ミラージュの肩を押し戻そうとした腕はやんわりと手首を緩く握り込まれ、振りほどこうと思えば簡単に出来てしまうほど弱いその力に、クリプトは抗うことがなぜか出来ず押されるままにソファに転がった。
至近距離で見つめた瞳に肌が爛れそうなほど滴る熱を感じて、思わず左下に視線は逸らしたものの唇を合わせた近さでは逃げ場もない。
いつものように調子の良いふざけた態度であれば悪態のひとつでもついて、簡単に振りほどけてしまうというのに、たまにこの男はこうして酷く真面目くさった様子でクリプトを困惑させた。
背中にソファのスプリングを感じながら固く閉じた唇の上を、ノックでもするように何度も濡れた舌が這い回る感触に短く髪が刈り上げられた後頭部がぞわぞわとする。
手首を掴んでいた手が強張ったそれをソファの座面に柔らかく押し付けて、ゆっくりと肌の上を這いながら握り締められている指をほどくように己のそれを絡める。
指を絡めて手を握り閉じた唇の上を舌が這う、たったそれだけの接触がそんなつもりもなかったクリプトの体にいとも容易く情欲の火をつけていく。
まるで愛情のあるような抱き方をしてくるこの男の、そういう部分がクリプトは嫌いだった。