現パロだとほぼ確実にセレブな曦臣兄ですけれども、たまには普通のひとっていうバージョンも見てみたい。公立高校の音楽の先生とかどうだろう。(実家は超金持ちとかにしとけばいい)
DK江澄は選択授業は書道取ってるし、剣道部だし、担当学年でもないから接点ゼロなんだけど、なんかどうにかこうにかエンカウントする。
少年江澄の赤鋒尊への健全な憧れが好物なので、剣道部の顧問は明玦兄です。書道の授業は懐桑といっしょ。懐桑は書道部部長をしれっとやってて、めっちゃ高価な墨や筆をがんがん購入する。
剣道部は予算折衝がめっちゃへたで道場の維持経費で手いっぱいなので、更衣室にエアコンがつけられません。劣悪な環境。
剣道部は人数が多いので弱小の水泳部のプール掃除を率先して手伝う。吹奏楽部所属、他助っ人多数の魏無羨も当然参加して大騒ぎ水遊び大会になる。
温情温寧姉弟は化学部、隣の物理地学部の温晁がなにかとちょっかいかけてくるのがうざい。そういうときは、ときどき部室に遊びにきて何らかのアルコールを醸造している魏無羨に退治してもらう。
放課後の屋上に呼び出されて夷陵印の密造酒をそうと知らずに飲まされる江澄。当然、ひどく酩酊して暴れて、危うく魏無羨が屋上から落ちそうになるところを特殊センサーで感知したかるた部の藍忘機が駆けつけます。
藍忘機は「先生を呼んだ」と言い捨てて魏無羨だけ背負って降りていく。まともに動かない身体を冷たいコンクリートに横たえてぐるんぐるん回る視界に耐えているうちに陽が沈む。薄暗くなる空を見て酒でばかになった頭が寂しいと勘違いする。じわりと目頭が熱くなったとき、重い扉の開く音がした。
江澄が目を覚ますと見慣れない小部屋と不釣り合いな大きなソファに寝ころんでいた。まだ少しふらつく視界には古臭い紙の束やらレコード、いくつかの楽器とたくさんのメトロノーム。「音楽、準備室……」「入るのははじめてかな?」穏やかな声とコーヒーのいい香りが酔いの残る身体に沁みた。
「どうぞ」「あ、りがとう、ございます、あの…」「藍曦臣、音楽の」「藍、先生」あの藍忘機の兄貴か、と気づいたときには身体を起こした江澄のすぐ隣に藍曦臣は腰かけていた。大きなソファなのだからもっと離れて座ればいいのに。ぎゅっと身を縮めてカップを両手で握りしめる。熱すぎてまだ飲めない。
「C組の江晩吟」「っ、はい」「あなたのことは魏無羨からよく聞く」「…すみません」「彼に巻き込まれたというところかな?」理解ある先生で助かった。不本意だが藍忘機に感謝だ。安心したら急に頭が痛んだ。ズキズキきしむのをこらえて眉間を寄せると、俯いた視界に白くて綺麗な指が入りこんできた。
焦る間もなくさらりと前髪を掻きあげられて、額を柔らかく撫でられる。指先はひんやりしていて気持ちいい。「まだ酔っている?」分からない。身体はとても熱い。でもそんなことを言えば、見逃してもらえそうな素行不良をわざわざ申告するようで、言葉が出なかった。具合が悪いふりをして唇を引き結ぶ。
ふふ、と隣から笑う気配がして、それから優しい指が離れていった。引き際、また前髪を軽く梳かれたような気がしたのは無視する。コーヒーは適温ではなかったけれど、長居するわけにもいかず急いで飲みこむ。最後の一口にこくりと喉を鳴らしたところで藍曦臣が言った。「それを飲んだら送っていこう」
「いえ!だ、大丈夫ですっ」「自転車でしょう?」「押して帰ります」「そんな状態で?」慌てて立ちあがった江澄の脚はまんまとふらつき、ソファに座ったままの藍曦臣の腕に受けとめられてしまう。恥ずかしいやら情けないやらでたまらず暴れるが、ふかふかのソファに沈むばかりでどうにもならない。
酔いの抜けきらない頭がくらくらする。「落ち着きなさい」そう窘める藍曦臣の声が耳元でやけに響いた。ひくん、とひとつ震えてから足掻くのをやめたらぽんぽんと子どものように撫でられた。藍曦臣が先に立って手を差し伸べるから、仕方なくその長い指の先をそっと掴んだ。
身長もそう変わらないのにひょいと軽く引きあげられる。「帰るよ」素直にはいと答えられず小さく頷いた。鞄はどこにやったのか、スマホも放ったらかしだ。連絡があったとしても魏無羨くらいだから構わない。考えていると荷物一式差し出された。察しがよすぎて少し苛つく。
江澄はろくな返事をしないのに藍曦臣はあれこれ話してくる。よく喋るし、意外と笑うひとだと思った。黙々とついていった職員駐車場にはありふれたコンパクトカーがぽつんと停まっていた。まるでセレブの付き人のように江澄のためにドアを開ける。ハイヤーなら後部座席だろうに、導かれたのは助手席だ。
滑らかに運転しながらやはりたくさん喋る藍曦臣。真横に座ったら顔を盗み見るのが難しい。思いついてバックミラーをちらりと見る。ぱちり、と目が合う。慌てて逸らす寸前、きれいな瞳の色だけは見ることができた。「先生、もうここで」自宅のいくらか手前で申し出た。「いや、家の前まで行くよ」
「結構です」意図したより硬い声になって、取り繕うように付け足す。「道が細いから…」「そう」静かに言うと藍曦臣は路肩に車を停めた。車を降り、礼を言って顔を上げると運転席は空。「行こうか」「なっ、え、え?」藍曦臣が車を回りこんでくる。リモコンキーがロックをかける気の抜けた音が鳴った。
「先生っ、大丈夫ですから」押しとどめようとしたら、少し恐い顔で睨まれた。「ここから家までの夜道であなたに何かあったら、先生の教師生命がお終いになるんだよ」そんな言い方はずるい。もうすっかり酔いは醒めているのも気づいているくせに。江澄の返事を待たずに藍曦臣は先に立って歩きだした。
声をかけるでも手を引くでもなく、江澄がついてくるのを確信したような背中が苛立ちを募らせる。かといって進まない訳にはいかない。江澄の帰る家はその先にあるのだ。最初から一度も道を尋ねられていないことにいまさら気づいた。教師の後ろで舌打ちはなんとかこらえたが、代わりに眉間が強く寄る。
自宅の場所を知っているのなら、道が細いという嘘もきっとばれている。それを指摘してこないところがいかにも大人の対応でむかつく。そこまで思って、江澄はふう、と脱力する。その通り、相手は大人だ。しかも教師と生徒。彼の自分に対する態度は当然のもので、それにいちいち腹を立てる方がおかしい。
江澄は己の怒りっぽさは自覚しているが道理の通らない怒り方はしないはずだった。この癇癪はなんだ。眉間に皺を刻んだまま、どうにか理由を探し回っていたら、睨みつけていた踵がこつりと止まった。「江晩吟」とん、とんと体育で習うみたいな回れ右をする革靴。つま先がこちらを向いた、ということは。
「あなたは俯いてばかりだ」また綺麗な指が伸びてきて眉間を突いた。最初のときより力が強くて、思わずのけぞってしまう。顔を上げて見たのはやけに楽しそうな表情。真正面から目の当たりにしてその容貌の精緻な美しさに気づく。指と瞳が少し綺麗なだけの平凡な教師だと思っていたのに。「………体罰」
「おや、」苦しまぎれの憎まれ口にも即座に愉快そうな声が返ってきて、敵わないらしいことを知る。「晩吟君は罰を受けるようなことをしたのかな?」まただ。悪酔いを思い出しそうになって、振り払うように頭を揺らした。言い返せない江澄の乱れた前髪は藍曦臣の指で整えられた。この先生、よく触るな。
さあ、と促されて江澄はおとなしく玄関ポーチを上る。「親御さんにはうまく言い訳を、」言いさした藍曦臣の目はひとつも照明が灯らない窓を見ていた。気づくのが遅い。何曜日の何時であっても江澄の帰宅を待っている人間はいない。時間になったら勝手に点く門灯だけがばかみたいに明るい。
ほとんど無駄になるからこれも消せばいいのにとずっと思っていた。しかし今夜、江澄はその考えを改めることにした。橙色の安っぽい明かりが無遠慮に照らしたせいで、藍曦臣の整った顔がよく見える。光源を背にしてステップの分だけ高くから見おろせば、音楽教師はどこか呆けたような表情をしていた。
寂しい高校生への同情にしては妙な顔だと可笑しく思っていたら、やがてふわりと微笑みを浮かべた。華やかでとても綺麗だ。「気分がよくなったようで安心した」「なに?」「とてもいいね」男の大きな手が江澄の頬を包んだ。「笑っている方がかっこいいよ」いくら逆光でも手のひらに伝わる熱は隠せない。
江澄はベッドにうつ伏せてスマホのロック画面を見つめていた。ゆうべの別れ際、「あしたは無理をして学校に来なくてもいいけれど心配だから休むなら連絡をして」とメッセージアプリのアカウント情報を巻きあげられた。直前に言われた意味の分からない台詞に動揺していて、ろくな抵抗もできなかった。
きのうのうちに友だち申請と承認は済まされてしまったけれど、メッセージのやりとりはない。同級生ならふつうありがとうとかよろしくとかそういうのが飛び交うのに。何から何まで勝手が違ってどうしたらいいのか分からない。幸か不幸か酒を残す体質ではないらしい江澄は、別の原因で頭を痛めていた。
こんなに悩むなら登校すればよかった。後悔しても既に担任には欠席の連絡を入れてしまったし、いまから出て微妙に遅刻するのも気が進まない。職員室で情報共有しろよ、と思わないでもないが、だからといって藍曦臣への連絡をすっぽかすことがどうしてもできないのが江澄の厄介な性質であった。
きょうは欠席します。それでいいはずなのに迷いが消えない。ゆうべ彼は心配だからと言った。それはつまり出欠ではなくて自分の体調が知りたいということだろう。そうだとして、なんとなくだるくて、とばか正直に告げる訳にもいかない。胃の調子がよくないとか熱っぽいとか嘘ではない理由もなくはない。
けれど、こんどはあまりに細かくてくどいように感じる。それこそ心配をかけてしまう気がした。そうして唸っていたら、いつの間にか始業時刻を過ぎていた。そのうち江澄が登校していないことを知るのだろうか。握りしめていたスマホにメッセージアプリの通知バナーが浮かんだ。指先が反射でタップする。
メッセージは魏無羨から。『お前だけ休みかよ、ずるいぞ!』「知らん、お前も休めばよかったろう」『藍湛が学校行くっていうから』「勝手に行かせておけばいい」『ひとりで留守番なんてさみしいだろ!』「知らん」「お前、授業中だろ」「もう寝る」連投してスマホを手放す。ごろりと寝返りを打った。
見あげた天井はきのうの空のように高くないが、胸を詰まらせる感情はよく似ていた。鉄扉がきしむ音は聞こえない。代わりにスマホが軽快に鳴いた。あのばか、そのうちスマホを取りあげられても知らないぞ、と呆れながら手癖で画面を開いた。『具合はどうかな?』真新しい背景に一行だけのメッセージ。
だれ?いや、待て。待て、これ、既読ついてる?ぽこぽことまた数回スマホが鳴ったがメッセージは増えない。別の相手だ。うるさい、ちょっと待ってろ。「え……、どう、しよ…」気づけば身体を起こして、独り言をこぼしていた。答えてくれるひとはいない。早く返事を、しなくては。具合は悪くない。
「大丈夫です。ありがとうございます。連絡をせずすみません。」そっけなさすぎるが、こうとしか返しようがない。さっきより焦る気持ちが勢いをつけて送信ボタンを押すことができた。体感数分、おそらく実際は数秒。ぎゅっとスマホを握りしめていたが既読はつかない。相手は仕事中だから当たり前だ。
ふう、と息を吐く。待っていても仕方がない。力を抜いて、そのままぼふんとベッドに倒れこむ。さっき来た別の、たぶん魏無羨のメッセージに返事をしようと画面を見た瞬間。既読がついた。息が止まる。新しいメッセージの吹き出し。「安心したよ。ゆっくり休んで。」あっさりとした言葉に心がゆるんだ。
口の端までゆるませて、ぼんやりと天井を見る。そうだ、返事をしなければ。「心配をかけてすみませんでした。連絡もらえてうれしかったです。」素直な言葉はあっさりするものだ。そう開き直って送信する。今度はすぐに既読がついた。「どういたしまして。もう寝ていなさい。」「はい、おやすみなさい」
ふわ、と目が覚めた。部屋は薄暗いがカーテンを閉めっぱなしで時間が分からない。布団の外に出していた腕が冷えている。寒さを感じて肩がぶるりと震えたのとほぼ同時に手の中でスマホも震えて鳴った。寝ている間ずっと握りしめていたらしい。にわかに緊張して顔の上に持ちあげたスマホを取り落とした。
「い゛った…!」まぬけだ。ばかばかしくて少し気が抜けた。うつぶせになってもぞもぞと布団をかぶり、スマホを開いた。『おはよう、具合はどうかな?』なんでいま起きたの知ってるんだ、と言いたくなるタイミングのよさ。「おはようございます。大丈夫です。」『よかった。足りないものはない?』
家に人がいないことはもう知られている。でもきょうはきっと魏無羨が帰ってくるだろう。「大丈夫です。魏無羨に頼みます。」『分かった。あしたは学校に来られそう?』「大丈夫です。」疑問形で投げられるから会話が終わらない。さっきから同じ返事ばかりしていて、自分の不器用さがとてもじれったい。
『あたたかくして休みなさい』「はい、ありがとうございます。」かしこまった言葉を返し終えると、どっと疲れを感じた。つっぷしてやりとりを反芻していたら、きのうのことまで思い出す。落ち着いた声、綺麗な顔、運転する横顔も整っていた、それから触れてきた指。はあ、と溜め息を枕に吸いこませた。
呼気がやけに熱い。くぐもった咳。そうだ、魏無羨に連絡しなくては。「帰ってこい」「スポドリ 風邪薬熱のやつ おまえのめし」魏無羨、金持ってるかな。あいつがいるから大丈夫か。疲れた。『了解★』『待ってろよー』よかった、気づいた。早く帰ってこい。眉間の力を抜いた江澄のまぶたが重く落ちた。
頭からかぶった布団をやさしく叩く感覚に気づく。深く眠っていた身体がきしむのをうごめかすと、手がゆるゆると頭から肩のあたりを撫でた。ごろりと寝返り、江澄は固まった。「おはよう」見おろしてくるのは綺麗な微笑み。「熱は?」ぺたりと額に触れられる。手のひらが大きくて、目元までおおわれた。
ぱちぱちと瞬きをしたらまつげが掠った。「少し熱いね」そう言って、頬や耳の後ろ、首元をひたひたと触る。ひんやりして気持ちいい。熱があるならきっと汗をかいている。江澄は飛び起きて、壁際に後ずさった。「ら、藍先生…!」「うん」「なんで……」混乱するが、厄介ごとの原因はだいたいあいつだ。
魏無羨に代わりを買って出たらしい。朝のメッセージも音楽の授業中だったという。スマホ没収を免除して江澄のことを聞き出すなんて職権濫用もいいところだ。部活の顧問で恋人の兄なら情報は筒抜けで、これまで関りがないのが不思議ともいえる。だからって、いきなりベッドに腰かけているのはおかしい。
どう考えてもおかしいのに、藍曦臣は何もかも正しいというような姿で笑っている。飲みなさい、とペットボトルを渡された。とても喉は渇いていたけれど、どうしても口をつけられない。「キャップが開かない?」ボトルを持った手に大きな手が重なって強い力で握られる。ぱき、と固い封が切れる音がした。
「ぁ……」自分で驚くほどか細い声がこぼれた。藍曦臣の手はそのままボトルを江澄の口元に押しやるようにして飲むように促す。ごくりと喉が鳴って冷たい感触が流れ落ちる。強引な教師はいつの間にかベッドに乗りあげていて、江澄の後頭部を押さえてもっと飲めと離してくれない。苦しくてシャツを掴む。
半分近くも飲んだところで、やっと解放されてけほけほと咳きこんだ。優しく背中をさすってくれるが、そもそも無理やりにしたのは誰だと言いたい。じとりと睨んでみるけれど、相手はにこにこ笑っていた。「薬を飲んでおこうか」また額を触ってそんなことを言う。風邪薬、スポドリ、ゼリー飲料、タオル。
次々と差し出されるままに受けとって、最後には寝かしつけられ布団をかぶせられた。「ゆっくり休みなさい」「あの、先生…」「うん?」「ずっと、いるんですか…?」早く帰ってほしいのか、このまま傍にいてほしいのか。どちらの意味で尋ねたのか、自分でもよく分からない。言葉にしたことを後悔する。
じっと見つめてくる顔はさっきまでの微笑みを消している。綺麗な瞳は静かで何を考えているのかまったく分からないけれど、どちらからも視線を外すことはなかった。やがて藍曦臣の手のひらが江澄の両目をおおい隠したから、江澄はおとなしく目をつぶった。彼から返事がほしかった。「おやすみ、江晩吟」
目を覚ましたくなかった。けれど意識は浮上する。ひどく汗をかいていて、熱が出たときのいつもの夢を見たことをぼんやりと思い出す。体調はずいぶんよくなったように思うが、気分はまだ上がりそうになかった。さっき使ったタオルが見当たらない。ひっそり静かな部屋の中、江澄はのろりと起きあがった。
ぺたぺたと廊下、階段を辿る。家中が暗いのはいつものことなのに溜め息が出る。水がほしくてキッチンに足を向けると、ぼんやり明るい気がした。照明はついていないが、冷蔵庫が光っている。「……魏無羨?」そろりと覗くと、違う男が立っていた。眠る前に見たいと思った優しげな微笑みを浮かべている。
「…藍、先生……」「具合はどう?」言いながら冷蔵庫のドアを閉めるから、真っ暗になってしまった。あ、と思った瞬間、視覚が拠りどころを失ってくらりと身体が傾いた。ガタン!と大きな音が聞こえて、壁についた手が痛んだ。それから肩にあたたかい感触。いや、もっと、身体ごとあたたかくて、軽い。
「江澄、江晩吟」頭上で声がする。暗くてよく分からないけれど、キッチンの床で抱えられているようだった。「あ…、ごめんなさい、大丈夫です…」慌てて離れようとしたら強い腕に阻まれる。「大丈夫じゃないだろう」叱られて身が縮む。「まだ熱が下がってない、部屋に戻るよ」そう言って立ち上がった。
江澄の身体を抱えたまま。「っわ!先生…!?」「じっとしてなさい」床から予備動作もなしで。音楽教師って力持ちなのか?混乱している間に自室のベッドに降ろされた。無意識に首に回していた腕をそっと外される。体温が離れて急に寒気を感じる。タオルを取ってくるから、と部屋を出る背中を見ていた。
ぼんやり座ったままでいたら戻ってきた藍曦臣に無言で撫でられた。寝ていなさいと叱られるかと思ったのに。「もう一回薬をのんで」「はい」「おなかは空いていない?」「大丈夫です」はぁ、と大きなため息が聞こえる。ばかのひとつ覚えみたいに繰り返している自覚はある。「江晩吟、どうしてほしい?」
床に膝をついて目の高さを合わせて、教師が問う。何を尋ねられているのかよく分からない。だから、目を見て答えた。「分かりません」藍曦臣が眉を顰めて、綺麗な顔が歪んでしまう。「先生、…ごめんなさい」怒らないで。視線がますます厳しくなる。藍曦臣の大きな手が頬を包んだ。指が目の縁を撫でる。
ぽろぽろと涙がこぼれていることに気づいた。藍曦臣の指先が濡れる。「ぁ、すみませ…」「かまわないよ」退こうとした身体がやさしい声に制される。許された、そう思ったら涙腺が壊れた。嗚咽はなんとか両手で抑えたけれど、ひくひくと跳ねる肩はどうしようもなくて、あたたかい手にあやされていた。
どれだけそうしていただろうか。涙が止まってもあたたかい胸元から離れがたくて、藍曦臣はそれも許してくれた。薬が効いたのか眠くなってくる。「先生…」「眠い?」「はい」「…朝まで傍にいようか?」頭の芯がくらりと揺れる。ぎゅっと手に力をこめる。藍曦臣の綺麗な顔を見あげて、首を横に振った。
「大丈夫です」ちゃんと笑って言えただろうか。じっと見つめてくる瞳が強くて、また泣きそうになる。ふ、と藍曦臣の眉間から力が抜けて、最後に頬をひと撫でされた。少し無理をして上げた口角をつついてから指が離れていった。何か言いたげだったけれど唇は開かない。強引なこの人らしくないと思った。
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音楽教師の話
初公開日: 2020年10月21日
最終更新日: 2020年10月29日
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