探技と曲の話を書きます。
『』
慣れた手付きで火薬を量り、取り分け、流し込み、布に包んで玉の形にまで整えてくれるさまを、ぼうっと見ていた。マイク自身、自分以外で火薬の類を扱える人間を知らず、更に言うならノートンはマイクよりも遥かに専門的な知識を持ち合わせたうえで爆弾作りを手伝ってくれたものだから。それが新鮮でもあり、驚きでもあった。
どうにも爆弾を作っていく中で分からないところがある、と困りながら部屋へ招き入れたのがノートンである。誰に相談すればいいか分からないながら、とりあえずはと目についたサバイバーに声をかけてみれば、これが正解だったらしい。探鉱者であるノートンがもともと鉱夫だったという話は耳に入れたことがあったものの。こうして火薬を扱うところを見ることで、マイクはようやっと飲み込むことができたのだ。
「そりゃあ山を掘ってたんだから。これくらいはね」
「そういうもんなんだ」
「そういうもん。君は観客を楽しめるために思いついたのかもしれないが、本来は相当慎重に扱わないといけないものだからね」
首を傾げたところで、やれやれとでも言いたげにノートンは息を吐いた。指摘された通り、マイクにとって爆弾とは、観客を退屈させないための隠し味に等しい。同じ芸を見せるだけでは、飽きられてしまう。それはいけない。飽きることも退屈することも、じんわりと心を殺していく。そういうものとして、今まで考えてきた。しかし、ノートンにとっては違うのだという。
「いいかい。火薬の扱いには気をつけなきゃいけないよ。油断したら、ボンでドカンでガラガラでグシャだからね」
へらり笑って溢されたはずのそれには、不思議な重圧があるように思えた。ああ、そうだと記憶を掘り起こす。確か、彼女も火薬を見る目が違っていたのだと。もっとも、彼女の方がずっと、嫌悪感を剥き出しにしてマイクの爆弾を見ていたのではあるが。なので、念のため釘を刺しておくことにする
「ノートン」
「うん?」
「それ絶対トレイシーの前で言っちゃダメだからね」
「トレイシーの?」
「そう。あと、今この匂いつけたまま会うのもダメだと思う」
「まあ、うん、とりあえず分かった」
頷いたノートンは、相変わらず読めない笑みを浮かべたままだった。やはり、どうにも分からない人だとマイクは思う。
食堂へ向かう廊下を曲がる直前で漂ってきた妙な匂いに、トレイシーは眉を寄せた。率直に言って、トレイシーの忌み嫌うそれである。食事なら急ぐ必要はない、引き返そうかと考えたところで、曲がり角から男が現れた。
「なんだ、ノートンくんか」
「なんだって君ねえ」
数秒遅れて、気付く。呆れたように笑うノートンから、先程の匂いが漏れ出ていたこと。咄嗟に半歩、後退りすると同様に半歩、歩み寄られる。くるりと身体を反転させて逃げようとしてみれば、がっちりと太い腕で肩を掴まれた。
「どうしたの。気分悪い?」
「うん、まあ、ちょっと」
「部屋まで送ろうか」
「そ、れは、いい」
今ばかりは、彼の気遣いが恨めしい。いや、そもそも。ノートン・キャンベルという人はこうだっただろうか。確かに、誰にでもある程度の気遣いは注いでくれるような人ではあるけれども。それも、一定の線引きや距離感のうえでのものではなかったか。そこまで考えて顔を上げると、ノートンのおぞましい視線とかち合った。好奇と興味ばかりが詰め込まれたこれに、寒気を覚える。ようやっと気付いた。気付いてしまった。
「ノートンくん、それ、わざとでしょ」
「わざとって、何が?」
何とも形容し難い悔しさに唇を思い切り噛む。言わせるつもりか、直接、トレイシーの口から。
カット
Latest / 56:36
カットモードOFF
文字サイズ
向き
チャットコメント通知