1  二人の新入生
物心ついた時から、松田正久の胸の奥底には、言い知れぬ感情が常に棲みついていた。
目を背けたくなるような何かーー幾たび擦っても消すことのできない汚れ。
その胸に重く渦巻くものが何であるのかずっと分からずにいた。それが嫌で、その正体を知りたくて、幼い頃から夢中になって本を読んだ。知らないことは本を読めば分かると思った。なるほど成績は上がったが、求めている答えは一向見つからなかった。知識としての「感情」を増やすために文学も手当たり次第に読んだ。それでも、ぴたりとはまる答えが見つからない。
学力だけは際限なく伸び続け、松田は全国でも屈指の進学校と言われる私立中高一貫校へ進んだ。
しかしそれももう、三年前のことである。光陰矢の如し、この春松田は高校へ上がった。外部の高校へ進学する者はほとんど無いため、引き続き学園生活を共にすることになる学友たちと形ばかりの中学卒業式を終えたのがつい先月である。明治の頃から残る木造の風情ある中学校舎から、コンクリート造りの高校校舎へ移った松田は、初日の授業を終えると、所属している新聞部の部室へ向かった。
松田は新聞部の部長を務めている。部を作ったのは松田で、上級生はいない。この学園では中学生と高校生は共に部活動を行うので、高校に上がってもこれまで共に活動を行なっていた部員たちと別れることはない。
部室の扉を開けると、古びた机に向かう丸まった背中が見えた。
「また書いてるのかい。今月の記事はもう上がっただろう、中江」
「もっとええのが書けそうな気いする。記事のストックはいくらあったって困らないだろ」
中江篤介が背を向けたまま答えた。
「まぁね。助かってるよ、君の書く記事は評判がいいから」
中江は松田の同級生で、新聞部の創立部員である。新設の部が今ほど認知されるようになったのは、ひとえに中江の書く記事がおよそ学生とは思えないほど成熟しているためだ。中江は新聞部の活動に打ち込みすぎて、中学三年の頃から授業を休みがちとなっている。辛うじて高校へ進むことはできたが、このままだと高校で留年という前代未聞の偉業を成し遂げることになりかねない。
「でも高校からはもう少し授業に出てくれよ。俺はお前と一緒に卒業したいんだ」
中江は松田と同い年である。しかし中江は今二年生だ。もともと朝に弱い質ではあったが、遅刻の回数が日増しに増え、ついには午後から姿を現す日の方が多くなった。数々の奇行によりもともと校内では名を知らぬ者のいない男だったが、高校二年で留年が決まった時、その有名人としての地位は頂点に達したのだった。
松田は中江に少し腹を立てている。一緒に卒業したかった。何が悲しくて親友に見送られて卒業しなければならないのだろう。
「分かった、分かった、その件は俺が悪かった。でも、お陰で廃部は免れただろ」
新聞部は松田が高校一年の時に新設された部だ。新設されたというより、松田が作った。だから部長を務めているのである。創設部員は松田と中江、それから三年の光妙寺の三人だ。
あまり押しの強くない松田は勧誘が得意ではなかったが、奇人として校内で名を馳せる中江見たさに、二年になったばかりの時は下級生が何人か入った。しかし中江のあまりの破天荒ぶりに早々について行けなくなったのか、知りたいことがある程度分かって満足したのか、次の春が来る頃には辞めてしまった。学校の規則で、一学年に一人以上部員のいない部は存続を認められていない。もともと学業優先の学校であるため、部活動は冷遇されている。危うく廃部になりかけたところで、中江の留年によって部の存続が決まった。
「しかしなぁ、一年を入れないとまた同じことになっちまうぞ。今度はちゃんと物を書くことに興味のある奴を連れてこいよ」
中江が手を止めて、椅子の背もたれに頬杖をついて松田を見た。その顔を見て松田はぎょっとする。
「まずはその髭を何とかしてくれ。それじゃ新入生を連れてきても驚いて逃げられてしまうよ」
「ああ」
言われて中江は口周りを手で撫でる。
「最近急に濃くなってきたんだよ。剃るの面倒くさくて」
「ここは君の書斎じゃないんだから。身だしなみにもう少し気を配っても損は無いと思うけど」
「そういうお前こそ、そろそろ新しいシャツを買ったらどうだ。それ、一年の頃から着てるだろ。俺が飛ばしたカレーうどんの汁の染みがまだ残ってる」
松田が無言でシャツの胸元を確認していると、後ろでがらりと部室の扉が開く音がした。
「松田、中江、聞いたか!今年の新入生に面白い奴がいるぞ!」
目をきらりと光らせた光妙寺が入ってきた。今日はピンク色のニットカーディガンを羽織っている。無論、そんな着こなしはこの学校では許されていない。ジャケットやスラックスをはじめ、シャツやセーターに至るまで学校指定のものを着用するよう義務付けられている。しかし洒落者の光妙寺はそれが許せず、いつも自分で見繕ってきたシャツやカーディガンを身に付けていた。生徒指導の教師に追い掛けられる彼の姿は、もはや日常の景色と化している。
「面白い奴?」
松田が聞くと、光妙寺はこれまた学校指定とは異なる茶色い革のスクールバッグをどさりと机に置いた。
「編入組がいるらしい。しかも二人」
「へえ、それは珍しい」
「だろ?うちは高校受験はやってないし、編入できるなんて余程のコネの持ち主か、金持ちか、成績優秀者だけだ」
確かにコネがなければ編入の申し入れすらままならないだろうが、それだけでは無理だ、と松田は思う。それで入れたところで、学力が伴わなければこの学校ではやっていけない。先行きの怪しい者をそう易々と編入させることはないだろう。
「片方は結構長い間フランスに留学してたらしい。なぁ松田、どっちか一人だけでもいいから新聞部に勧誘しようぜ。そうしたら話題になって新入部員来るんじゃ無いか?」
高校編入の新入生。確かに興味はあるが、新聞部へ勧誘するというのはあまり気が進まなかった。先ほどの中江との会話を思い出す。物を書くことに興味のある奴。まぁ、書けなくてもいい。せめて新聞作りや取材に興味があれば十分だ。
「去年の新入生たちを忘れたのかい?今度はちゃんと部に馴染みそうな人を探さないと」
「分からないだろ。もしかしたらその二人が新聞作りに興味あるかも」
光妙寺の言葉を聞き流して、松田は勉強道具を広げ始めた。
「ああ、嫌だ嫌だ、また勉強してる」
「受験生だし」
「図書室でやればいいだろ」
「集中できるんだよここの方が。中江の独り言が良いBGMになる」
「まじで言ってんの」
光妙寺も松田と同じ受験生だが、本人は服飾の専門学校に行きたいと思っている。しかし共に弁護士である彼の両親がそれを許さず、只今絶賛喧嘩中のようだ。
ふと横を見れば、中江は既に執筆作業へと戻っていた。フランス帰りの編入生の話題には興味が無いようだ。
「そういえば、もう一人っていうのは?どんな奴なんだ」
英語の参考書を開く。昨日の続き、単語の暗記から始めるか、とノートをぱらぱら巡った。
「あんまりよく知らないけど、なんか凄え美人らしいよ」
「女か」
「いや、男」
男に美人とは、一体どういうことだろう。美男子ということか。あまり深く考えず、松田は空返事をした。参考書の単語欄に目を落とし、nobleとノートに書き写した。
*     *     *
ここから先どうしよう 西園寺と松田を会わせたい
西園寺の学年に一人友達ほしい 巳代治とか?・・・いや仲良くできなそう〜笑
陸奥先生が教師陣にいて、西園寺と陸奥先生は遠い親戚とか・・・いや親戚は岡崎か
西園寺と陸奥先生は、西園寺が小さい時から知っている近所のおじさん的な
原くんは陸奥先生のいる学校だからこの学校に入った 岡崎もそう
えーん西園寺の友達だれにしよ〜〜同じ学年の方がよかったかな
新聞組を同学年にして伊藤たちを3年にした方がいいか?
*     *     *
嘘や、あんたは約束を守れへん
嘘じゃない、ずっと君のそばにいる。約束する。
あの時も同じこと言うた
あの時?
ずっとそばにいるって言うた。でもあんたは約束を破った
おまえはあんたはこちより先に死んだ
こちはあんたを許さへん
走り去る西園寺の背中を、松田は呆然と見ていた。呼び止めることも、追いかけることもできなかった。
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ぎょうざ丸
高校の新聞部って何するんだろう(知らんのかい)
15:53
ぎょうざ丸
調べるか・・・
48:33
ぎょうざ丸
今どきの高校生のお洒落カラーって何なんだろう…お洒落ピンクはもう古いんだろうか…
86:28
ぎょうざ丸
服飾の専門学校って入学試験とかあるのかな
87:40
ぎょうざ丸
あるっぽいな
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松西転生学パロ
初公開日: 2021年09月05日
最終更新日: 2021年09月11日
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下書き
松西転生学パロ 最終的に松西になること以外ほとんど何も考えてない行き当たりばったりの気晴らし
トーン貼りばっかりやってる
コミティアに向けて、漫画を描いてる、その進捗
おフェム
お題「お手柔らかに~~」
R15程度 68482で「お、お手柔らかにお願いいたします…」とかどうでしょう。
二兎二足