ちょいと飲み過ぎだよ、
千鳥足の金森君。
これが飲まずにやってられますかねぇ。
それは、そうなのかもしれんがね。
あんた全然飲んでないじゃないですか。
二人揃ってへべれけになるわけにゃ、いかんじゃろて。
そんな分別あったんすね。
失礼だよ、君ね。
家ならまだしも、外だからな。どっちかはしっかりしてんといかんだろうに。
今日は君がお疲れ様のようだから、わしはセーブ。
もう一軒行きましょう。
流石に帰ろう。わし、眠い。
いっつもあんたに付き合ってるじゃないですか。この前は朝まで。
重い、気づけばどんどんと体重がかけられていく。潰れる、死ぬ。
ちょいっとカナモンよ。水飲もう、水。
細い路地に、ぼんやり浮かんでいる自動販売機の灯り。
ズルズル引きずって、その前へ。
ほれ、水。
私、そっちがいい。
うるせぇやい。ほれ、君はこっち。
500mlの水と、缶コーヒー。(足す)
二軒目行くのはいいけどもね、君明日も仕事じゃろ?
いいんです。間に合えば。
あの金森君がこんな大人になるとはな、未来はわからんもんじゃな。
あんたが変わんねぇだけっす。
でも、今の方がええがね。
いや、違うな。昔は昔で完全無欠で、かっちょええって感じだったが、今は、なんだ、その、
弱点が見えるから、可愛げがというか。
一緒におるなぁって思うな。うん、そう。
なに言ってんすか。あんたも酔ってんじゃないすか。ほら、
差し替えされる、水。
顔が赤いのは、酔ってるわけではないが、ここはそういうことにしておこう。
おう、存外わしも酔っとるな。
ヘラヘラ、狭い路地に転がる笑い声。
何してんすか、二人で飲んでるなら、俺たちと飲みません?
深夜の穏やかな空気に亀裂が。
人生において縁のなさそうな、派手な男がニヤニヤしながら声をかけてきた。
どれほど年を取ろうとも、この手には、何も言えなくなる。
いや、その、お構いなく。
えーいいじゃん、奢るからさ、ね。そっちの綺麗なお姉さんも。
あ、彼女は。
女二人でなんて楽しくないでしょ。
そんなことは、ない、ですから。あの。
あんたじゃなくて、そっちのお姉さんに聞いてんの。
金森君狙いってわけかい。そりゃ美人だもんな、グッと拳に力が入る。
うるせぇ三下、邪魔すんな。
途端、豪快な前蹴り。真後ろに倒れていく、姿。スローモーション。
さ、浅草氏。二軒目です。
いや、ちょっと待て。
腕を引かれる、別に構いやしないけど。
この人どうすんだい。
捨て置きましょう。みどりを蔑ろにするやつなんでどうでもいいんで。
あ、そう。
嬉しい。が、そんな場合なのか。蹴り倒された男は、どうやら生きてはいるようで、
呻きをあげている。
この場に長居は無用だろう、後々面倒なことになりそうだから。
ここから距離を取る、遅れるでないよ。金森君。
なんすか、急に。
君が蹴りなんて入れるからじゃ。ほれ、逃げるぞ。
なるほど、了解です。
シャッターの降りた、静まり返ったアーケードの下を駆け抜ける。
冴えない色のタイルをピョンピョンと飛び跳ね、道の真ん中を全速力で走る。
ほれ、カナモン置いてくぞ。私の方が早ぇんですよ。どれだけ騒ごうが、誰も気にしない、誰もいない。ひとの熱のない、空間に、ふたり。
はぁ、ここまでくりゃ、大丈夫だろうよ。
水、飲む?カバンから差し出すペットボトル。
そもそも、追いかけてきやしませんよ。
どうも、と言いながら受け取る金森君の息は、ひとつも上がっていない。
ゴクゴク喉を鳴らして流れ落ちていく水、喉元をじっと眺める。上下するその動きが
どうにも、目が離せない。
浅草氏。
ん、ああ。ほい、わしにもくれい。
人の悪い笑顔、なんじゃい、悪巧みしとるな。
残り少ない水を一気に飲み干す。
あ、金森、てめぇ。
口を開け、文句を言うはずが、伸びる手、掴まれる頭、迫る顔、満面の笑みの金森君。
生ぬるい感覚、零さないように必死で飲み込んでいく。口の端から、つうと飲み込みきれなかったものが流れていくのがわかる。
掴まれた頭は、優しく撫でられて。飲みきったと思えば、ぬるりとした舌がやってくる。
腹いせに、ガリっと噛んでやる。
いってぇ、何も噛むこたぁないでしょうが。
誰が口移しでって言ったよ。
やるなって言われなかったんで。
ここ外じゃぞ、外。
家ならいいんすか。
肯定ってことで。
勝手にせいやい。
二軒目はなしです。家帰りましょう。
大人しく寝てくれな。
ごめんですね。あんたが誘ったんじゃないですか。
は、なんでそうなるよ。
否定、しないから。
言いたくないけれど、言わんとわからんのだよな。
あのな、そんな顔する金森君、誰にも見せたくないんじゃよ。
(足す)
見るのは、わしだけがええ。だから、家がええって言っとるんだ。
わしは、狸じゃからな、誰もみやせんが。君は、あの、その、別嬪さんじゃから。
あー、歯が浮きそう、とっととタクシー捕まえて帰ろう。酒ならうちにもあるじゃないの。な。
金森君?金森君?
あんたも、そんな顔、よそでしないでくださいね。
ひょいと小脇に抱えられる。
金森君、ちょっと、おい。
予定変更です。
足は、乱立するホテル街に。あ、これは、まずい。
タクシー拾えばすぐじゃろうが。
古来より、据え膳食わぬはと言うじゃないですか。
意味が違う!
酒の勢いってのも大事ですよ。
らしくないぞ、金森君。
誰のせいなんですかね。
わし?
いつまでも自分のことを子狸だと思ってるみたいなんでね。自覚してもらおうかと。
なに、が。
あんたも十分、色っぽいってことですよ。
ね、みどり。
お手柔らかに、
善処しかねます。
翌日、揃いも揃って仕事に遅刻したのは言うまでもなく。
数ヶ月は、社内で語られるようになるのは、知る由もなかった。
一旦。着地まで行ったので、終わります。
整地して、時期に投稿します。
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実験
初公開日: 2020年04月10日
最終更新日: 2020年04月11日
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