌なの。同郷の方に会えたのは奇跡ねぇ」
「そうかもなぁ」
「旦那はね、今も死体が見つかってないの。突然、食料を取りに行ってくると言ったきり、帰ってきていないのよ」
くるりと小屋の中を見渡す。わずかばかりの一人暮らしには十分な家具。古ぼけた囲炉裏とかまどが1つ。
旦那と二人暮らしだったのだろうか。少なくとも子供がいたような気配はない。
「ゆっくりしていって頂戴ね。今、お布団を敷いてきますからね」
おそらく、旦那というのは天族の男だったんだろう。
天族と契りを結ぶ人間は珍しい。そもそも、人間と関りを持とうとする天族も多くはない。
なら、あの老婆は導師だったのか?
天族には年月の感覚が曖昧だ。前回の導師がいたのは、どのぐらい昔だったのか、それが男だったのか女だったのかも、自分の記憶にはなかった。
囲炉裏の薪がパチリと爆ぜる。
隣の間に布団を敷きに行った老婆は戻ってこない。
パタパタと雨が屋根を叩き、強い風がギシギシと小屋を揺らす。
カラカラと玄関の鳴子が乾いた音を立てた。
老婆の元を去った理由は分からない。俺はその天族じゃない。
愛した女が年老いて、自分とは違う種族だと目の当たりにして、自分が恐れられるのが怖くなったのか。
それとも、自分の死を悟って、愛した女を巻き込まないために去ったのか。
気持ちは分からなくはない、が、だからって放ってしまうのは無責任じゃねぇの。
「ん…?」
白い鳴子など珍しい、と思っていた。木を着色したのかと思ったが、音が変だ。
「雨、上がってきたみたいだからもう行くわ。サンキュな、ばあさん」
「あら?珍しいわね。明け方まで続くことが多いのに…」
ポツポツと僅かな音は聞こえるが、ここに来た時の土砂降りは去ったようだ。
ガタガタと戸を叩く風音は止まないが、風だけなら何とかなる。
「ばあさんも、来るか?」
「あたしかい?あたしはもうおばあちゃんですからね。遠慮するわ」
「ずっと家に籠ってたら、空気も澱んじまうぜ。 ほら、いー風吹いてんだろ」
ガタリと建付けの悪い扉を開くと、カラカラと鳴子が音を立てた。
「…ああ、」
雨に濡れた夜風が室内に入り、老婆のわずかばかりの髪を揺らす。
「懐かしい…風ね…」
「長生きで待つことには慣れてる俺たちだけどよ、流石にそろそろ寂しく思ってる頃だろうよ」
「そうね、男の人って案外寂しがりやよね」
「そゆこと」
雨上がりの雲の隙間から、満月が覗き地面を照らす。
老婆の身は、既に骨と僅かな朽ちた肉、頭蓋骨からは数本の白髪が残るのみで、動くたびにその僅かな人間の名残さえも落ちていった。
「じゃあな、ばあさん。同族によろしく」
誰もいない暗い山の中に、一発の銃声が響き渡った。
「おい、あんた、臭いぞ」
「え?そーお?さっき湖で行水してきたんだけど」
「腐臭がする。憑魔でも狩ってたか?」
カラカラと荷馬車が晴れた街道を行く。山から下りて、慣れた風の気配に近づいたら開口一番この言葉だ。
「ま、俺様のライフワークだし? ここから2つ先の山奥にある、雨降る夜に狩りをする憑魔の話、聞いたことある?」
「ああ、あれか。天族を狙うっていう」
「えっ?」
天族を、狙う?
「違ったか? 年に1度、雨の日の夜に、山神に天族を生贄にする村の話じゃないのか?」
デゼルは目元が髪で見えないにも関わらず、存外に表情がわかりやすい。きょとんとした雰囲気に、思わず二の句が継げずにいるとデゼルは顎に手を当てて、古い記憶を思い出すような仕草で語り始めた。
「何百年か前に、天族に輿入れした導師がいて、その主神に裏切られた…らしい。そいつが住み着く山がその村にあって、誓約か何かかは知らんが、年に1度、天族を生贄に捧げると村は加護に守られるとかなんとか」
「うっへぇ…なんだそりゃ」
「…だが、憑魔だったんだろう?」
「そうだなあ。執着も愛情も、こーなっちまうと悲しいもんだな」
「なんだ?今日はいやに感傷的じゃないか。語りたい気分か?」
こいつの口元は表情が豊かだ。にやりと上げた口角にムッとすると、更に気分がよくなったのか奥から酒瓶を持ち出してきた。
「いーや、愛されキャラな俺様も気を付けないとなって思っただけよ」
「言ってろ」
安い酒、一緒に馬鹿な話ができる友。
愛する者を失う事はとてつもなく辛い。それが、納得のいく形の別れでなかったのなら、なおさら。
「…ま、殴ってでも止めてくれる奴は、大事ってことだな」