ソラノトウ
 ――遠いどこかで、少女は目覚めた。
 サトという少女は、ひとりぼっちで目が覚めた。彼女が目覚めた場所は、床も壁も石でできていて、ひんやりと冷たかった。どこかの部屋のようだ。
 サトは、この場所を知らなかった。なんというか、異国的だ。ここはどこなのだろう。そう思って辺りを見回しつつ、部屋の出口へと向かった。
 ――わあ。
 部屋から出たサトは目を瞠った。サトの目の前には巨大な空間があった。部屋から出た先は、部屋と同じように石造りの壁が上にも下にも円筒状に伸び続けている。そして、その円筒状に沿うように、階段がぐるぐると渦巻いている。サトはそのなかにいた。
 この景色を見て、サトは自分が今塔のなかにいるんじゃないかと思った。……それが真実かどうかは分からないが、サトはとりあえず、ここを塔だと思うことにした。
 塔の壁には窓がなかったので、自分が今どれくらいの高さにいるのか、サトには見当もつかなかった。塔の上を見上げても、下を見下ろしても、空洞がずっと奥まで続いている。上には光が、下には暗闇が見えて、見つめ続けていると、どちらかの空洞にすっと吸い込まれて落ちてしまいそうな気分になって、サトはぞっとした。
 知らない場所で、ひとりどうしたらいいのか分からなくなって、階段にしばらくぼうっと座り込んでいると、上の方から足音がしてきた。サトが見上げると、女の子がどこかの部屋から飛び出すのが見えた。その子はサトと目が合うと、「知らない子!」と叫び、こちらへ駆け寄って来た。サトと同じ、小学生くらいに見える。
「何してんの!」
「えっと……」
 サトは言葉につまる。しゃがんでこっちを見つめている。なんて返せば良いのやら。
「特に……何も……」
「ふーん?」
 回答に興味を示さなかったのか、女の子はそのままサトから離れていこうとした。サトは急に焦りを感じ始めた。
「あ、あの!」
 必死に呼び止め、サトは言葉を探した。
「ここがどこだか知ってる?」
「んー、知らない!」
「……日本人?」
「日本人!」
「名前は?」
「サト!」
「そうなんだ……」
 名前を教えてもらえたことで、少し安堵する。「あ、あの、わたしは、サトって言います」と、サトは自己紹介した。
「えっと……スミちゃんって、呼んでいいかな?」
「いいよー」
「良かった……。スミちゃんは、どうやってここに来たの?」
「分かんない! 気がついたらここにいた!」
「わたしもっ! わたしもなの!」
 スミも同じような境遇だと分かって嬉しくなり、思ったより大きな声が出た。塔のなかにこだましている。サトは恥ずかしくなって、すぐ気弱な声に戻った。
「ご、ごめん……わたしもさっき目が覚めて……。
 スミちゃんは、その……不安じゃないの?」
「なにが?」
「うーんと……色々と?」
「……」
 スミが急に真顔になった。その顔に、サトはどきっとした。何かまずいことでもいっただろうか。
「分かんないや」
 ……屈託のない笑顔。どうやら質問に真面目に考えてみたものの、何も思いつかなかったらしい。
 サトが呆然としていると、またどこからか足音が響いてきた。今度は下からだ。振り向くと、またひとり少女が階段を上ってこちらに来るところだった。身体はほっそりと痩せていて、白い肌が印象的だった。
 彼女は階段を上り、そのままサトたちを通り過ぎようとする。しかし、そこへスミが笑顔で目の前に立ちはだかった。
「どこ行くの?」
「……」
 その少女が何か答えようとしたところで、「おーい!」と呼ぶ声が聞こえた。恰幅の良い男が階段の上の方から姿を現し、こちらを見つけると近づいてきた。
「スミ、この子たちは?」
「ん、今見つけた!」
 スミはこの男とどうやら知り合いらしい。彼はサトともうひとりの少女に愛想よく笑いかけた。
「もしかして、目が覚めたばっかりかな。ここのことは何か知ってる?」
 首を振るサトを見て、男は「だよねえ」と頷いた。
「……って言っても、僕も大して何か知ってるわけじゃないんだけどね。とりあえず、ついて来て。他の人たちもいるから」
 そう言うと、男は手招きしてふたりを誘った。
 塔のなかには、十数人が住んでいた。子供も大人も男も女もバラバラなようだった。ただここにいる人々に共通して言えるのは、みな、どうやってここに来たのか分からない、もしくは、気がついたらここにいた、ということだった。
 そして、自分が死んだであろうということを、全員が自覚しているようだった。
 とはいえ、この〈死〉に関しては、確証をとったわけではない。ただ、なんとなくここにいる人々の雰囲気と所作、自分の最期の記憶から漂う死臭のようなものを、誰もが感じているようだった。
◆――――――
 スミは、サトと同じように、この塔のなかで目覚めたようだった。サトがどこに行くのかと聞くと、スミは塔の一番上と答えた。
「明るい方と暗い方だったら、明るい方へ行きたいじゃん?」
 だから、スミは塔を上るのだと言う。(探検とかの方がそれっぽいかも)
 スミとサトは塔の階段を上っていく。サトは塔の天井を見上げた。天井に見える光は、ここから一体どれほど先に存在するのか、まったく見当もつかなかった。
 しばらく上っていくと、また別の少女がひとりいた。彼女は階段の途中で座り込んでいた。少女はョーノと名乗った。
 ョーノも塔の上を目指しているのだという。
 そこで三人は、この塔の上を目指して歩くことになった。
 三人は塔の上を目指して階段を上っていた。塔には螺旋状に階段があり、塔の壁には水が滴っている。その水は黒々としていて、なんだか気味が悪い。
 上っていると突然、何かのうめき声のようなものが聞こえてきた。人間ではなく、獣のような声。だんだん大きくなってくる。サトたちは近くにあった小部屋に隠れて息をひそめた。
 部屋の陰から階段の方を覗いていると、得体の知れないものが現れた。
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【一次創作】ソラノトウ進捗
初公開日: 2023年01月17日
最終更新日: 2023年01月25日
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コメント
目が覚めると、そこは塔のなかだった――
次回の新刊予定『ソラノトウ』の原稿です。
まだあまり配信の仕方が分かっていません。
基本ながら作業なので執筆速度遅いと思います。
危なくなったらR-15つけます。