「悪いな、ヒュース今日は寝込んでてさ」
「そうなんですか…」
先日の約束通り、玉狛支部に訪問してみたのだが…迅さんの言う通り、今日は用件の主には会えないようだった。
ヒュースとは、ボーダーの遠征選抜試験で知り合った。
閉鎖環境試験ではチームメイトとして一週間共に暮らし、共に課題を進めた。最初はどうなることかと思ったが、無事に良い成績で試験を終えることができてホッとしている。
そしてそれ以来、時々会っては食べ歩きなどをする不思議な仲になった。
「あっ若村くん!今日は晩御飯食べていかない?」
宇佐美がひょっこりと顔を出す。
「今日は宇佐美の手料理か~」
「えへへ、後で他の皆も来るし頑張っちゃうぞ~~~」
なんかこの雰囲気、いいな。
せっかくの機会だし。
「じゃあお言葉に甘えて…」
リビングに向かって廊下を歩いていると、階段を上ってくる人影が見えた。
壁に手を付きながら歩いているが、どこからどうみてもふらついている。フードを被っていて顔があまり見えないが、あれは…
「ヒュース?!」
思わず駆け寄る。
心もとないので身体を支えると、結構熱い。
フードの下から覗いた顔も、いつもより赤くなっているように見えた。
当然だ。だってこいつは今、風邪で寝込んでいるはず。
「…麓郎か。来てもらったのに悪いな」
「あ、いや、それより大丈夫か…?」
と聞いてみたが、大丈夫ではないだろうな。話していても辛そうだ。
「何か欲しかったのか?」
「トイレに行っただけだ」
なるほど。
それにしても。
「おまえ、フード取った方が…」
「取るな、寒い」
寒いなら…まあそうだな。
「とりあえず部屋まで連れてくから、ほら、乗れるか?」
「…風邪がうつる」
「いやそう言われてもほっとけねえし…」
「…」
ヒュースは無言でオレの背中に乗った。「部屋に連れてく」とは言ったものの、同じくらいの体格のやつをおぶるのは結構きつい。頑張って階段を下りる。
「こっちか?おまえの部屋」
「ああ…」
耳元で覇気のない気だるそうな返事が聞こえる。本格的にヤバそうだ。こいつはまったく、誰もこなかったらどうするつもりだったのか。
部屋に入ると「下ろせ」との指示が飛んでくる。風邪を引いていても偉そうだな、と思いつつベッドに横たえてやると、ヒュースはそのままうつ伏せになった。なんとしても仰向けにはならないぞ、という強い意志を感じる。
「…うつ伏せじゃ辛くないか?」
「これが楽なんだ」
そういう人もいるか。病人が「それがいい」というなら、こっちはそれに従うだけだ。生まれ育った国も違うしな。
「次からはちゃんと助けを呼ぶんだぞ」
オレの言葉にヒュースは珍しくしおらしく頷き、その後すぐに力尽きたかのように眠りについてしまった。酸素が足りなさそうに呼吸をしながら。
少しだけ見えた表情は、いつもよりあどけなかった。いつもは大人っぽく見えるが、熱を出すとこうなるのか。そういえばオレより1個年下だったな。それを思うと、試験のときにも時々子どもっぽい言動があったかもしれない。
それにしても、こいつを手懐けてる三雲はやっぱすげえ……。一度練習風景とか見てみたいな…………
……
……
…郎
「麓郎、起きろー」
「?!すみません!」
「いやいや。ここにいたんだな」
「あ、えっと、こいつが廊下で倒れそうになっていたので運んで、そのまま…」
「そっか、ありがとな」
「いえ…」
どうやらあのまま寝落ちしてしまったようだ。傍らではヒュースがぐっすりと眠っていた。さっきよりは呼吸が穏やかになっている気がする。
「熱は少しは下がってきてるんだけど、まだ安定しないから、数日は動けなさそうだ」
「なるほど…」
オレはその場に立ち尽くしていた。寝起きで頭が働かないのだ。
「そういえばヒュース、おまえのこと良い隊長だって言ってたぞ」
それを知ってか知らずか、迅さんが突拍子もないことを話し始めた。
「そうなんですか…?!」
「しっかり考えてるとか行動力があるとか何とか」
「…!!」
ただただ嬉しい。あんなに不甲斐ない隊長だったのに。
しかもあいつは厳しくて容赦ない印象があったので、そんなことを言ってもらえるとは思わなかった。
でもそう思ってもらえたなら、オレが隊長をやった意味もあったのかもしれない。
香取隊でも、もうちょっと役に立たないとだな………。
ぐるぐると考えていると、
「あっいたいた!」
部屋の入り口のところに、宇佐美が立っていた。
「ごはんできたよ~!」
「おーありがとな!じゃあおれたちもいくか」
「…はい!」
早く治せよ、とヒュースに一声かけて、部屋を出る。
あいつの風邪が治ったら、またここにお邪魔するか。そんなことを思いながら、玉狛支部での夜は過ぎていった。
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20220501_若村とヒュ_ちょっと書く
初公開日: 2022年05月01日
最終更新日: 2022年05月01日
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コメント
若村+ヒュの話をちょっとだけ書く。cp 要素なし。