本編
「はい、これ」
 いきなり渡されたチケットに恵は野薔薇を見た。野薔薇は至って真剣な表情で「はよ受け取れ」と恵を睨んでいる。ガンを飛ばされる謂れはねえだろ、と呆れながらも、「真希さんがメインの日だから絶対行け」と押し付けられたので受け取った。真希は恵の従姉であり、野薔薇はどういうわけか真希のファンなのだ。
「こういうのはな、人数が多い方が盛り上がんのよ。ノリ悪いアンタでもいいから、真希さんのショーを盛り上げる為に協力しなさい。チップとかはいいから」
「いや……まあ、いいけど」
 真希が何をしているのかは恵も知っている。なんせ、一族ではその話題は毎年言われているらしく、叔父の扇が癇癪を起こしているのだそうだ。真依までもが家を出る為にホステスで荒稼ぎしてると知ったら憤死するのではないだろうか。
「アンタ、真希さんの事は知ってても実際に見に行ったことないんでしょ?」
「あるわけねえだろ」
「なら気を付けていきなさい」
 あ、やべ時間ないと野薔薇は午後の講義を受けるために大学の敷地内で最も遠い棟を目指して走り出した。何に気を付けろってんだよ、とチケットを財布に仕舞い込む。
 行ったことあるわけねえだろ、ポールダンスショーなんて。
 悠仁を誘ったものの、バイトだと断られてしまい、恵は一人で行ったこともない、行こうとも思ったことのない店に行かざるを得なくなった。幸い、地下鉄の駅から徒歩五分圏内にあるので、道には迷わないだろう。外観なども公式サイトやインスタなどで確認済だ。万が一、道に迷ってショーの時間に間に合わなかったと野薔薇に知られたら面倒である。あまり使わない駅なので、少々不安だが、まあとにかく行くしかない。
 そう思って駅を降りてみたものの、地図上では辿り着いているはずなのに、公式サイトに掲載されていた外観とは少々様子が異なる。公式サイトによると、バーレスクSの外観はそこまでわざとらしくない、街中に建っていてもおかしくないものだった。お陰で現在、どのビルなのかわからなくなっている。スマートフォンに表示されるナビを何度も確認しながら、ビルの周りをうろついたが、やはり見当たらない。ドアはあるが、それらしき入り口ではない。ショーの時間まで差し迫っているというのにどうしたものかと考えあぐねていると、「そこで何をしている」と後ろから声を掛けられた。
 そこにいたのは、服を着ていても分かるほどガッチリとした体型の顔にタトゥーを入れた男だった。随分と見た目が荒っぽいので、内心どきりとしたものの、従業員証らしきものを首から下げているのが見えた。恐らく店の関係者なのだろう。慌ててチケットを見せて道に迷っていることを説明した。
「興味があるのか」
「いや、従姉が働いてて。今日はメインらしいんで」
 そうか、と一言だけ言うと男は、恵を店の入口まで案内してくれた。先程まで恵がうろついていたのは店の裏側、スタッフ用の入り口だったらしい。普段は道に迷わないように事前確認をしているのだが、今回はあまり気が乗らなかったこともあってか、確認が足りなかったようである。
 男はそのまま入り口のスタッフと一言二言交わすと、入れと恵に促した。チケットを見せる必要はないのかと驚いたが、先程のやり取りで説明してくれたのだろうか。
「おい、お前」
 恵が男に礼を言おうとした時、彼は恵をまっすぐ見つめていた。
「最後までとは言わんが、ショーの後も少し残れ」
「? はあ、分かりました」
 何の意図があっての発言か知れないが、男はケヒッと笑うと、そのまま従業員入口の方に戻っていった。スタッフがじっと恵を見つめているのが居心地が悪く、そそくさと中に入る。
 ショーはまだ始まっていないらしく、何とか時間前に滑り込めたようだった。しかしそこそこ広い店舗内でどうしたものかと戸惑っていたらボーイが案内に来てくれたのだが、お互いに顔を見て、「えっ」と驚いた。
「なんで伏黒こんなとこいんの?!」
「それはこっちのセリフだ――バイトってここのか」
「そうだよ、マジで伏黒ここに観に来たわけ?」
「真希さんのをな、釘崎からチケット押し付けられたから」
「ん? 真希さんならこっちじゃえねえよ、姉妹店の方だわ」
 うわ、と二人して顔を見合わせる。間違えたことが野薔薇にバレたら面倒だが、今からでは間に合わない。どうしようかと立ちながら考えていたら、悠仁が別の客に呼ばれてしまった。
「とりあえずここ座って! ショー終わったらすぐ帰りなよ!」
 慌ただしく悠仁が去ってしまったので、仕方なくステージ近くの席に座る。途端にアナウンスが始まり、辺りが暗くなる。音楽に合わせてショーダンサーがやってきたのだが、恵は頭を抱えた。ダンスショーであることは間違いないが、ここはメンズダンスショーだったらしい。肉体美を曝け出したマッチョな男達がセクシーなウォーキングで現れる。美醜の好みは人それぞれだが、恵は男の肉体美を見て興奮する質ではない。女でもそれは変わらないのだが、まあ、その魅力はともかくダンススキルについて着目しておけばそれなりに飽きはしないだろうと視点を変えることにした。ショーダンサーとだけあって、観客への見せ方は素晴らしいものだ。音楽に合わせてセクシーなポーズをとったりするのも、まあそういうものと思えば何てことはない。きゃあきゃあと騒ぐ女性客の歓声の中、恵は一人ちびちびと酒を飲みながら静かに鑑賞していた。
 複数人でのショーが終わると、次はポールのあるステージが照らされる。本来ならば今頃従姉のポールダンスショーを見ていたのかと思うと、何とも言えない気持ちになった。ダンサーとしてのスキルに着目することで何とか現実逃避をしていたが、こういう少々いかがわしいと言うか、セクシーな空気は苦手とするところなので、従姉のそんなショーを見ずに済んだのは良かったのかも知れない。
 ステージに現れたのは、先程恵を店まで案内した、悠仁に少し似ている胡桃色の髪の筋肉質な男だ。手足がやたらと長く、スーツがよく似合う体型だが、なんとピンヒールを履いている。カッカッと歩いてステージの中央に君臨すると、観客席が静まり返った。冷めたのではない、寧ろより密度の高い熱気が無言の中に立ち込めて、異様に心臓がドキドキし始めた。一体何が始まるというのだろう。普段は周囲の空気に飲まれる質ではないのに、あまりにも熱気がすごすぎて緊張してきた。
 男は二本のポールの間に立ち、スーツのジャケットを脱ぎ捨てる。いつもなら歓声が上がる所なのだろうに、観客はひたすら声を殺し、固唾を呑んでいる。
 音楽に合わせ、男はゆらりと体を動かし、ポールに手を掛ける。足を絡ませ、くるりとポールを回ったと思ったら、体を回転させて、ポールに腕と足を掛けながら逆さまになった。こちらに見向きもせず、ポールとのセックスをしているような、官能的な動きをたった一分の間に叩きつけられた。それからのことは、あまりはっきり記憶していない。ステージの上だけが無重力になったかのような、男の繊細で緻密な体裁きと、あまりの集中力と、場に対する威圧感が凄まじくて、恵はずっと男の動きの一つ一つを注視していたはずなのに、筆舌できる気がしない。その間、観客達は無言で男に欲望を滾らせた目を向けていたのに、男はポールとのみ語らい、愛し合っている。正直に言えばこちらを向いてほしいという欲求と嫉妬が湧き上がった。初めて抱く感情に戸惑いながらも目線を外せない。長い手足がピンと張る姿は弓弦のようで美しいし、ポールに絡む様はまるで蛇のように原始的で、しなだれかかる姿は悪魔のように蠱惑的だ。逞しい肉体の持ち主なのに、力強さだけでなく、繊細な官能まで表現して魅せるのは、男の技術と演技力が確かなものだからだろう。ワイシャツを脱ぎ、完璧な上半身を見せつけられた時はくらりとした。筋肉の一つ一つの隆起が触れたいくらいに逞しくて、動くたびに目を引かれた。
 正直言って、こんな気持ちになるなんて思いもしなかった。
 あまりの事に余韻に浸っていたら、スタッフの一人に「すみませんが、こちらに来ていただけますか」と声を掛けられた。悠仁が呼び出したのか、はたまたチケットを間違えてしまった件で呼び出されたのだろうと思いついていくと、何故かステージ裏まで来ていた。
「え、あの? どういうことですか」
「宿儺があなたを指名してるんです……こんな事滅多にないんですが」
 スタッフも困惑しているので、恵はどうすればいいのか分からなくなった。大体宿儺って誰だ。
「宿儺が呼んでます、すみませんがステージに上がってください!」
 少々悲痛な小声で訴えられ、ステージの袖から登場すると、胡桃色の髪の男がにやりと笑った。
 
👠男子さんからのご意見まとめ+追加設定
・宿儺(フリーのポールダンサー)25歳:きっちりスーツ着てる。杖のダンスあり。疑似セックスはしたことないが、初来店の恵を気に入って初めてサービスする。独占欲強め。フリーで仕事してる。悠仁は親戚だけど仲良くない。大会とかには興味なくて、自分の世界をポールダンスで表現してるだけ。客にも興味ないが、ショーに出演しないと踊る場所も金も手に入らないので出演してるだけ。無観客でも気にしない。ビジュアルは御形より?むっちりした筋肉が人気。
・恵(客、大学生)20歳:野薔薇に言われて真希のショーに行くはずが、姉妹店のメンズダンスショーをやっているバーレスクにたどり着く。宿儺に何故か気に入られてサービスまでされ、あまりのことに何度も通うことになる。モブにちょっかい掛けられても宿儺一筋だが、通いはじめの不慣れな頃に一回だけモブに疑似セックスさせられた。宿儺の独占欲の強いパフォーマンスを見て、宿儺一筋でいようと決めた。父親がダンサーで昔はダンスをしていた。宿儺に誘われてポールダンスを始め、二人で一本のポールで踊った時の高揚感が忘れられなくなる。このあと付き合う。バイトはコンビニ。
・悠仁(ボーイ、大学生)20歳:時給のいいバイト探してたら五条にバイト先斡旋してもらえた。ちょいちょい出演する宿儺のおもりもさせられたりする。店での人気は高い。ポールダンスもできんことはないけど今の所ショーに出る気がない。(宿儺にメッタメタにされるので)バイト先について話したことはなかった。野薔薇が姉妹店で働いてるなんて知らなかった。
・野薔薇(バーレスクバイト、大学生)20歳:真希と同じバーレスクで働いてる。恵と悠仁は同じ大学でつるんでる。真希の事が大好き。バイト先の話をしてなかったし、姉妹店に悠仁がいることは知らなかった。宿儺のことは見たことあるけど会話したことない。
・真希(Sに勤務するポールダンサー)21歳:高卒でポールダンサーをしている。実家は真希の職業聞いて勘当した。真依は大学通いながら親に内緒でホステスやってる。高い身体能力でしかできないレベルの高いポールダンスで魅了するし、煽るのがうますぎてファンが死ぬ。野薔薇もその一人。宿儺と共演したことがあり、それなりに会話を許されるほどには認められている。恵の従姉。
・硝子(バーレスクSのオーナー)30歳:強強オーナー。真希をスカウトした。
・傑(メンズダンスショーSのオーナー)30歳:宿儺と会話できる数少ない人間の一人。宿儺を雇いたいが無理とわかっているので、悠仁を勧誘したい。
・悟(経営者)30歳:若くして成功している凄い人。友達を誘って店を2つも経営している。宿儺に話しかけても毎度無視される。悠仁はたまたま知り合って仲良くなってたところ、バイト先探してたので誘った。まさかの宿儺の親戚で大笑いした。
・甚爾(無職、元ダンサー)45歳:元ダンサー。天才的だったが本人はあまりダンスに執着してなかった。ストリップもしてた。嫁に出会ってからは仕事を続けつつも、なんか違うかもと思っていきなりやめた。その後は無職、世帯主は嫁。嫁至上主義。
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ポールダンサー
初公開日: 2021年08月28日
最終更新日: 2021年10月31日
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コメント
👠男子さんのマロより。(経緯の関係上、メモとして👠男子さんのマロ内容貼り付けてます)
本番書くかわからないけど行く店的に🔞にしてます。(8/28 一時的に全体公開へ切り替え)
影人形
宿伏の、よくわからない話です。語り手は恵の息子のはず
あぼだ
脱毛について
現パロでかなり下品な宿伏♀
あぼだ
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BLEACH鬼滅の二次創作を書きます。78話です。 お久しぶりです。 久しぶりに、筆をとってみようと…
ぬー(旧名:菊の花の様に)