二二〇四年・冬。宮城県牡鹿郡女川町。
 細雪降る鄙びた港町は、仕事納めで気も漫ろに行き交う町民と
ライトアップを見に来た浮かれ気分の観光客と、
寒さでいつも硬い表情をより硬くしている軍人とでささやかな賑わいを見せている。
 その和やかさを裂くように、一台の漆黒のセダンが町に入ってきた。
よく手入れがされているのが分かる車体は、
丁寧に磨かれたカボションカットの宝石が如き艶やかさを帯びている。
 セダン自体を見慣れている町民でも、
ナンバープレートに掲げられている自動車登録番号が
この地域のものでないと確認するや、珍しげに目を丸くしたり、
やや眉を顰めて半ば怪しんだりしつつ風を切るセダンを見送る。
 セダンは町の一際大きく、ともすれば場違いに見える
赤煉瓦の小さな家が傍らに立つ高層ビルに近付いていた。
 町を我が物顔で走る異分子のセダンを、
細雪が降る薄曇りの空を旋回する逆ガル式翼のレシプロ航空機のガンカメラが捉える。
 主翼が上に折れ曲がった鉄色の航空機には、日の丸ではなく、
黒十字がペイントされている。
 だが、セダンは自分の頭上の航空機の存在に気付いていないのか、
或いは気付いていないふりをしているだけなのか、
速度を緩めず高層ビルに向かっていた。
 異分子のセダンが向かう目的地――町の商業区画の片隅に建つ
周囲の風景と不釣り合いな高層ビルは、商業施設機能を有している事もあり、
社員のみならず町民や観光客も出入りしていた。
 門に掲げられている銅板には「株式会社ハチレン海運」とエッチングが施されている。
 社屋最上階にある社長室のL字に置いた机の一つで、
八葉舞蓮は冷めかけのアッサムティーを飲みながら
取引先へ送る電子メールの代筆作業をしていた。
 隣席では、海軍二種軍装を纏う女性が手際よく書類を捌いている。
 一見して舞蓮とそう年嵩も変わらず、二人並ぶと姉妹のように見えるが、
表情は経営者のそれとは一線を画した軍人の表情が滲んでいた。
 タイピング音と紙ずれの音、時々ティーカップを上げ下げする音とが部屋に静かに響く。
「是蓮叔母様、代筆作業終わったよ。
下書きに保存してあるから校了を」
「分かった。今この案件を片付けたらすぐやる」
 海軍二種軍装を纏う女性――八葉是蓮は、
舞蓮の報告に書類を捌きながら答えた。
 不意に、是蓮が右耳を手で押さえ、
聞こえるか聞こえないかくらいの小声で一言二言答える。
「分かった、報告ご苦労」と言いやりとりを終えると、
是蓮の表情に一気に険しさが満ち溢れた。
 やにわに立ち上がり物々しく椅子が動き書類が床に落ちる音に、
舞蓮は手を止めてパソコンの液晶画面から顔を上げる。
 普段と明らかに違う剣呑な様子に、
思わず目をみはった刹那、耳を劈く警報音が響き渡った。
「非常連絡、非常連絡。勤務中の全社員に通達。
訓練哨戒中のJu-87C一番機より入電、来客予定登録にない品川ナンバー車輌が社屋に接近中。
非常時戦闘要員は復唱せよ、教則三十二「社屋に接近する対象の迎撃、
及び屋内C近接Q戦闘Bによる排撃」。
艦娘及び艦娘に付随する軍人妖精、ミリ姫は所定の位置にて武装待機、
軍属妖精は一般社員及び物販・食堂フロアの客人、
社屋周辺の一般人の誘導・護送に速やかに当たり、完了次第迅速に指定区域まで退避せよ。
全社員は現時刻を以て作業を中断、これにて本日の業務を終了とする。
帰宅後は社屋に決して近寄らず、自宅にて連絡を待つように。
これは訓練ではない。繰り返す、これは訓練ではないッ!」
 是蓮は、先程と同じように右耳に手を当て
声を張り上げ命令を下達すると、机の引き出しから
ホルスターに収納されたルガーP-08と
いくつかの予備のスネイルマガジンを取り出した。
 ホルスターを手早く装着すると、
スネイルマガジンも同じ早さでベルトに吊り下げる。
 舞蓮も自分が座っている机の引き出しを開け、
ホルスターに収納されたSIG SAUER P229と
予備弾倉を取り出し、立ち上がり素早く装着する。
「君はこの会社の大事な後継者だ。此処で待機していたまえ」
 是蓮は、自分と共に部屋から出ようとする舞蓮を横目で見て言った。 
 舞蓮は何か反論しようとしたものの、
射抜くように自分に向いた視線に逡巡し、口籠る。
 舞蓮が口を噤む様子を目の当たりにした彼女は軽く溜め息を吐き、
意識して表情を若干和らげて静かに舞蓮の方に向き直った。
「此処は緊急避難室パニックルームも兼ねている。
それと、万が一の時にすべき事は、金庫の中に仕舞っている
ファイルに全てまとめてある」
 是蓮は舞蓮を見据えて言うと、最後に静かに「いいな」と念を押して足早に部屋を出た。
 扉が閉まると、がしんと物々しい音を立てて電子錠がかかる。
 舞蓮は暫く施錠された扉を見つめていたが、仕方がないと言った様子で
椅子に腰掛け、書きかけの電子メールを仕上げて送信し、メーラーを閉じた。
 矢継ぎ早にモニタールームの映像システムに接続し、
慌ただしい社内外の様子を映す監視カメラを適当にいくつかピックアップする。
 瞬時にピックアップされた監視カメラが撮影する映像がウィンドウ内で分割表示された。
 画面と監視カメラの向こう側で、避難誘導をしたり
自分の持ち場に向かう社員が、困惑したまま誘導に流されていく
一般客などが慌ただしく動いていた。
 舞蓮は喧騒をBGMに、中央の麒麟と黄龍を護衛するように囲む
四神の絵が描かれた会津塗の漆黒の菓子盆の蓋を開けて
小ぶりなマドレーヌが入った袋を手に取る。
 封を切ってマドレーヌを取り出して生地に張り付く
防腐剤を取り除くと、生地に練り込まれているオレンジピールの
甘酸っぱくてほろ苦い香りが微かに漂う。
 一旦口元に持っていって、思い出したように飲みかけのお茶が入った
ミンロンのティーカップの中にマドレーヌを半分沈めた。
 紅茶に浸したマドレーヌをさっと引き上げ、染み込ませた紅茶が滴らぬよう
浸した部分を素早く口に含む。
 マドレーヌの一抹のほろ苦さを伴う甘みと、
生地に染み込ませたアッサムティーの風味とが口の中に溶け広まりながら、
余韻を残し胃袋の中へと滑り落ちていく。
 残った半分も同じようにして食べると、懐紙で指先を拭い、
ティーカップを持ち上げてアッサムティーを一気に飲み干す。
  空になったティーカップをソーサーの上に置くと、
手近にあったティーポットを手にし、ゆっくりとおかわりを注ぐ。
 微かに湯気を立てて、温かなアッサムティーが静かにカップに満ちていく。
 ポットを置くと、角砂糖を二個とレモンシロップを一杯分入れ、
ティースプーンでゆっくり撹拌する。
 くるくると回るアッサムティーを飲みながら
監視カメラの映像に視線と関心を戻すと、
軍属妖精含め全非戦闘要員と買い物客の避難が完了し、
入れ替わりに入ってきた武装した少女達が社屋を所狭しと駆け回っている。
 ふと、玄関先はどうなっているのだろうと気になり、
ピックアップしている映像を社屋内の監視カメラの映像から、
社屋周辺を映す監視カメラの映像に切り替える。
 玄関先には軍事基地か国境線さながらに叉銃が幾つか設置され、
叉銃から少し離れた位置に社屋を駆け回っている少女達と同じように
武装した少女が数人、銃を携え、或いは砲と履帯がついた鎧にも見える武装を纏い、
門前で止められているセダンと対峙していた。
 舞蓮は、半分「また何か恨みを買って報復されるのか」と呆れながら、
ティーカップを口から離し、ソーサーに置いた。
**************************************
「いやぁ、悪いねぇ~。アポなし客は
やんごとなき御身分の貴人様だろうが
死にかけの難民一家だろうが、こう対応するって決まりでね」
 露西亜帽ウシャンカによく似た
黒い毛皮の帽子を被った銀髪の少女が
開けられた窓から助手席を覗き込み、
飽くまで穏やかな笑みを浮かべながら言った。
 小麦色の肌も相俟って溌剌として見える笑顔が、
寒色の髪と軍服のコントラストを引き立たせる。
 しかし、笑顔の彼女の代わりに片手で
軽々と構えられているスオミ KP/-31 短機関銃の銃口が、
ぎろりと車内を睥睨していた。
 運転席と助手席の二人は、まさかの事態に動転しつつも
叫び出したい気持ちを辛うじて抑え込みながら両手をおずおずと挙げる。
 漆黒のスーツに、窓から吹き込んでくる細雪が溶けて消えていく。
「運転免許証と所属を確認出来るモノ、見せてくんない? 
所属を確認出来るものがなきゃ、運転免許証だけでもいいけどさぁ」
 少女は、久し振りに会った友人に
声をかけるように問いかけた。
 促されて慌ててスーツの懐に手をやるが、
馴染みの感触は其処になかった。
 そもそもスーツに入れっぱなしにしていたし、
少し前に石巻で休憩した時には確実にあった筈だと
慌ててポケットがある部分全てに手を滑らせ、ポケットに手を入れて確認する。
「お探しモンはこれかい?」
 スオミ KP/-31 短機関銃を構えている少女の背後から、
丁字茶色の髪を後ろに纏めた少女がにやりと悪戯っぽい笑顔を浮かべながら
黒革のバッジホルダー式身分証明書入れを二冊掲げて現れた。
 バッジホルダー式身分証明書入れには
“大日本帝国防衛省”と金箔押しが施されていた。
 髪を束ねる白群色のリボンが、細雪を乗せた海風に棚引くと同時に、
車内で両手を挙げている二人の顔が恐怖で引き攣る。
「ばっ! ラーッパナ、 あんた何してんのさ!!」
「ちょっちょっちょっ、ちょっと待った! 
身分証入れの飾りをよく見てくんな!!」
 銀髪の少女が血相を変えて丁子茶色の髪の少女――ラーッパナの手から
身分証明書をもぎ取ろうと手を伸ばしたものの、
ラーッパナは身分証入れを奪おうとする手を寸前で躱すと、
ぐっと銀髪の少女の眼前に身分証入れを開いて突きつけてみせた。
 突きつけられた身分証の下には、
クレジットカード型のソーラー電卓のような装置が付いている。
銀髪の少女は怪訝な表情を浮かべて暫くそれを見つめる。
「はぁー、な・る・ほ・ど……」
 銀髪の少女は、ラーッパナが何を言わんとしているのか理解したのか、
彼女の気まずそうな表情と身分証を見比べてにやにやし始めた。
 ラーッパナも、気まずそうな表情のまま「へへへ」と
つられて笑い出すと、軈て共に大笑いしだした。
「これ、二人して何を巫山戯合っておる!!」
 運転席側に回り込んでいる黒十字の飾りをつけた
黒髪の少女が車輌越しに二人を叱責した。
 傍らに居る金髪のロングワンレンの少女も
赤いアンダーリムの眼鏡越しに半ば睨むように
二人の様子を見ている。
「やー、悪いフォン・ルック、ラムケ。
ちょいと面白い仕掛け見ちゃってさぁ~。
ま、詳細はラーッパナが送るからご覧あれって」
 銀髪の少女――ユーティライネンと呼ばれた少女は、
ラーッパナに目配せをした。
 ラーッパナは小さく頷き、
身分証をエアホッケーのパックのように滑らせ、
天井越しに二人に渡す。
 黒髪の少女と傍らの金髪の少女――ルックとラムケは
滑ってきた身分証を受け取り、検分を始める。
「車に仕込んだ小細工を動かす遠隔操作キーか。
このようなものがあるとは……」
 ルックは、運転手と
身分証を交互に見て唸るように呟いた。
 ルックの琥珀色の瞳に、ラムケの青竹色の瞳に、
氷柱のように鋭い敵意が宿る。
「このラーッパナ様が兵器の大泥棒って事、忘れてたかい? 
兵器だけじゃなく敵のおまんまと服も余裕がありゃ頂いちまうんだけどな!」
 ラーッパナは、ケラケラと笑いながら言った。
 ユーティライネンもラーッパナの笑顔につられ、
一緒になって高笑いする。
 助手席に座るスーツの人物は、
二人の楽しげな様子を目の当たりにして、
沸々と滾る怒りに歯と吊り上げた眦を震わせ、
呵々大笑する二人に気付かれぬよう様子を伺いながら、
グローブボックスに片手を静かに伸ばす。
 ユーティライネンの菖蒲色の瞳がその動きを捉えた瞬間、
一気に笑みが消え、入れ替わりに殺意が灯る。
「おっと、蜂の巣か挽き肉になりたくなきゃ
妙な真似はするんじゃないよ!!」
 ユーティライネンは声を張り上げ、
構えているスオミ KP/-31 短機関銃の銃身でどんと
窓枠フロントピラーを叩いた。
 助手席の同乗者の引き攣った短い悲鳴が響く。
「二人共、今すぐ車から降りなさい。
車から出たら、両手を後頭部で組んで
地面に膝をついて。いいわね?」
 ラムケはMP40を構え直し、厳しい口調で言った。
 車に乗っていた二人は、おずおずと片手でシートベルトを解き、
車外へ出て金髪の少女の指示通りの姿勢を取る。
 ルックとユーティライネンが、
無遠慮にスーツに手を当てたり、
襟裏を覗き込んだりしてボディチェックを一通り行う。
「暗器の類は無し、其方は如何か?」
「こっちも武器の類は何も持ってないのを確認したよ。
ラーッパナの手もアレ以上は回ってないし、
通して良さそうだね」
 ルックとユーティライネンは互いに示し合わせた。
 ラーッパナも「何も盗ってない」と得意げな笑みを浮かべて
両手をひらひらさせて見せる。
「ほら、立ちなよ。もう終わったからさ」
「私達がいいと言う所まで歩きなさい」
 ユーティライネンとラムケは、
銃を背に突きつけながら促した。
 スーツを着た二人組は、寒さと恐怖に
心身を震わせつつ恐る恐る歩き始める。
 つい先刻まで買い物目的の観光客や地元民で賑わっていた
社屋の玄関前まで歩を進めると、開け放たれた扉の前に
白い人影――海軍二種軍装を纏う人物がルガーP-08を
片手に佇んでいるのが見えた。
「はい、ストップ、ストーップ」
「此処でいいわ。但し、この先から一歩でも進んだら……
どうなるか分かってるわね?」
 ラムケは、ユーティライネンの声に繋げるように、
銃を突きつけたまま静かに釘を差す。
 海から吹く細雪を乗せた風の冷たさに身を震わせていると、
海軍二種軍装を纏う人物――是蓮が、悠然と歩み寄って来るのが見えた。
 五歩手前くらいで歩を止めると、手にしているルガー P-08を構え、撃鉄を起こした。
「君達の飼い主への確認は今しがた終わった。
間違いなく防衛省統合軍政局所属の職員だね。
予備役招集がかかれば階級不問で速達の軍事郵便で令状が届けられる筈だし、
近在で用事を済ませた帰りに手土産を――という訳でもなさそうだが」
 是蓮は、背に銃を突きつけられている
スーツの二人組を見据えて問うた。
 どうにか答えねばと必死に思考回路を動かそうとするも、
緊張と寒さに加え、上空を神経を尖らせている
猛獣の唸り声のようなエンジン音を上げて旋回する航空機の存在に、
しっかり記憶していた筈の本来の目的が思い出せず、
ただ銃口を見据えて口を噤むしかなかった。
 
「アポイントも無しにやってきた事は百歩譲って許すとして、
防衛省統合軍政局の人間が二人揃って、当社に一体何用かね?」
 是蓮はそう問いかけると、銃を構えたままもう一歩半踏み出した。
 少し近くなった是蓮の姿を見て、一人が「ひっ」と短い悲鳴を上げる。
「あ、アポイントメントを取らず訪問した非礼はお詫び致します! 
本日は、閣下のご親戚であらせられる八葉舞蓮さんに
急ぎの御用があって参じた次第でありますッ!!」
 恐怖で口を噤んでいた一人が、悲鳴のような声で叫ぶ。
 是蓮は「ふうん」と言う代わりに、若干眉を上げる。
「用向きは承知した。私としては君らのような
市ヶ谷の中の道理しか知らん無礼者に会わせたくはないが、
私の一存で決める事ではないから、
私が尋ねてその返答次第で顔合わせさせる」
 是蓮は突っ慳貪な口調で返すと、右耳に手を当てる。
 四十秒ほどノイズ混じりの呼び出し音が流れた後、
応答した手応えを聞き取ると「舞蓮」と呼び掛ける。
******************
 舞蓮が取り残された社長室には、三人の少女が訪れていた。
 この三人の少女も、外に居る少女達と同じく
軍服を各自でアレンジした服を纏い、
銃火器を携えるなりして武装している。
「外の人達なっがいねー。
とっととごめんなさいして帰ればいいのに」
 熨斗目のしめ色の帽子を被った少女が
窓辺に歩み寄り、外の様子を窺いながら気怠そうな口調で言った。
 はあと大きな溜め息を一つ吐いて踵を返し、テーブルに戻って着席する。
 濃灰色系統の重めのコーディネートをせめて明るくしようと合わせている
靴下とお揃いの赤いタートルネックリブセーターの上に着けている
金のメダルのネックレスが僅かに揺れながら光る。
 そして、手に持ったままだった手札を見て、
窓辺で吐いたのと同じ大きさの溜め息を
今度は心底困りきった渋い顔でもう一度吐く。
 心なしか、橡色つるばみいろ
ショートボブがくたんと萎れたように見える。
「あっちが何話してるかは後で落ち着いた頃に聞くとして、
リベルエーリが手札出さんと先進まんやん」
 藍鼠色のベレー帽を被った天青色の髪の少女が、
テーブルに置かれた盤面を見ながらしびれを切らした風に
熨斗目色の帽子を被った少女――リベルエーリに催促する。
 リベルエーリは、より表情を渋くして「うーんー」と呻き声を上げる。
「せやで。結果がどうあれ、
出すもん出さんと終わるもんも終わらんやん。
どうしてもアカンならパスでえぇんやで? 
ウチらはヴァンデリュアやジューコフみたく鬼やないし」
 彼女の対面で同じように手札を持って座っている
浅紅色のセミロングの少女が、
天青色の髪の少女と視線を合わせて言う。
 二人の言葉に、リベルエーリの中にある
負けず嫌いが燻り、表情が益々渋くなる。
 リベルエーリはむくれながら仕方なさげに手札を選んでいたが、
どう見てもいい手が全く無く「パスだよーパスー」と棒読みで宣言した。
「そもそも時間潰しなら
プリミエラでよかったじゃないかぁ~。
何で此処には行列コレイカしかないんだい?」
 リベルエーリは、盤上の状況を眺めながら誰となしに尋ねる。
「棚にこれだけしかなかった」
「だったよねー。あー、小さいのでいいから
カルテ持っておくんだったー!」
 舞蓮は、手札を選びながらリベルエーリの問いに淡々とした口調で答える。
 取り付く島もない答えを聞いて行列コレイカ
小包を棚から発見した時の状況を思い出し、リベルエーリは天井を仰いで嘆いた。
 彼女の嘆きに、他の二人も「ほんまや」「そらそやわ」と共感する。
「ま、他の事やるとしても
これ終わってからとして……
オルリックかクレーベルクは
カルテの類は持ってないのかい?」
 リベルエーリは、重苦しい気持ちを切り替えようと
ゲーム版の傍らにある菓子盆の中の
マドレーヌの包みに手を伸ばし、封を開けながら尋ねた。
 場に包の中から解き放たれたマドレーヌの甘い香りが一瞬漂う。
「生憎と今日に限ってなぁ……。
昨日、服をクリーニングに出すいう時にポケットの中のモン
ばーっと出して、身分証とか必要なモン以外は
机に置きっぱにしたままやってん」
 藍鼠色のベレー帽を被った天青色の髪の少女――
オルリックは頬杖をつき、盤上に自分が出したカードを
人差し指でつつきながら言った。
「ウチはそゆのそもそも持たんしなぁ。
メモ用紙はあるけど、それで即席の作っても透けるなり
うっすら分かる筆跡で手札がどんなか分かっておもろないやん」
 浅紅色のセミロングの少女――クレーベルクが、
胸ポケットから半分ほど使った年季の入ったメモ帳を取り出し、
リベルエーリに見せて答えた。
 リベルエーリは「だーよーねー」とテーブルの上に用意されていた
懐紙で指を清めながら同意した。
 その時、机の上にインテリアも兼ねて置いてある
朱殷色の欧風アンティーク電話機が鳴る。
 舞蓮は躊躇いなく受話器に手を伸ばし「是蓮叔母様?」と応答する。
 その時、机の上にインテリアも兼ねて置いてある
朱殷色しゅうんいろの欧風アンティーク電話機が鳴る。
 舞蓮は持っていた手札を伏せて机の上に置くと、
躊躇いなく受話器に手を伸ばし「是蓮叔母様?」と応答する。
『舞蓮か。今来た奴らは私ではなく君に用向きがあるそうだ。
相手の身分は防衛省統合軍政局職員。心当たりは?』
「無い」
 是蓮の問いかけに、舞蓮は防衛省の人間が何の用だと
疑問を抱きつつ短く答える。
 入営勧誘または陸軍士官学校と海軍兵学校の入学案内は
地方本部の仕事で、防衛省の職員が別の用事の
ついでとしてもやる仕事ではないからだ。
『そうか。ならば、奴らの話を
ほんのちょっとは聞く気があるか? 
聞く場合は念の為に私も同席した上で、だが。
同席の必要が無ければ私は席を外して、
後でゆっくり報告を聞く。どうだね?』
「叔母様の言う通り“ほんの少し”なら別にいいけど。
同席についてはどうでもいいから好きにして」
 矢継ぎ早の問いに、舞蓮は少し思案して答える。
 同席せずとも社長室の記録装置が
全ての出来事を記録しているから
自分の報告と照合しつつの話し合いになるのが分かっていたので、
同席については是蓮の興味と気分に任せた
自由意志にしようと思ったのだ。
「分かった。ならば状況を終了して彼らを通そう。
では、後で応接室で」
 舞蓮の答えを聞いた是蓮は語気を少々和らげて言うと、
一方的に通信を終了した。
 やれやれと思いながら重々しい受話器を置くと、
回転盤の中心部に「新着メッセージが届いています 八葉是蓮」と表示された。
 回転盤を持って前方部分を開き、充電も兼ねて収納していた
ハンディタブレットを取り出してメッセージを確認すると
「但し、武装は解除する事勿れ」と書かれていた。
 スタンプ一覧を開き、灰色ハチワレ猫が両腕で丸を作って
直立している絵のスタンプを選択し、返事代わりにする。
「あの社長もとい提督はん、何言うたん?」
 オルリックは、ハンディタブレットを
手にしている舞蓮を見て尋ねた。
 万が一の時には、この部屋に居る自分を含めた三人で
舞蓮を護衛して脱出させる手筈になっている。
 もしやその時が来たのではと、
じりじりと焼けるような緊張が走る。
「あれ、防衛省の役人で、
話があるからこれから聞く事になった」
 舞蓮はハンディタブレットを机の上に置き、
伏せていた手札を手に取ると一枚取り出し、
ゲーム盤の上に静かに置いた。
 舞蓮が出した手札を見て、三人は一気に鼻白む。
 出された手札には「店を強制閉店させる」と書かれていたのだ。
「あ――――――っ!!」
 リベルエーリは、手札を盤上に放り出すよう手放すと天井を仰いで叫んだ。
 オルリックとクレーベルクも、リベルエーリが叫ぶと同時に
げんなりとした表情を浮かべる。
「まぁ、今から話し合いっちゅーし
しゃーないっちゃしゃーないけどぉ……」
「これ以上ないってくらいうってつけな手札やな」
 途切れたクレーベルクの言葉にオルリックが続きを繋げるように言うと、
同じタイミングで「はあ~」と大きな溜め息を吐いた。
******************
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トウレン・シラバノ
昼まで仮眠するまでの間少しだけします
132:27
トウレン・シラバノ
【2021/01/11】飯時までの配信です。
140:52
トウレン・シラバノ
【問:とうらぶ話なのに刀剣男士が居ない】 序盤の序盤なので、これからです。
285:12
トウレン・シラバノ
空腹が限界なので2021/01/11分は此処までに。
289:20
トウレン・シラバノ
【2021/01/14】ハート有難う御座いますー!
332:23
トウレン・シラバノ
58分くらいに「Dr.STONE」二期見るので配信終了します。
335:55
トウレン・シラバノ
(時間を間違えてた顔)
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初公開日: 2020年08月24日
最終更新日: 2021年01月24日
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当本丸話&タイムラインで見かけたとうらぶタグ小説第二弾。
この枠から配信する新作では「同系統の複数のタグを、あわよくば一つの話の中に盛り込み消化する」という試みをします。
主題は「本丸と審神者就任初日」です。