天気予報が本当を言った。明日は秋の長雨になるでしょう。昨夜、テレビのアナウンサーが抑揚のない声で言っていたことを思い出す。
ここしばらくは気持ちのいい秋晴れが続いていたし、昨日の夕焼けはとても綺麗だったからまさかとは思っていたが、今朝は雨が屋根を叩く音で目を覚ますことになった。たん、たん、と規則的な音が耳を打つと、眠気が増すように思えて、少し勢いをつけてベッドから起き上がった。朝だというのに室内は薄暗く、水分を孕んでひんやりとした空気に満ちている。
隣で眠っている彼女を起こさないように、そうっと布団を抜け出す。カーテンを少し開けて覗いた、窓の向こうの景色は灰色に煙っている。雨模様を眺めながら、今日という休日に済ませたかった買い物、洗濯、庭掃除などの用事を頭の中で整理する。予定が大きく変更になったことに若干憂鬱になりながら、カーテンを閉めようとして、ふと視界の端に鮮やかな色彩があることに気が付いた。
「(あ、)」
思わず、惜しむような声が出てしまいそうになった。隣家との境目の地面に広がっていたのは橙色の絨毯だ。金木犀の小さな花々が雨に打たれてアスファルトに落ちてしまっている。つい先日、あの木の下を彼女と買い物帰りに歩いた記憶がよみがえる。彼女は金木犀という植物を愛しているようで、花に軽く手を伸ばしながら言っていた。毎年、この花が落ちる時期は、秋が終わるようでさびしいんだ。彼女が寒がりであり、冬という季節をあまり得意としていないことは知っていたので、その物憂げな様子にどう言葉を返すのが正しいのか考えていたら、こちらを振り返った表情が驚きから柔らかい笑みに変わった。
「なんで聡がそんなに深刻な顔してるの」
僕の気遣いを笑ったわけではなくて、嬉しいと言わんばかりの笑顔だった。彼女はエコバッグを持たないほうの手で僕の手を取ると、金木犀から離れるように家へ向けて歩き出した。手をつなぐというよりは頼もしく腕を引く感覚に、彼女に助けられている場面は多いのだと実感する。その時は杞憂だったかと思ったものの、実際に雨に濡れて落ちてしまった金木犀の花を目にすると、少しさびしいように思うのだった。彼女の目にあの光景が映らないように、というわけではないけれど、カーテンをきっちりと閉め切った。
彼女を起こさないように、このまま家の中で出来る用事を済まそうと踵を返したところで、何もないフローリングに蹴つまずく。いつもの感覚、いつもの浮遊感。あっという間に体が傾く。
「はわわっ」
ぼふん、と転んだ先に勢いよく倒れこんだのはベッドの端で、そのおかげで体のどこも痛くはない。けれど、はっとして起き上がると、頬杖をついた彼女がこちらをじいっと見下ろしていた。さーっと血の気が引いていく。起こさないように、どころか自分のせいで起こしてしまった。自分が何か言う前に、彼女が空気に混ぜ込んだような笑いを落とす。
「ふふ、ドジ。おはよう」
「…お、おはようございます……」
いっそ愛おしそうでもある声の響きに、首筋のあたりがポカポカと熱くなってきた。すぐに立ち上がると、彼女は何度か瞬きをして言った。
「怪我はない?」
「だ、大丈夫です。
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20201018
企画
初公開日: 2020年10月18日
最終更新日: 2020年10月18日
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企画 開催終了
■開催日
2020年10月18日 16:50 ~ 2020年10月19日 04:50
■制限時間
2h
■お題
テーマ「秋」
書き出しは「天気予報が本当を言った」で固定。
どなたでもお気軽にご参加ください!

開催期間

2020年10月18日 07:50 ~ 2020年10月18日 19:50

制限時間

2時間