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 普通なら絶対に着ることのない蓮巳のドレス姿を思い出す。本人は似合わないと頑なに言い張っていたけれど、初めての衣装合わせで見惚れてしまうほど似合っていた。薄化粧しかしていないせいで、どこから見ても蓮巳敬人でしかなかった。それでも、コルセットを締めて体型を少し変えただけのドレス姿があまりにも似合っていたから、美人は何を着ても美人なのだとしみじみと感心したのを覚えている。
 苦い顔をしながら鬼龍を見上げる蓮巳に苦笑いするしかない。ここに居るスタッフは、まさかあのお堅い蓮巳敬人が女装して、その上舞台で意地悪(でもなかったけれど)な義姉役を演じたのを誰も知らない。当時からのファンも殆ど知らない。なにせ、あの時の生ブロマイドは本人がほとんど回収していったのだから。
だから、当時の夢ノ咲の生徒であの舞台を見た人しか、女装した蓮巳敬人を知らないのだ。
 尤も、ほとんど世に出回っていないせいで、今ではプレミア価格で流通しているのを蓮巳は知らない。ファンの間では伝説と呼ばれる数枚。実は鬼龍もこっそり1枚持っている。
 在るはずなのに無いものを欲しがるのがファンという生き物だ。そして、そのファンをたくさん抱える蓮巳の秘された1枚を欲しがる人がいる限り、蓮巳がどれだけ恥ずかしがったとしても、あの一枚はどこかで誰かが持ち続ける運命にあるのだ。
 いつかの蓮巳のドレス姿を再現するのも面白いかもしれない、なんて。一瞬でも脳裏を過らなかったと言えば嘘になる。なにせ本当に美人だったのだ。昔よりも余計なものを削ぎ落して、少しだけ精悍になった今の蓮巳は、ドレスを着たとしても女には見えないだろう。それでも、きっと今でも似合わないなんてことはない。
 昔の蓮巳は蛹が羽化した瞬間のような儚さゆえの色気があった。今の蓮巳はどこまでも羽ばたいていくための翼を得たばかりの鳥が飛び回っているのを見上げているような微笑ましさがある。
 アイドルをすること、愛されることに自信を持って笑うようになった蓮巳は可愛い。年々、余計なものを削ぎ落して、愛らしく生まれ変わる蓮巳。きっとドレス姿だって似合うだろう。
 蓮巳の隣でプロデューサーが目を輝かせている。昔から、蓮巳の衣装を作りたがっていた子だ。気持ちは分からなくもない。昔の衣装をリバイバルするなら関わりたいのだろう。
 昔から紅月の衣装は鬼龍が担当していたせいで、ほとんどプロデューサーの手は入らなかった。蓮巳ほど着飾りがいがある男は居ない。それにプロデューサーは昔から、単純に蓮巳という先輩のことを尊敬して、親しんでいた。そんな人に自分が心を込めて作った衣装を着てほしいと願う気持ちはよく分かる。衣装を己の手で作れる者の最大の愛情表現なのだ。それなのに、鬼龍という衣装係がいるせいで愛を伝えきれなかった。それが悔しいのだろう。実際、
鬼龍がよほど忙しすぎる時以外は手を貸せなかったことが悔しかったと卒業式の時に聞いた。
 当時は蓮巳を最も美しく魅せることができる衣装を作れるのは自分だけだという自負があった。それは今でも変わらない。鬼龍の作る衣装に価値があると認められ始めた今だからこそ、かつて情熱のままに作った蓮巳のための衣装を着てほしい。あれは、鬼龍の愛そのものだ。
 何より、あの衣装こそが紅月の原点だ。鬼龍の原点でもある。あの衣装から、全てが始まった。
 紅月を始めたのは蓮巳だ。蓮巳が居なければ、鬼龍はこうしてアイドルをしていない。神崎など、そもそもアイドルを志さなかったかもしれない。
 鬼龍にとって。神崎にとって。全ての起点は蓮巳だった。その蓮巳の、記念すべき日を彩るなら。あの始まりである衣装ほど相応しいものはない。
「鬼龍、どの衣装を作るつもりなんだ?」
「そうだな、とりあえず通常衣装は外せねぇだろ。旦那は何か着たいものはあるか?」
「喧嘩祭。覚えているか? あの衣装がいい。俺にとっての紅月が生まれ直った日だから」
「それは私が作ってもいいですか?」
「プロデューサーは忙しいだろう? 鬼龍が作ると言うんだ。作らせておけばいい」
「私が作りたいんです」
「……鬼龍に聞いてくれ。衣装周りの担当は俺じゃない」
「まぁ、あれは嬢ちゃんのやつだからな。一着だけならいいぜ」
「……鬼龍先輩のケチ」
 
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