桃太郎になるはずの俺が2週目の浦島太郎になってしまった件について
むかしむかしあるところに、お爺さんとお婆さんがいました。お婆さんは川へ洗濯へ、年に似合わぬレベルでお婆さんにベタ惚れなうえやたらに心配性なお爺さんもお婆さんについて川へ行きました。お婆さんが川で洗濯をし、お爺さんはその背後で忙しなくうろうろとしながらそれを見守っていると、突然我慢ならないと言った様子で、
「ええい、これ以上婆さんの滑らかな陶器のような肌が荒れていくのは見てられん! わしが変わろう!」と言い、お婆さんから洗濯物をとりあげてしまいました。
「あらぁ、お爺さん、嫌だわ陶器みたいだなんて。私のお肌なんてもうしわしわですよ」
「わしにとってはいつまでも綺麗でかわいい婆さんなんじゃからいいの!」
「あらあら、うふふ」
「婆さんてば、笑った顔も素敵じゃのう」
「お爺さんてば、昔はどの娘にもそんなこと言ってたじゃありませんか」
「今は心に決めた婆さんにだけじゃよ」
そんな風にイチャイチャしている老夫婦でしたので、川上からどんぶらこどんぶらこと、常識の範疇を超えたなんともファンタジックな大きな桃が流れてきていることに気が付きませんでした。その桃がすぐ側を通っても、川辺の老夫婦にとってはアウトオブ眼中でした。
大きな桃はそのまま、どんぶらこどんぶらこと川を下り、時に動物に狙われたり、時に激流を下ったり、時に岩にぶつかったり波乱万丈な川下りを続けてゆきました。そしてとうとう、桃は海へと辿り着きます。夜の間ずっと波に揺られ、大海を彷徨っていた大きな桃は、朝方になってようやく浜辺に打ち上げられ、ひとりの男によって発見されました。
ひと昔前の釣り人のような格好の男は、真っ白に染まった髪を後ろでまとめ、髪と同じ色の髭を携え、しかしその見た目に似合わない、若々しい光を目に宿して海岸を彷徨い歩いていました。釣り人の男は桃を見つけると、早足で駆け寄りました。桃は激しい川下りで実が破け、その損傷は桃の中身が見えてしまうほどでした。男はその中身に違和感を感じます。何か、赤ん坊のような泣き声が聞こえた気がしたのです。男は慌てて桃の実の裂けている部分に手を入れて、そこから思い切り力を込めて桃を割りました。すると、中から赤ん坊が出てきたではありませんか。男は驚きましたが、元気よく泣き声をあげ続ける赤ん坊を抱き上げます。
「若さを奪われた俺に、赤ん坊をよこすとは。仏様もずいぶん物好きな方だ」
男は赤ん坊に顔を向けて笑いました。その笑顔はひどく自虐的なものでした。
「ここで赤ん坊を拾ったのは、仏様の思し召しに違いない。ああ、そうだ。俺はもう老いてしまった。だが、こいつをうまく育てたら、きっと奴らに復讐できる。俺から若さを奪った奴等に」
男は笑いました。その目は爛々と、復讐の色に燃えていました。赤ん坊はそれを見て、きゃっきゃと無邪気な顔で笑っています。
「ふ、はははは、そうだな、楽しみだな。ならばまず、お前に名前をやらないとな」
男は赤ん坊の出てきた大きな桃に、改めて目をやりました。
「名前は分かりやすい方がいいな、桃から生まれた子供なんだから、お前の名前は桃太郎だ」
桃太郎、と名付けられた赤ん坊は、なおも無邪気に笑い、男に手を伸ばします。
「お前も、もっとちゃんとした人に拾われてたら、こんなことにはならなかっただろうにな。こんな爺さんもどきに拾われて……」
男は自身の白髪に手をやり、寂しそうに微笑みました。
「見た目はこんなだが、実は、それなりに若い身なんだ。俺は浦島太郎。竜宮城に復讐すると誓った男。よろしく、桃太郎」
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初公開日: 2020年04月04日
最終更新日: 2020年04月04日
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