第二話 ニートヒーローはランチを食べない
 たちばな市は、西にある地方都市のひとつです。
 おすすめは駅前のアーケード商店街と漁港の朝市。今回私は、商店街のお肉屋さんでコロッケを食べ歩き→たちばな神社で森林浴→朝市食堂のとれたて新鮮なお刺身とお野菜を堪能ルートで弾丸ツアーしてきました。
 電車でも車でも行きやすい場所です。と〜っても素敵なのでぜひ一度行ってみてください!
「こんな綺麗なもんじゃないけどね」
 誰かがまとめた観光wikiの文字を追いながら、適当にホイールを回す。いつからか、この街に訪れた人々の感想を見るのが日課になっていた。スクロールしても色の変わったリンク先ばかりで新しい情報が出てこなくなり、固まっていた肩をほぐすのに背伸びをするとカーテンの隙間から日が差し込んでいるのに気がついた。
「寝よ」
 ガチャガチャ。
 キィー。
 部屋の鍵を強引に開ける音がレム睡眠の脳内に跡を残していく。
 強盗か、はたまた男の一人暮らしに侵入する物好きか? と思ったが、気にせず布団を頭まで掛けた。あったかいは何よりも正義だ。
 ゴチッ
 乱暴に靴を投げたあと、無遠慮にドテドテ歩く音が布団越しに聞こえた。
「おはようヒーロー! 今日も元気にニートしとったあ?」
 物好きのほうだった。最悪。
「なんですか新聞ですかネットで十分です」
「ネットは興味あることしか教えてくれんよお」
 布団から顔だけ出すと、物好き、もとい京乃(きょうの)さんによってカーテンが開かれていた。攻撃的な日光が照らしてくる。そんな光線、僕には効きません。
「ほら! 今日もこんなにヒーロー日和だよお!」
「まだ昼じゃないですか」
「もう昼だよお!」
 太陽をも組み伏せる笑顔が目の前まで迫ると、掛け布団を引っぺがしてきた。
「きゃーヘンターイ」
「依頼溜まってんだから、早くおーきーてえ!」
「おまわりさーん」
「こんなところまでお巡りさん来れんよお!」
 そりゃそうだ。ここは高層マンションの四六階。日によっては雲の中にある。一一〇番しても何分かかることやら。ここは警備が厳しいから、警察官とマンションの警備員がごっつんこするかもしれない。その間に京乃さんは逃げてしまうだろう。
「分かりました。起きます、起きます」
 この人相手に大捕物しようなんて、僕は思わない。無謀な戦いは挑まない主義だ。
「素直でよろしい」
 満足げな顔をしている。これが噂に聞くドヤ顔か。今や天然記念物だな。
「で、依頼はなんですか?」
「ああ、はいはい」
 ジーンズの尻ポケットからくしゃくしゃの紙を取り出した。いやそれ大事なやつでしょ。
 床で押さえながら広げたかと思えば、力が強すぎて破った。
「あーらら……まあいいやあ」
 いくないよ?
「ええと、今日はまず子守りの依頼だねえ」
 子供かあ。割と苦手。
「今日参観日の振替休日で、お父さんが急な仕事入っちゃったけん子供の面倒を見て欲しいんだってえ。小学生のお姉ちゃんと保育園の弟と妹。名前はえ〜とりき? 宙(うちゅう)? ゆ、たあ?」
 そこ破れてるから読みにくいね。
「本人に聞くんでいいです」
「あ、そう?」
 これ待ち合わせ場所ね、と言って黄色の付箋を渡してきた。わぁ〜アナログぅ〜。
「じゃあ早く着替えてえ!」
 パンっと手を打って行動を急かしてくる。せっかちさんめ。
 部屋と廊下を隔てる壁に備え付けらた扉を開け、綺麗に洗濯されたヒーローコスチュームを取り出す。
「あの……」
 コスチュームを抱えながら京乃さんを見ると、あ! と大きな声を出して
「ごめんね恥ずかしいよねえ」
 部屋からそそくさと出ていった。
 着替えると言っても、コスチュームは文字通りただの服。ニット生地のハイネックとジーパンと靴下だけ。これがあれば凡庸な少年に変身できる便利なアイテム。
「着替えたあ?」
 顔を洗って靴下を片っぽだけ履いたところで、廊下から顔だけ覗かせる京乃さん。
「はいはい、行けますよ」
 暇を持て余した京乃さんがいらんことに首突っ込んで早とちりする前に、支度を済ませてマンションを出た。
 付箋に書かれた待ち合わせ場所は、森に近い住宅街の一軒家だった。周りには同じ形の家が立ち並んでおり、建売区画の一つのようだ。苔の生えた赤茶色の瓦屋根と雨垂れが残る白い壁。猫の額のほうが広い庭にはススキが茂っている。
 表札を確認して古びたインターホンを鳴らすと、六歳くらいの女の子が出てきた。チェーンが突っ張ったドアの隙間から僕をじっと見るだけなので、
「ご依頼ありがとうございます、ニートヒーローです」
 言ってみると、
「あっ」
 と部屋の奥に行ってしまった。
 開けっ放しのドアの隙間から漏れ聞こえる会話に耳を澄ますと、
「ニートヒーロー来た!」
「ニートヒーロー⁉︎」
「だれ〜?」
「パパが言ってた人!」
「どこ〜?」
「玄関来とる!」
「見にいこ!」
「ゆちゃも〜!」
 三人分の甲高い興奮した声と足音が近づいてきた。と思ったら、いきなりドアが開け放たれた。
「がっ⁉︎」
 鼻打った。子供の視線も鼻も痛い。二重苦。メビウスの輪を緊箍児にされたようだ。助けて神様仏様三蔵法師様。
「お姉ちゃん、これ〜?」
 ほほう、さっそく物扱いですか。
 見上げると、ドングリまなこが愛くるしい少女二人と、目の形がよく似ている可愛らしい少年一人。こんなに一度に摂取したらロリコンに目覚めてしまうかもしれない。ショタコンでも可。
「鼻血出てるよ」
 マジかよ。
「すみません、ちょっとティッシュとか無いですか?」
「ティッシュあるよ!」
 少女二人のうち、最初に出てきたお姉さんのほうが部屋の奥からポケットティッシュを持って戻ってきた。
 ビニールから取り出すと最後の一枚だった。幸い出血も少ないのでとりあえず鼻に詰める。子供三人に見られながらの応急措置ほど恥ずかしいものはない。
 屋根の下の安全地帯から動かない三人だったが、不意に弟くんが口を開いた。
「お家入んないの?」
 入ってよかったんですか?こちら今のところ鼻血出しただけの不審者ですが。
「一緒に遊ぼ〜こっち〜」
 妹ちゃんが手を引っ張って招き入れてくれた。柔らかい手と優しさが心に沁みる。
 部屋に上がると、そこには街が作られていた。コップの二階建て、お皿の平家、カラフルなチラシの道路。ちゃぶ台の上に手のひらサイズの三体のぬいぐるみが死体のように転がっている。どうやら鬼の居ぬ間におままごとの最中だったらしい。
「ここモピーの家」
 お姉ちゃんはピンク色の熊のぬいぐるみを一際高い『家』に立たせた。胴体をぎゅっと掴み、片足ずつ動かして歩かせている。
「お出かけするよ!」
「いいよ」
「ニートヒーローこれ〜」
 妹ちゃんに小さいモンスターの人形を渡された。これは、確かバスボムサイズ。しかも発売に合わせてデザインがリニューアルされた限定品ではないか。いまだにネット販売されなくて、焦らすのが上手い運営を憎悪しつつもみんな大好きだ。
「ゆちゃの新しいママ可愛いの。明日〜可愛いお洋服買いに行くの。ゆちゃピンクのやつにする〜」
 妹ちゃんがいっぱい喋ってくれる。陰キャに優しいロリありがとう。
「あんね、パパと新しいママが結婚したらね〜、犬飼って大きいからぎゅってする」
「へえ、いいっすね」
「ニートヒーローは犬いる〜?」
「いやあ、二人分の命飼うほどの甲斐性ないですね」
「首輪もう決めてんの。赤いの〜」
 無視かい。
 精神年齢が下がる思いで心地よく遊んでいたところ、弟くんが前触れもなくすくっと立ち上がった。
「お姉ちゃんおなかすいた〜」
「ごはんなに?」
「今日『いちはら』で買うんだよ」
「え〜」
「お姉ちゃん作らんの?」
「りら作れんもん」
 お姉さんが食器棚の引き出しをゴソゴソ漁った。取り出したるは白い封筒。ATMに添えられているタイプの封筒で、端に『いちぎん』のロゴマークが入っている。
「ご飯のお金これ。パパ、ニートヒーローに預かってもらってって言ってた。ニートヒーローの分もあるよ」
 豪遊しちゃうぜ?
 ここが有名なスーパー『いちはら』か。
 ここで軍資金を確認しておく。ロゴマークが輝く白い封筒。厚みはあまり無い。振っても祇園精舎金の声は聞こえない。硬貨は入ってなさそうだ。中には千円札が一枚。諸行無情なり。
 店内に入ると、三人は一目散にお菓子コーナーへ走り出した。
 買い物かごを使わないほうが節約になるという噂は本当だったのか。
 下段の棚をじっと見つめる妹ちゃんの視線の先には、ココアビスケットに真っ白いクリームが挟まったお菓子。二個入りの小さな小袋。
「ゆちゃこれ好き」
「ふ〜ん」
「ニートヒーロー好き?」
「食べたことないですね」
 妹ちゃんは僕の顔をじっと見たあと、ビスケットをひとつ掴んでお姉さんのところに走っていった。僕、置き去り。
 一方その頃、弟くんは一袋にカードが五枚入った小袋を真剣に見比べていた。今期放送中の戦隊モノ、顔が良いだけの主演俳優かと思ったら演技もできるタイプでネット民の評価爆上がり中のエイカードじゃないかお目が高いな君。けどそれじゃお腹は膨れないぞ。
「それ買うの?」
「買って!」
「は? 無理」
 何も無かったように二つの小袋を乱暴に戻し、別のお菓子を見に行ってしまった。ええ……また?
・公園で遊ぶ、全力で遊んだら体力なくてすぐへばった。東屋でお昼寝、妹に膝枕
 お姉さんは友達を見つけてつるみに行ってしまった。
「ニートヒーローは不幸?」
 足をぶらぶらさせながら、俯いて言った。声に抑揚がない。
「難しい質問キタ」
「不幸?」
「そうですね」
「なんの不幸?」
「今日だけでいうと、コードが絡まってる不幸、漫画が折れてる不幸、掛け布団引っ張ったら足が出る不幸、時計を見間違う不幸、お菓子の袋が変な場所破れる不幸、ゼリーの汁が飛ぶ不幸、服が裏返しの不幸、靴紐がすぐ解ける不幸、軽くこんなものですか」
 弟くんはなにそれ、と口を尖らせた。
「全然不幸じゃないし。全然悪くないじゃん。やっぱり僕のほうが不幸だ」
「どうしてですか?」
「だってエイカード買ってもらえんし、カード弱いのばっかけん交換してくれんもん」
「じゃあ、それも悪くないやつですね」
「違うよ!」
 大きな声が出るじゃないか。元気そうでよかった。
「同じです。同じ不幸」
 すると、弟くんは地団駄を踏んでう〜っと唸った。
 同じ、だけど一緒じゃない。一緒にしてはいけない。こんなものと比べてはいけない。
 妹ちゃんが目覚めたようだ。下側にしていた右のポケットをゴソゴソしている。
「これあげる」
 妹ちゃんが両手で差し出してきたのは二枚入りビスケット。恥ずかしいのか、丸い頬は桃色に染まっている。それ大事なやつでは?
「食べて」
「……ありがとうございます」
 袋を開けると、中のビスケットは粉々に割れていた。どうしてくれよう。かけらを一つづつ摘んだほうがいい感じ?
「美味しい?」
「はい」
「美味しい?」
「……美味しいです」
 妹ちゃんは満足そうな顔をして、ビスケットを食べる俺をずっと見ていた。そんな眩しい目で俺を見ないで焦げそう。
・お礼に父、姉、弟、妹と激安スーパーへ昼ご飯の買い出し
「今日は好きなもの八個買ってあげる!」
「ヒーローさんも欲しいもの言ってくださいね。お礼ですから」
「じゃあ、これで」
 手近にあった二枚入りビスケット。
「これ大袋ありますよ、安いやつ」
「これがいいです」
・何者かが家族を狙ってスーパーに乱入、裏から出る、坂道を降る、妹がコケる抱き抱える、父姉弟は自転車で爆降り、蛇行しながら下る、新都は左の細道に入って撒く
・お金は依頼人が払える額だけ
・源五郎からの掟(受けた依頼は必ず達成すること=名前を上げるため)
・源五郎の言いなりの新都、京乃に文句を言われるが右から左
「レールの上しか見えてないんじゃないの?」
「外れるよりかは、精神衛生上良いですから」
・源五郎がこの街を牛耳って2年(市原の老人が死んで2年)
「ニートヒーローは、どこまで知ってる?」
「知ってていいとこまでですよ。あの子は知りすぎてしまったのが運の尽きでした」
・新都なりの反抗(自分がニートであることで外聞を悪くする)
「蚊みたいなものです。終わりに気づいた虫けらの、少しばかりの抵抗ですよ」
・学校に行ってないから給食を食べな い、ニートなので変な時間にご飯を食べる
「僕らも望まれたわけじゃないですから」
「人間ならなんでもよかったんよね」
・双子母が京乃であることが確定
「僕も」
「私も」
「あいつも」
「双子たちも、ね」
「妥協と政治的判断の結果でしたね」
・たとえ籠の鳥でも居心地がよければそれでいいという考え
・新しい依頼を受ける
・渋々依頼先に向かう
「ねえ新都、今日は外食せん?」
「結構です。姉さん」
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ニートヒーローはランチを食べない
初公開日: 2021年10月22日
最終更新日: 2021年11月11日
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