「思うによ」
 壁中に、四方八方に張り付けられた装飾を、やこは無造作にはがしていく。紙で作られた色とりどりの花や、三角形のガーランド、各部による出し物の宣伝用ポスターや、よくわからない落書きのようなポスターもある。
 接着用の両面テープやセロハンテープをひっぺがしてはぐちゃぐちゃにまるめ、足元にあるごみ袋へと投げ捨てていく。取っては投げ、取っては投げ、その繰り返しだ。
「こういうの、業者にまかせるとかできないわけ? うちの学校、無駄にお金持ちのお嬢さんばっかりいるんだからさぁ。生徒会長が泣きつきゃどっかの誰かさんが『よろしくってよ♪』とかなんとか言ってどうにかしてくれんでしょ」
 べりべりと音を立ててひっぺがしたポスター類は、そのほとんどがゴミとなる。持ち帰りたいものがあれば、撤収作業が始まる前に自身で撤去するように、と予め生徒会から知らせが出されていた。
 そのおかげで少しは楽になるかと踏んでいたのだが、蓋を開けてみればこれだ。事前に撤収された装飾類はほぼほぼないに等しく、結局はこうやって、撤収係――もとい雑用係が手間をかけて捨てていく他なかった。
「でも、ひーちゃんは円城寺さんにそんなちからの借り方はしないと思うなぁ」
 ううん、と眉尻を下げながらはじめは言う。やこは小さく溜息をついて、冗談よ、と返した。
「わーってるわよそんなん。最後まで自分たちの手でやりきってこその文化祭とかなんとか、そういう感じでしょ、あの生徒会長は」
 西日差し込む校舎の二階、各教室の並ぶ廊下の前で、やことはじめは、ひたすらに文化祭の撤収作業に勤しんでいた。
 大盛況をみせた文化祭は幕を閉じ、後夜祭もひと段落し、今は生徒会を中心とした撤収作業が行われていた。本来であれば明日の振替休日を挟んだ通常登校日に生徒全員で撤収作業をするのだが、その前にある程度片付けられるものは片付けておきたい、という生徒会長の希望により、こうして生徒会メンバーやボランティアの生徒たちが簡易的な作業に取り掛かっているのだった。
「にしても、神樹さんもホントお人好しよねぇ。こんな面倒極まりないこと引き受けちゃってんだから」
「ひーちゃんの……大切なお友達のためだからね。面倒くさくなんてないよ」
 はじめは剥がしたポスター類を丁寧に折りたたんでからゴミ袋に入れ、ふふ、と笑う。
「それに、湖南さんだってこうして手伝ってくれてるじゃない」
「あたしは部長としてやることやってるだけよ。演劇部のポスター、かなりあちこちに貼ってるしね」
 言いながら、やこはその演劇部の宣伝ポスターをべりべりと遠慮なく剥がし、破り捨てる。その様子にはじめは小さく笑い、そして目の前にある紙の花たちを丁寧に剥がして捨てた。黙々と、二人で作業をこなしていく。
 紙屑の溜まったゴミ袋の中はやけにカラフルで、しかしこれらはもう二度と人目に触れることはなく、そう思うと、やこは少しの淋しさを覚えた。祭りの後にやってくる虚無感とも、喪失感とも取れないこの感情は、幼い頃から拭い去ることができずにいる。それでも前を向くのが自分であることはわかっているのだけれど、今年はなおのこと――君咲の生徒として、学生として最後の文化祭だったからこそ、その感傷のような気持ちに襲われていた。
 夕陽はすでに沈みかけている。あと少しすれば、廊下の電気がついて、窓の外には月が見えるのだろう。陽が沈むのがすっかり早くなっていて、秋の深まりをいやでも感じてしまう。きっと気が付いたころには冬も過ぎ、春が来るのだろう。新しい季節が。また見えない未来が。
 ――なんて、センチメンタルかってぇの。辛気くさ。
 いくら疲れが残っているとはいえ、そんな考えに行きついてしまった自分があほらしく思えてしまった。らしくない。
 ふ、とはじめが自分の顔を覗き込んできていたことに気が付く。「やっぱり疲れてるよね?」どうやら無意識のうちに顔に出してしまっていたらしい。「そりゃまぁね」と正直に答えながらも、でも、と続けた。
「終わりはきっちりさせないとじゃない。いつまでもお祭り騒ぎを引き摺るわけにはいかないのよ」
 感傷に浸っていたって、誰かが助けてくれるわけじゃない。そんなこと、やこはとっくのとうに知っているのだ。目の前に積み重なるタスクを終わらせ、次のステップへ進む術を覚えることこそが、大人への階段の上り方だ。
 淡々とした口調でそう言いながら、へたくそな作りのガーランドを背伸びして剥がすやこに、はじめは少しの間黙っていたが、やがてふっと柔らかい表情を見せたかと思うと、目を細めたこう言った。
「でも、わたしはこうやって湖南さんと一緒に片付けてる時間も、延長戦みたいで楽しいよ」
 はじめのその言葉に、やこは目を丸くした。
「だって、きっと最初で最後だもん。わたしはこの瞬間だって思い出にしたいなって思うんだ。湖南さんはどう?」
 どう、と問われても。やこは逡巡する。
 やこも、はじめも、作業中、あまり言葉なんて交わしていない。時々ふいに発されるやこのお喋りに、はじめが相槌を打つように返す、その繰り返しだった。
 だけど、心地よかったのは確かだった。喋らずとも気が楽だった。ぺりぺりと接着を剥がしていく作業も、ちょっとだけ楽しくもあった。それは責務から生じた感覚なんかじゃないことぐらい、やこは分かっていた。演劇部のやつらや、問題児と呼ばれたやつらと一緒にいる時とはまた違う、居心地の良さ。
 それがはじめの人柄によるものなのか、それともまた別のなにかなのかはわからないけれど――楽しいか楽しくないかと問われれば、答えは前者だろう。
「ま、悪くはなかったわね」
 我ながら本当に可愛げのない言い方だと思う。だけどはじめは、そのやこの返答に、どこか嬉しそうに微笑んでいるものだから、つい口角を上げてしまうのだった。
 暗い廊下に明かりがともる。機械的なチャイムが鳴り響き、作業を終わらせるように、と生徒会長の声で校内放送がかかる。礼を言いたいから校門前まで集まるように、とも。放送が切れた瞬間、やことはじめは顔を見合わせ、どちらともなく微笑んだ。
 やこは手にしていた赤い紙の花を、丁寧にゆっくりと剥がして、ゴミ袋へと捨てた。
おわり!ぷらす5ふん!
Latest / 67:59
66:34
ねし
ありがとうございました~~~~
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ガルオンリーのワンライのやつ
初公開日: 2020年10月18日
最終更新日: 2020年10月18日
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一時間で書けるかな♪
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