気づいた時には目の前は白一色だった。まなみが周りを見渡すと、ぼんやりと人影が浮かぶ。不審に思いながら人影に近づくと、その姿は見慣れたものへと変化していった。
「ななみ……?」
 名前を呼ばれたななみは、まなみにふわりと笑みを向ける。思わず見とれてしまったけれど、もしかしなくてもこれは夢だな。まなみがそれを口にすると、ななみはイタズラを思いついた子供のような表情を見せる。
「ええ、これはまなみの夢の中。そこに私が干渉したの」
「どういうことなの……?」
 まなみの疑問にななみは出来るだけ丁寧に説明をした。
 まとめるとこうだ。普段はスマートフォン越しに、文字数制限つきでコミュニケーションをとっていたななみだが、思ったように会話できないことがもどかしかった。なので霊力を高め、睡眠中のまなみの意識に干渉をできる術を身につけた。なのでまなみの夢の中であれば更にコミュニケーションをとれる──ということらしい。
 ななみの説明をなんとか理解したまなみは、何かを思いついた表情を浮かべ、瞳を閉じて何かを念じ始めた。ななみがらしくなく戸惑う間に、白一色の空間は姿を歪め、見慣れた部屋へと変化していく。
「これは、銀門館の寮の部屋かしら」
「正解。私の夢なんだから、話しやすい部屋を作れるんじゃないかと思って」
「まなみ、すっかり適応能力が上がったわね。部活の面々のおかげかしら」
「褒められている気がしないわね……」
 眉間にシワを寄せたまなみはベッドに腰掛け、ななみに隣に座るように促した。遠慮がちに腰掛けたななみの頭を、まなみはポンポンと撫でる。
「何を、するのよ」
「姉らしいことが出来なかったから、埋め合わせ?」
「ふふ、それじゃあ妹らしく甘えておこうかしら」
それからふたりは、ななみの生前に体験できなかった、穏やかな姉妹の時間を過ごした。
 まなみが目を覚ますと、見慣れた天井が視界に入った。ななみと過ごした記憶がぼんやりと蘇る。あれはただの夢だったのだろうか。私だけの願望だったんじゃないか。
 そういう考えに至った瞬間に、ななみのスマートフォンが振動する。まなみがすぐさま確認をすると、メッセージを受信していた。
『あれはわたしのがんぼう』
『ゆめだけどゆめじゃない』
 あの幸せな時間は自分だけの願望じゃない。そう思うと寝起きのローテンションがみるみる回復していく。我ながら現金だなと苦笑しつつも、まなみは鼻歌混じりに身支度を整える。
 まなみが制服に身を包んでいる間にまたメッセージが受信する。
『またゆめではなしがしたいな』
 不器用な妹の精一杯のおねだりだった。
 放課後、世界隙間研究部はいつも通り、部室と称した空き教室へと集合していた。部長の鏡也が『面白い』と思える噂がないか、という定例報告会だ。
 現在はめぼしい噂がなく、心なしか鏡也がしょんぼりしているように見える。環となぎさはオロオロしているが、まなみはそんな鏡也の姿が面白く思える。決して態度には出さないけれども。
 かと言って、このまま微妙な空気は耐え難いと、まなみはななみと交流した夢の話をした。怪奇と呼べるものではないが、鏡也が追っている事件に繋がるかもしれないからと。
「ふむ、なかなか面白いね」
 予想通り、鏡也の表情の色が変わる。傍らの環となぎさも肩の力を抜いた。
「天村ななみが常にまなみの傍にいるから出来た業なのか、双子の絆というやつなのか、元魔女の力なのか、非常に興味深いね」
 鏡也は不敵な笑みを浮かべながら考察を繰り返す。まなみも原理が気にならないわけではないものの、正直どうだっていい。自分とななみの願望が『両想い』だったのだから。
 それまで黙っていたなぎさが、ポンと手を叩いて口を開く。
「これって、私達もまなみちゃんの夢の中にお邪魔できないんですかね?」
「ハァ? 何言ってんだよなぎさ。ンなことできるわけが……」
「環、案外できてしまうかもしれないよ」
 眉間にシワを寄せる環に、鏡也は歌うように耳打ちをする。それを聞いた環は大きなため息を吐き、カバンからヒトガタの紙を取り出して、鏡也となぎさに配る。環は自分の分のヒトガタに筆ペンでさらさらと名前を書くと、なぎさにも同じことをするように促す。なぎさはわけがわからないといった顔をしつつも従った。三人の名前が書かれたヒトガタを回収すると、環はそれをまなみに押し付けた。
「何よ、これ」
「オレらの身代わり。鏡也サン曰く、これを枕元に置いて寝ると、オレらもその夢の中に潜り込めるんじゃねぇかって」
 まなみが鏡也の方へ視線を向けると、いつもの悪巧み顔をしている。こうなった鳴神鏡也を止められた試しはない。
 不信感は拭えないものの、まなみは三枚のヒトガタを鞄の中へとしまい込んだ。
 夕飯と入浴を済ませ、まなみは自室のベッドに寝転がり、部活中に渡されたヒトガタの紙を眺める。教科書のお手本の様な字の鏡也、意外と綺麗な字のなぎさ、いかにも殴り書きな字の環。三者三様の筆跡にらしさを感じつつも、本当にこれであの三人が自分の夢に潜り込んでくるのだろうか、と思ってしまう。まなみが眉をひそめると、ななみのスマートフォンが振動した。
『ふたりきりがよかったのに』
『いまのはまちがい』
『わすれなさい』
 唐突な妹のデレに、まなみは思わず顔を覆ってしまう。その間にもななみからの抗議のメッセージが次々と着信する。
「大丈夫よななみ。今日はまだふたりきりでいましょう」
 そう呟いて、まなみはヒトガタをサイドチェストにしまい込んだ。
 ななみを含めた五人で部活をするのも楽しいかもしれないけれど、もう少し姉妹の時間を味わいたいのは私も同じだから。
 部屋の照明を落とし、ななみのスマートフォンを握りしめながらまなみは眠りに落ちた。
「まなみ、貴女はそんなに情熱的な人だったかしら」
 夢の中でのななみが、耳までほんのりと紅く染めた姿で現れた。つられてまなみも顔を熱くしてしまう。同じ顔だというのに妹が可愛くて仕方がない。ニヤけそうなのを堪えて、まなみは話題をふる。
「ななみはどこか行きたいところはない?」
 私の夢の中だからある程度は自由がきくよ、というまなみの言葉にななみは悩むそぶりを見せる。そして、ぽつりと呟いた。
「学校の屋上」
 その瞬間に白一色の世界が歪み、学校の屋上を形成する。まなみは思わず言葉を失うものの、ななみは気にした様子もなくすっきりとした表情を浮かべていた。
「私はいつもここらから桜ヶ丘高校を眺めているの」
「そうなんだ」
「煩い地縛霊が絡んでくるけれど、そいつは無視しているわ」
「それって、もしかして屋上の影?」
「一応そう呼ばれている存在ね。実際は軽薄な臆病者よ」
「結構仲良くやっているじゃない」
「冗談きついわ……」
 そこまで話して、ななみとまなみは同時に噴きだした。こうして軽口を叩きあえる時間が酷く幸せに感じたから。
 どちらからともなく、ふたりは手を繋ぎ指を絡ませる。
「明日はアイツらも呼んで部活をしましょ」
「ふふ、それも楽しそうね」
 晴れ渡る秋空の下、まなみとななみは誰もいない校庭を見下ろした。
**********
今日はここまで((( ´꒳` )))
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天村姉妹(仮)
初公開日: 2020年08月05日
最終更新日: 2020年08月10日
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天村姉妹のお話をぽつりぽつりと書いていきます。
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