江澄誕
20201105
できれば曦臣誕と対にしたいところ、時系列的には続きの一月後
祝い方、贈り物、言葉
幸福への感謝
 およそひと月の、一年でもっとも幸福な日々がもうすぐ終わろうとしている。昼の陽差しは心地よく穏やかで、朝晩の冷えこみには夜具を重ねて静かに過ごす季節。けさの寝台は、きのうより随分と暖かい。
「んん……」
 腕の中から掠れた唸り声が聞こえた。もう起きてしまうのか、と残念に思い抱きしめる腕に力が入る。逃がしたくない、ずっとこのまま閉じこめてふたりだけでいられたらいいのに。ふいに湧いた不穏な考えに、自分で焦って鼓動が早まった。
「…曦臣?」
 胸にぴったりと頭を寄せている江澄がそれに気づかないはずがない。朝から心臓を暴れさせる男を不思議がって窺うような声は細く甘い。この可愛い人を怯えさせてはいけないという気持ちが勝り、我儘な動揺はなんとか鎮まってくる。穏やかさとか落ち着きが、彼が自分に求めているもののひとつだと知っているから、その期待を裏切りたくはない。
「おはよう、阿澄」
「ん、おはよ…」
 まだ少し寝ぼけたような返事。ふだん寝起きがよく呆気ないほどするりと目を覚ましてしまう江澄が、珍しくむずかるように薄目のまますり寄ってくるのが可愛らしい。この時期に、ふわふわととろけたような空気をまとうのは自分だけではないと知れる。
「もう少しゆっくりする?」
「ん、ぅ…」
 どちらともつかない答えに思わず笑みがこぼれる。こうしてだらしなく過ごす時間の特別な幸福を、折り目正しく生活することだけが善であると思っていたころの自分に見せつけてりたい。それを教えてくれた人の髪をやわらかく梳きながら、あと少しだけともにまどろむことを選んだ。
「曦臣、どうして起こしてくれなかった!」
 きりきりと眉をつりあげて理不尽に詰ってくる江澄の肩を撫でて宥めながら、藍曦臣は髪結いを手伝っている。少しばかり陽は高いがきょうの予定に支障があるほどの遅れではない。江澄の機嫌が悪いのは寝過ごしたことが原因ではなく、藍曦臣が一足先に起きだして身支度を整えていたために、目が覚めたときに寝台にひとりぼっちだったからである。そして、そのあまりにいじらしい理由を察してゆるんでしまっている藍曦臣の嬉しそうな顔が余計に江澄をいたたまれなくさせているのだ。
「あの宝石商はいつも約束より早く来るんだぞ」
「時間まで待たせておけばいい」
 至極当たり前のことを言っているのに睨まれる。大世家宗主ともあろうものが呼びつけた商人の勝手に右往左往する必要などないのに、根の優しさというか甘さがいまだ消えずに残っているのが微笑ましい。実のところ、予定が早まることも、江澄がそれに対応しようとすることも、藍曦臣は分かっていた。
「ほら、できた」
「あ、」
「あとは、帯飾りはいつもの、上衣はきょうはこれにしてはどうかな」
 計ったとおりに江澄の身嗜みを整えてゆく。構われることに慣れない性分の江澄は、押しに押せば思いのままだ。なかなか合わせてくれなかった珍しい色取りをちゃっかりまとわせることだってできる。仕上がった立ち姿に思わず拍手を送りそうになる。美しい恋人に、そしてそれを作り上げた自分自身に。
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江澄誕の話
初公開日: 2020年10月13日
最終更新日: 2020年10月22日
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