藍曦臣は反省していた。愛する江澄を理解するために最大限の努力をしてきたし、重ねた時間のなかで十分な成果を上げてきたと思っていた。目の前の江澄に、それは驕りだったと気づかされた。
「ふゃぁ……ぁ…ぅ…」
 脚をくずして寝台にへたりと座りこんだ江澄がか細い声で泣いている。まるで無力な赤子のようで、藍曦臣がこれまでに聞いたことのないものだった。幾度も激しく甘く交わって愛を注いできたけれど、このように弱々しく、されるがままに身悶える江澄ははじめてだった。
「…あ、あぁ……やぁうぅ」
 口を閉じられないのか、あうあうと言葉にならない喘ぎをもらしながら唇をひくつかせている。その頼りない姿にあてられて藍曦臣の指の動きが強くなった。
「ああ゛ぁっ!やっあっ、…あっ」
 びくっと跳ねるのも可愛らしい。少しだけ爪を立てて穴のふちをひっかいた。今度は悲鳴すら出ず、ひゅっと吸ったままの息を詰めてぶるぶると震えている。かろうじて身体を支えるために脚の間についた手はぎゅうと敷布を握りしめていた。
「ひ…ゃ、っう、…め……、あっ」
 目にたっぷりと涙を溜めて見つめてくる表情にそそられてたまらない。
「ん、ん、や……ぁ、みみ…ぃっやぁ」
 これほど可愛らしい姿をさらしていやだと言われても、藍曦臣はやめてやることなどできなかった。きれいな曲線を描く耳の外側をするりと撫でる。うぶ毛がなめらかでとても手触りがよかった。そのまま辿ってやわらかな耳たぶをそっと摘まむ。この世でこれ以上に愛おしい感触はありえないと思う。
「あたたまってきたね、阿澄」
「っふ、ぁ……」
 藍曦臣が触れている耳はいつの間にか熱をもってほの赤く染まっていた。
「も…ゃ、あ」
 ひたすら左耳だけを愛撫されつづけた江澄が吐息に混ぜて泣き言をこぼす。身体は力なくゆらゆらと揺れている。
「ああ、愛らしい」
 最初に指が掠めたとき、江澄の耳朶はひんやりと冷たかった。頬を包んで口づけをしようと思ったいつもの仕草は江澄の甲高い悲鳴に遮られた。藍曦臣が驚くほどの大きな声とは裏腹に、身体は一瞬びくりと震えたきり固まった。だから藍曦臣の指は江澄の耳を二度、三度と撫でた。ふつうより少しくすぐったいのだろうかと思った。けれど、跳ねてはとろける江澄はそういう程度とは明らかに異なっていた。常の強さや鋭さがすべて抜け落ちて、ぐずぐずとくずれる江澄の姿は藍曦臣の腹の奥の熱っぽいものをひどく掻きたてた。いかに劣情をそそられようと藍曦臣は江澄が苦しがることは決してしない。けれど、この夜の江澄は口ではいやだいやだと言いつつも、体感の心地よさに恍惚としているのだった。
「あ…ぁ、み、みゃ……んっぅ」
 耳の外側を撫でると身体の力が抜けてとろとろと蜜漬けにされたような声で鳴いた。そして複雑な耳殻の峰を越えて内に指先を差しこんだときはきゅうと全身を引きつらせてよがる。いつの間にか涙がぽろぽろとこぼれて頬を濡らしていた。ずっと煽られつづけた身体はじっとりと汗ばんできてもいた。
「阿澄、気持ちいい?」
「は、ぁ…ふぅ、う……」
「阿澄?」
「あぅ、んっんんっ…」
 もはや言葉が出ない江澄が喘ぎながらあいまいに首を振る。江澄は快感に溺れている。片方の耳を指で撫でているだけで。涙でにじんだ瞳がひたりと見つめてくる。このつややかな輝きはどうなってしまうのだろう。
「阿澄……もし」
「ん、」
「こちらも、触ったら…」
 右耳に手が伸びる。両方、触れてしまったら、このひとはどこまで乱れてしまうのか。すでに江澄の身体はほてっていて、着物の裾からのぞくつるりとした膝頭や白くやわらかそうな太腿は匂いたつようだ。すぐにも押し倒して貪りつくしたかった。
「ぁ…っふ、…ん…ぁ」
 江澄が絡まった熱い視線をするりとほどいた。ゆら、と一度うつむき、そしてゆっくりとすべる。瞳は藍曦臣の左手のところで止まった。伏せた目元、わずかに震えるまつげに藍曦臣は見惚れた。江澄の熟した身体を食らう誘惑は霧散する。耳を愛したとき彼がどれほど昂るのか、すべて知りたいと思った。
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向き
「二背」
初公開日: 2021年03月03日
最終更新日: 2021年03月04日
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中華ドラマCQLの二次作文
曦澄