ああ……どうも、珍しいこともあるもんやね。このページを見てるってことは、あなたは何かに誘われて来たん? それとも自発的? ま……俺にとってはどれでも良い。俺は話を続けるだけやからね。
 俺の自己紹介が必要よな? 俺は景壱。雨の眷属であり、雨の末裔。こやけの主人。こやけに会ったことある? 夕焼けの精霊。もしかしたら、あなたも何処かで遭ってるんかもな。好ましくない。実に好ましくないんよ。その状況は。俺にとっては最低最悪。おみくじで言うと、大凶。運が悪いとでも思っておいて。ああ……自己紹介が途中やったね。俺の悪い癖やから、我慢して。あらかじめご了承ください。って一応形式的に言うておこうと思う。
 俺はさっきも言うたけど、雨の眷属であり、雨の末裔。簡単に言うと雨の神様の親戚やと思ってくれたら良い。俺が望めばどんな種類の雨でも降らせることができるし、やませることができる。嵐でも台風でも雷を伴ったものでも、そう……何でも降らせることができる。かと言って、そんなに簡単に降らせたりやませたりしてもつまらない。俺が望めば全て叶うけれど、そんなん望んでどうするの? あなたならどうする? 雨を降らせられる。いつ使う? 嫌なことがあったら使う? 運動会を中止にするとか? 中止にしたところで……どうする? 延期になる可能性もある。延期になれば、また降らせるん? 暇人やね。ま……俺としては、どうでも良いし、この話を続けていても俺の自己紹介は終わりを迎えない。終わらせないで良いなら、このまま無駄な話を続けていくんやけど、そういうものやないやろ?
 どこまで話したんやったかな……。そうそう。雨の話。雨の神様の親戚の話やね。俺はこうやって人間の姿をしてるから、簡単に話ができる。容易に会話を可能としている。俺の身体は――っと、ここで話すことやない。俺は知りたいと思ったことを、何でも知りたい。何でも知りたい。知りたい。知らないことを全て知りたい。あなたの名前を知りたい。あなたの性格を知りたい。いや……性格はなんとなくわかる。せっかくやし、あなたの性格を当ててあげる。
 あなたは、静かな場所ではおとなしくしていて、騒がしい場所では大きな声で話すことができるかもしれない。やるべきことはやるし、やらなくていいことはやらない。自分が求められていると思ったら、求めに応じようと思う。自信がある時は大胆に行動し、自信の無い時は、黙っている。……だいたいそんな感じやと思う。ま……これはだいたいの人に当てはまるように考えられてるんやけど。一種の学問のアレ。詳しく知りたいならご自分でどうぞ。俺が教えても良いけれど……俺の自己紹介が終わらなくなる。ただでさえ脱線してるのに、これ以上回り道ばかりしていては、時間を無駄に使ってしまう。俺はそれでも良いんよ。俺は時間を持て余してる。暇と言えばわかりやすいか。
 そろそろ俺の性格についてもわかってそうやね。俺はなかなか本題に入れない。気付けば関係の無い話ばかりしている。でもな、一つだけ言わせてもらえば……話したいんよ。俺はあんまり屋敷から出ないから、こうやって話をできるのは……嬉しい。なんてな、言うと思った?
 あっはっはっはっは。良いね。そういうイラッとした表情。堪らなく人間らしくて好き。俺はそういう反応を見るんが好きなんよ。あなたはそうやない? 違う? 他人の反応が気にならない? 他人が自分をどう思っているか考えたことはない? 向こうでヒソヒソ話してたら、悪口を言われてるって思う事はない? 会話の中で自分の名前が出てきたら、自分の悪口やと思ったり、苦情やったり思わない? ククッ、思ったことあるやろ? そういう考えに、俺はつけこむ。
 手の内を明かして良いのかって思った? 問題無い。人間を追い詰める方法なんて、いくらでもある。星の数ほどある。あなたが今見ている星はもう死んでいるかもしれない。あれは何万光年先からやってきた光なんやろなぁ。生命の輝く瞬間を逃さず、捉える。鉄則やね。
 思えばけっこう話してしまってると思うんやけど、俺の自己紹介がまだ終わっていない事実もある。どうも話が逸れてしまう。俺の悪い癖の一つやから仕方ないんやけど……。他にどんな悪い癖があるのとか思う? あなたは気になるタイプ? 自己紹介をするんやし、せっかくやし、またとない機会やし、聞いとく?
 俺は知りたいと思えばとことん知ろうとする。たとえば、眼球の裏側。月の裏側をあなたは見た事ある? どういう風になってるか知ってる? 月の裏側を知ろうと思えば、どっかの宇宙なんちゃらを調べればすぐにわかると思う。でも、そうやない。俺はこの目で見たことしか信じない。信じたくない。お生憎様。誰かの調べた情報も必要な時はあるけれど、それを正しいものと判断するには、自分の知識が必要になる。どれが必要でどれが不要か。判断するのは自分しかいない。そんな訳で、俺はいつか月の裏側を自分の目で見たいと思っている。でも、それを叶えるのは簡単やけど面倒臭いので、まずは、眼球。あなたは眼球の裏を見た事ある? 裏側がどうなってるか、知ってる? 魚や牛や、こう、家畜のものやない。俺が知りたいのは……人間の眼球の裏側。解剖すればすぐにわかる。だから、俺は、そこらへんで人間を捕まえてきた。知恵を授けるって言えば簡単に釣れるんやから、人間はとても便利。
 早速解剖してみた。麻酔は持ってないから、そんまま抉ってみた。俺の服を汚したことについては、貴重な眼球を見せてくれたから許してあげた。でもな、残念なことに、その人間、死んでしもて。
 術式に誤りは無かったはず。出血量も致死量には達してなかった。何でやろ? どうしてあの人間は死んでしまったんやろ? 知りたい。俺はあの人間が死んだ理由を知りたい。知りたい。知りたい。知りたい。……と、思って更に身体を調べてみたんよ。せっかくやし、他の臓器も見たいやん。でもな、何処も悪くなかった。何処にも病変は無かった。俺の知る全ての病変は無かった。だから俺は知った。
 麻酔無しはまずかったんやなって。
 もしかしたら耐えられるかと思ったのに。やっぱり準備しておかなあかんかったね。こやけに頼んで処分してもうた。四肢切断した後は腸を抜いて、冷蔵庫で熟成させて、シチューにして食べた。なかなか美味しかった。こやけは三杯おかわりしてた。食いしん坊で可愛いやろ。
 で、何やった? ああ……悪い癖の話やね。少し気を急ぎ過ぎた。
 他には……そうやね。自信があるのにネガティブって言われたことがある。どういうことやろね。意味がわからへん。
 自己紹介って……なんやったかな。知りたいな。まともな自己紹介。調べる必要がありそうやね。
 俺の名前は景一……ちがう。壱。こっちの発音。景壱。
 俺は雨の神様の親戚。職業は……職業? そうやな……見世物小屋の店主。そんなところ。
 見世物小屋にはもう来てくれた? 可愛い精霊がおったと思うんやけど。そう。アレがこやけ。抹茶プリンをこよなく愛する食いしん坊。算数が苦手なんかな。一ダースはわかるのに、三ダースになると話が変わってくる。おかしな数を言うてた。お菓子だけに。ククッ、ま……そういうダジャレも知ってる。
 このままやと俺の自己紹介は終わりを迎えない。そもそも自己をどれだけ教えても仕方ない。相手に知ろうと言う気があるのかどうか、知りたくないならいちいち教える必要もない。それでも、あなたは知りたいと思う? 俺のことを知りたいと思う? 二度と戻れなくなるかもしれない。それでも、良い?
 ククッ……あっはっはっはっは。そう怯える必要は無い。俺は誰かも知らないあなたに話をするだけで楽しい。あなたを今すぐどうこうしようとしない。それに、俺のことを知ろうとする人に、危害を加えようと思わない。今すぐには、な。暫定的に。
 話を続ける。俺がこの話し方をするのは、とある調査によって方言男子は一定層にウケると聞いたから。聞いた? いや、この表現は間違いやな。俺はきちんと調べて知ったから……これで良いか。調査結果ってやつやね。
 ……他に何を話すんやったかな。俺の自己紹介なんてこれぐらいやない? とは思ったけど、まだあった。匣の話をしてなかった。
 このミセにあるのは、どれも不思議な匣ばかり。匣を開いて覗いて。物語を楽しむことができる。
 でも、ここの匣をミるには、お代が必要。金品は不要。物が欲しいとは言わない。どうせならあなたの肉体を差し出してもらっても良いけど、俺は今解剖しようって気分やない。
 匣をミるには時間が必要。喜ぶのにも一秒。怒るにも一秒。哀しむにも一秒。楽しむにも一秒。何にしても、時間が必要になる。あなたの貴重な時間を俺に頂戴。そうすれば、あなたに匣をミせてあげる。俺が紹介するのは、どれも奇妙な話。あなたの好みに合う物もきっと見つかる。気に入った時は、そのまま持って帰ってもかまわない。だって、俺にはもう匣を持っている必要が無い。飽きてしもてんな。
 楽しいことはいくらでも味わいたいけど、怒るようなことや悲しいことは嫌やろ? だから、選んであげる。楽しくて、腹を抱えて笑えるようなおはなし。ミせてあげる。今日の俺は気分が良い。いつもより上手く語ることができるかもしれない。
 ……自己紹介はどうしたんやろね。あっはっはっはっは。
 では、匣の紹介を始めよう。
 これは昔の話。江戸時代の話やね。遊郭といえば何処を思い浮かぶ? 代表的なのは、吉原。他にも島原とかあるんやけれど……今回は吉原の話をしてあげる。
 遊郭には「廻し」という制度がある。一人の遊女が一夜に複数の客を相手にするんやけれど……遊女の気分でこう「嫌やの」とかなったら、長時間待たされたり、ひどい時には全く顔を見せずに終わらせる時もある。ちょっとでも座敷に来たら「三日月振り」。全く顔を見せない時は「空床」。やっと来たと思ったらすぐに寝る時は「居振り」って言う。ま……せっかく高い金を払ってるのに、何にもせずに終わったら、客は怒るわな。しばしばもめ事が起こる。
 そんな客の苦情を一手に引き受けるのは、「若い者」と呼ばれる男性従業員。可哀想に客から散々言われまくる。そりゃ来ない遊女が悪いんやけど、嫌な相手と過ごすのは誰もが嫌やろ。それも何人も。
 客と遊女が床に入るのは午前二時頃。これは大引けって言って、もうお休みの時間な。寝てる。寝る時間。これまでに部屋に来てくれたなかったら、ま……振られたってこと。若い者はこの時間を過ぎると文句を言われまくって四苦八苦してる。
 一人目のお客に散々毒づかれて一喝された若い者は汗だくになって遊女を探す。人気者故に、何処の座敷に行ってるか若い者もわからなくなってるんよ。それに江戸時代やからまだ照明も暗い蝋燭。いくら明るくしていると言っても、電気には敵わないやろ。で、廊下を歩きつつ遊女を探す若い者。障子の向こうから「ちょいと廊下ご通行の君」って呼び止められる。二人目の客は薄気味悪くねちねち責めて、若い者の背中に焼け跡を残そうと火鉢の箸を持つ始末。どれだけ待たせてるんか知らんけど、とても怒ってるご様子。ほうほうの態で逃げ出すと三人目の客に捕まる。今度も散々文句を言われた。また廊下を捜し歩いていると馴染みの田舎侍と出会う。これで四人目の客。前の三人と同じように文句を並べ立ててるけど、訛りのせいでいまいち頭に入って来ない。怒ってるんだけはわかるんやけどね。
 そんな騒ぎをよそに、遊女はお大尽と遊んでる。やっとぼろぼろになりながら知らせることができた若い者を見て、お大尽の方が気にして「おい花魁。ワシが揚げ代を他の四人に渡してやるから、帰ってもらえ」と言う。言い忘れてたけど、前の四人は「花魁が来ないなら、半額でも返せ」って言うてた。だから、このお大尽は「代わりに出してやるから」って見栄を張ってる。そしたら、遊女がこう返す。
「じゃあ、わっちにもお金をくんなまし」
「お前に銭を渡してどうする。ほれ」
 お大尽は気前よく若い者に四両、遊女に一両手渡した。遊女はそれを再びお大尽に渡す。
「あんがと。じゃ、このお金を持っていきなんし。このまま四人と一緒に帰ってくんなまし」
 ……と、まあ……誰も死なない平和な話やったやろ?
 これが『五人廻し』って落語の演目。調べたらきちんとしたんが出ると思う。俺が憶えてるのはこれぐらいやね。五人も演じ分けて話す必要があるから、描写が難しい演目として有名。かなりの技量が必要となる。
 今日のところはこれぐらいにしておこう。俺の自己紹介もまた次回。……終わりそうにないけどな。
 では、また次の雨の日に。
(これで終わりますー。閲覧ありがとうございました。)
Latest / 70:28
39:06
六瓢 歩穂
こんばんは。今度は景壱さんのお話ですね!わくわく!
39:38
末千屋 コイメ
こんばんは~無駄に長く話してきますよ((
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これは『自己』紹介やったはず。
初公開日: 2019年10月16日
最終更新日: 2019年10月16日
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一次創作作品のSS。『夕焼けの里』シリーズのもの。
自由気ままにタイピング練習を兼ねてやってます。
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