剛希のあまりに真剣な眼差しに、瑠樺は一瞬恐怖を覚える。
 妙に緊迫した空気がやけに不快で、剛希が表情を険しくした理由も知るために身を縮こまらせて恐る恐る口を開く。
「あの、剛希さん。どうか、されましたか……?」
 不安気な瑠樺の声を聞いた剛希は、瞳を閉じて長めに息を吐いて流夜と蓮、そして瑠樺に見せつけるように三本の指を立てた。
「アタシが調べた限り、組織の幹部は三人。そのうちの一人は以前に瑠樺ちゃんと蓮くんが倒した“花去”という人よ」
 
 花去――以前に忍び込んだアジトで戦った、爆弾を扱う少年の事だろう。子供らしい歯を見せて意地悪に笑う姿は、今でも鮮明に思い出せた。
 剛希は立てた三本指の一本をゆっくり折り曲げて見せると、残った二本の指を険しい眼差しで見つめる。
「残りのうち一人は誰か不明。これに関してはずっと調べているけれど、まだ特定できていないわ」
 息を深く吐きながら、剛希は呟く。
 この一人については分からないから飛ばすわね。そう言ってもう一本の指を折り曲げる。
「――問題は、最後の一人よ」
 先程までよりもはっきりとした低い声色で剛希は話す。
 その声に籠った威圧感と言葉の内容に、その場にいる全員の注意が惹きつけられる。
 瑠樺は静かに息を呑んで次の言葉を待つ。
 やけに険しい剛希の瞳から、僅かな不安が見えたような気がした。
「あなたたちがデパートに向かったあの日の前夜、ある刑務所で爆破事件が起きたのよ」
 爆破事件――その出来事にわずかながら心当たりがある瑠樺。
 蓮や流夜とデパートに向かったあの日の事なら尚更だ。
 デパートの開店前に店の外で待っていた時、蓮のスマホのニュースアプリで爆破事件の事を知っていた。
「その刑務所にいたのは崩紫紗雪という女。あなたたちが昨日電車で戦った女の姉であり、組織の第三幹部の一人よ」
 剛希の言葉を聞いた瑠樺は目を見開く。
 刑務所にいる幹部、そこで起きた爆破事件。そして、先日の女の発言。
「脱獄した。ってことですか……?」
「そういう事になるわね。これは少し厄介になりそうだわ」
 ぽつり。呟く瑠樺に、剛希は深くうなずく。
 そんなこともあるのか。と他人事のように思いながら、またどうにかなるだろうと根拠のない思いで蓮へ視線を向ける。
 今回も、いつものようにめんどくさそうな困り顔をしていると思っていた。
 だが、そこにいた蓮の様子は瑠樺の予想とは大違いで、顎に手を当てながら眉間にしわを寄せる険しくも近寄りがたい雰囲気を放っている。
 どうやら今回は瑠樺が思っているよりも事態が深刻なのかもしれない。
「その紗雪って人は、強いんですか?」
 放つ瑠樺の問いかけに、剛希は指をパチンと鳴らして口角を上げる。
「強いわよ。恐らく、あなたたちが戦ってきた今までの奴らよりも遥かにね」
 剛希の言葉は、瑠樺の心の奥底に眠る大きな不安を揺さぶった。
 遥かに強い――それが、どれほどの事かは分からない。
 ひょっとしたら、今までの苦しかった戦いが比にならない程、手強い相手なのかもしれない。
 ――先日の列車の女だって、倒しきる事はできなかったのだ。
 瑠樺の心を、全身が冷えるような不安と零れるような焦りが覆いかぶさる。
「紗雪は、アタシの元恋人よ」
 剛希がぽつりと零したのは、沈黙の間が続いて妙な空気感になっていた時だった。
 思いもしない発言の内容に瑠樺は思わず『えっ』と気の抜けた声を上げてしまったが、剛希はどこか遠い所を見つめて微笑んだ。
「元々は、以前に勤めていた会社での部下だったのよね。真面目で頑張り屋で、よく仕事をこなす良い女だったわ」
 懐かしむように剛希は話を続けた。
 上司と部下だった剛希と紗雪。時を得て少しずつ仲が良くなったらしい。
 紗雪の複雑な悩みを聞いているうちに”この人を守りたい”と次第に思うようになり、剛希から気持ちを伝えて恋仲になったんだとか。
 楽しそうに二人の過去の思い出を簡素にだが話してくれていた剛希。
 突然、剛希が黙り込んだと思い瑠樺が剛希へ視線を向けると、先程までの幸せそうな笑みが幻のように消えていた。
 約十秒ほどの無言が続いてから、剛希は口をゆっくり開いて大きく息を吸い込む。
 その揺れ動く瞳には、後悔の念が強く表れていた。
「アタシが馬鹿だったのよ。あの子の抱えているモノに、あの子自身にちゃんと向き合ってあげていれば――」
 ――今。こんなことには、ならなかったもの。
 それは、紛れもない剛希の本音であり、その人生を大きく変えてしまうほどの”後悔”なのだろう。
 少し困ったように微笑む剛希。だが、悲しんでいるようにも見える。少なくとも瑠樺の瞳にはそう映った――
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鳥頭三歩
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55:49
睦月しろは
コメントありがとうございます!言葉が出てこなく苦戦しました(汗)
56:05
睦月しろは
過去の話を読み返しながら少し休憩してきますね!いつもありがとうございます
133:48
オカタピ
遅くまでお疲れ様です、まだやる事が残ってるので挨拶落ちですが、頑張ってください!ファイトです!
134:13
睦月しろは
あぁぁぁぁぁぁありがとううううううううううううううううやる事が何か分かんないけど応援してるからねえええええええええええ
159:40
オカタピ
ここ難しいですね、、、、、
160:15
睦月しろは
めっちゃ悩むw使いたい一文使おうとすると詰むので別の場面で使います(?)
164:25
睦月しろは
あぁぁぁぁあすっきりした…結構書いてるっぽいからちょっと休憩してきます!
164:37
睦月しろは
オカタピさんありがとね!!!!!
164:58
オカタピ
了解です!糖分とってしっかり休んでくださいね!
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悲願のバレット 45話
初公開日: 2021年10月12日
最終更新日: 2022年01月15日
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