憎い。アイツらが憎い。
 短くはない時間を共にして苦楽を共にした仲間だと思っていた。アイツらはその時間を平気で捨てた。想い出は泥に塗れて、確かにあの時に抱いた感情さえ塗り潰す。
 憎い。この身をベッドに縛り付けるものが憎い。
 アイツらの元へ駆け出して燃え上がり、燃やし尽くしてやりたいのに。この身は起き上がることすら出来ない。白い天井を見つめて、叫び続けた喉は焼け爛れて声は尽きた。
 憎い。自分が憎い。
 何故、如何して。傷付くオレも、アイツらに怒りを抱くオレも、まだ何処かで間違いじゃないかと思うオレも。そんなことを思う自分が憎い。全ての感情ごと灰になりたかった。なれなかった。
 自傷防止のミトンの奥を爪で掻く。柔らかな生地の上を指先は滑るだけだった。
 不意に影が落ちる。白いカーテンの向こうに人影がある。医者か、看護師か。もうどちらでも構わない。どうせ何も叶わない。視線を天井に戻す。
 「……酷え面してんな」
 聞こえてきたのはこの病室には不相応の若い声。オレの視界に割り込んできたのは、たぶんオレと同い年か、それくらいの男。見たことのない、恐らく改造した紺色と金色が特徴的な制服を着て、根暗そうな片目を覆う前髪の横で睨めつけてくる瞳。
 「だれだ、おまえ」
 細い瞳孔がオレの手元に落ちて瞼に隠れる。布切れが巻かれた腕が黒い髪を梳いて、瞼と共に口も開く。
 「……死神」
 頭のイカれた馬鹿が紛れ込んだのか。死神を自称する男は無愛想な顔のまま、オレの右手に手を伸ばし憎きミトンのボタンを外し始めた。腕を包む抵抗が消えて、久々の空気が皮膚を撫でる。
 こいつは本当に馬鹿だ。感情のままに男の右手を掴み指を食い込ませる。けれどそいつは何食わぬ顔でオレを見下ろし言うのだ。
 「眠れないんだろう。子守唄を歌ってやる」
 吸い込まれた空気が旋律として吐き出される。ふわふわと漂う輪郭のない、吹いて消えてしまいそうな歌なのに、聞きたくないのにこの耳は音を拾うことを止めない。
 食い込ませた指先に火花が散る。炎は布地を焼いて、白く剥き出した肌に赤い爛れた傷跡を残す。オレ自身、痛い程に力を込めて。だが旋律は乱れることも、勢いが衰えることもなく進む。
 「……やめろ」
 止めてくれ。裏切りはないだなんて、そんな歌。聞きたくない。
 唇を離れた歌声はやがて吐息に変わり空気に溶けて消えた。
 「いつか。アンタが弾く歌だ」
 死神の指先がオレの手を滑り離れる。短く別れを告げた背中は白いカーテンの向こうへ消えた。
 自由になった右手でオレを縛り付けていたものを外し、急いでその後を追いかける。揺れるカーテンの向こうに死神の姿はなく、沈みかけた夕日がこちらを見つめていた。
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死神と不死鳥
初公開日: 2020年09月07日
最終更新日: 2020年09月02日
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きょんしーパロ 没
一番初めに書いたきょんしーパロの🍱目線のお話でしたやっちゃじゃねえなあって思って没ったやつです
tometa
なろう日刊を見てヒットしそうな話を書きたい1時間配信
チョコミント飲んでる1時間でできるのはプロットになるかなー
稲荷竜