毎度おなじみ。夕焼けの里へようこそ。夕焼けの里がわからないですって?
 それは大変ですね。でも、大丈夫です。これから皆々様がミるものは、それはもう、いつもどおり。
 まあ、いつものアレコレです。
 さ、さささ、さっそくいってみましょうよ。まずは指慣らし。指慣らしでございます。
 次に腕をならして、次に脚。まあ、そんな感じですよ。
 いつもの口上を始めていきますね。
 あなたの近くにきっとある。
 あなたの後ろにきっとある。
 あなたの前にもきっとある。
 ようこそ! ようこそ! ようこそ! ええ、今噛みました。噛み噛みですね。ちょtt……はい、発音がおかしいんですよ。さっきも言いましたけど、調子が悪いんです。言ってないですね。私は何を言ってるんでしょうかね。あ、ちょっと待っててください。待っててくださいと言って、待つ人を見たことがないのですけど。
 コホンッ。ここは冥界、苦悩の彼方! サァサ、目玉をひん剥いて括目すべし!
 本日は……そこそこのお客様ですね。毎度ご来場いただき、ありがとうございます。初見だろうがなんだろうが、私にとっては毎度なのですよ。初めましての方は初めまして。それ以外の方は、こんばんは。お久しぶりです。私、この『黄昏劇場』の支配人代理の――すみません。間違えました。支配人! 支配人の! こやけです!
 ちょっと一つだけよろしいでしょうか。凄く、今、やりづらい状況になっているのです。言い間違いが過ぎます。ぶっちゃけ、何がなんだかわかっていないままなのです。
 このままでは、この劇場もお先真っ暗なのですよ。ついでに言うと、この後のセリフすら忘れてしまったのです。これは由々しき事態なのです。由々しきって何ですかね? 言ってみたくなるでしょう。私はなりますよ。あなたはなりませんか? ならないですか? そうですか。それはそれは……まあ、良いとしましょう。
 あまりこれは好ましくない状況であるとも言えるのですが、私の主人がこの場を持たせるように命じてきてまして。このまま話を続けるしかないのでございます。どうも彼は私が困っている姿を見るのが大好きな歪んだ性癖をお持ちのようで。悪趣味の権現とも言えますね。
 さて、今度こそ口上を思い出したので、続けていきましょう。
 最初から口上を始めますよ。今度こそ一気にいきましょう。途中で忘れてしまっても、もうノープロブレムなのです! どういう意味かいまいちわかっていないのですが、言ってみたくなる時もあるでしょう! きっとあるでしょう!
 コホンッ。
 あなたの隣にきっとある。
 あなたの横にきっとある。
 あなたの近所にきっとある。
 ようこそ! ようこそ! ようこそ!
 ここは苦界、苦悩の彼方! 絶望の楽園! 希望の墓地! 奈落と天国のたのしいせめぎ合い。サァサ、目玉をひん剥いて、括目すべし!
 本日も満員御礼。毎度ご来場いただき、ありがとうございます初めましての方は初めまして。以後よろしくお願いします。二度目ましての方はお久しぶりです。私、この『黄昏劇場』の支配人! 支配人の! こ・や・け、と申します! そう! こやけです! 名前だけでも憶えていってくださいな! 名前を憶えておけば、あとは、姿も形も憶えてください、そして思い出すのです! こういうステキな劇場があったということを! こういう素晴らしい時間があったということを!
 サァサァ、お代の分だけ見ていってください! これこそ、この世の悪夢、鬼神さえも阿鼻叫喚、魑魅魍魎の専売特許! 森羅万象、パシフィックオーシャンでございますよ! とまあ、てきとうな言葉を並べてみたところでございますよ。私共の……あれ? 何でした? こうきょう? 何だか違いますね。きっと似たような言葉だったのです。似たようなアレが、アレなのです! 興業! 興業でございます! 工場ではございません。あしからず。ハイ。私共の興業は、日替わりランチ、お腹が空いたら食べればヨロシ。ここに私のお腹を満たせるだけの人間が存在しているではありませんか!
 あはあは。取って食いやしませんよ。お客様は下等生物。私の口に入れるなんて、とてもとても……。塵芥を口に入れようと思いますか? ゴミ虫を入れますか? 食べようと思いますか? そんなもの、高尚な私の口に入れるとでも? 莫迦なことをおっしゃらないでくださいな。珍味になるやもしれぬその肉塊、大事にしてくださいませ。どうしても食べられたいと思うならば、私の主人にご相談ください。きっと、楽しいアレがアレです。ウフフ。
 と、前口上はこれくらいですね。台本通りにいってるはずなのですが、どうも今日は声の、いえ、喉の調子が悪いのです。とてつもなく悪いのです。ガラガラなのですよ。そういう骨の棍棒を持ったキャラを見たことがありますね。可愛いです。ダシが良さそうです。
 そろそろ話を始めましょうか。幕を開きましょう! おーぷんっ!
 眩しい闇の詰まった匣を開き、狂ったタンゴで浄瑠璃をするのです! マトリョーシカが夜通しワルツの練習をすれば、クイックステップで世界が揺れます。ワン、ツーワン、ツー、おっとリズムを間違えましたね。よしよし。これで良いですね。ワンツーワンツー。イーアーサンスー! アンドゥトロワ! 発音が違いましたね。マー、マー、よしよし。これでお母様もお馬さんも呼べますよ。ベソをかいても誰も助けてくれませんが、ヘソを曲げるなら今のうちです。今すぐ席を立つのです! サア、早く、ご退席を!
 奇妙奇天烈望むならば、肝取られまして候。遠くにおられる方も、今一度前方をご確認ください。隙間が空いていませんか? その隙間埋めてしまいましょう! ずずいっと前においでなさいな! 遠くにいればいるほど、遠ければ遠いほど、あなたは世界に置いていかれてしまうのです! 困ったことに置いてきぼりになるのですよ。いやはや、私は困りませんけど。
 目映い闇を感じつつ、暗い光に呑み込まれてしまうのです。髪の毛一本、輪郭だけ影として残して消えてしまうのです。……セリフを間違えましたね。髪の毛一本残さず、影だけが残るのです! そのような恐怖にあなたは耐えられますか? 少しも痛みを感じずに一瞬で全てを奪い去られてしまうので、恐怖などないですね。これは失礼いたしました。これはどうもどうも。私は人間の気持ちがいまいち理解できないものでして……。うふふ。甘美なる恐怖をお楽しみくださいな。
 人間というものは、昔から夕方になると「誰そ彼」と尋ねるのです。
 これは、暗くなると相手の顔を判断できないからですね。昔は照明も少なかったのでございます。油に火をつけたり、瓦斯灯とか、ほら、そういうの聞いたことないですか?
 この時間を黄昏時とか逢魔時とも言いますね。さっきも話したとおり、相手が誰だかわからないので、妖怪変化が混ざってるから……魔に逢う時。別に夕方でなくとも、私達は普段から紛れ込んでいるのですが、気付かないとは愚かですね。さすが下等生物でございます。
 さて、だから何の話をしているのかと疑問に思う人もいらっしゃるでしょう。私も思います。
 だから、何なんだと。
 だから、何があるんだと。
 おまえは何の話をしているんだと。
 おまえは何をしたいんだと。
 答えは簡単です。ええ、いたってシンプルです。
 私には主人がおります。これは配偶者や番という意味のものではなく、仕えている人という意味の主人です。私の主人はとてもとてもとても可哀想な方で、日中太陽が燦燦と照り付けている間は、外出できないのです。主人の表皮はとても脆く、すぐに焼け爛れてしまいます故に。ですから、ひきこもりの、ごほんっ。可哀想な主人は見世物を所望しました。自分の暇をどうにかして潰せるような見世物を求めているのです。ですから、ですから、主人は、見世物小屋をつくったのです。ここがそうです。この見世物小屋こそが、主人のつくった最高の暇潰し。神様のヒマ潰し、です。
 さて、ここで皆様に朗報です。いえ、悲報ですかね。皆様にはこれから見世物になって頂きます。なに、難しいことはありません。ただここでじっとしていただければ良いのですよ。じっと……死が二人を分かつまで……じっと……。怖いことなどありません。痛みもありません。苦しい思いは何もしなくて良いのです。私はそんな悪い事しません。悪事をはたらかないのですよ。悪事を!
 あはあは。逃げ惑いますか? それも良いですね。とても良いです。では、場を盛り上げるために、私が悪役になりましょう! たのしいたのしいたのしい感じにしてあげます!
 サアサアサアサア、逃げ惑いなさい! 跪いて、命乞いをするのです! 助けてくださいこやけさま! と言えば助けてやらないこともないのですよ。運命です。運命。そういう運命だと思って諦めても良いのです。これは最高の見世物だと思いませんか? ねえ? そう思うでしょう? 恐怖に染まっていくその表情。とっても惨めでお似合いで可愛いですよ。とても最高です。とても、とても、良いのです。だから、とても最高なのです! 嗚呼、ゾクゾクして、私のこの辺りがキュンキュンしてしまいます!
 ですが、私は優しいのです。慈悲深い精霊なのですよ。主人のように無慈悲に大量殺戮なんていたしません。皮を剥いで、鞣して、カウチを作ったりなんてしないのですよ。そもそも、私はカウチの作り方を知らないのです。おっと、『知らない』は唱えてはいけない言葉です。
 とっても優しい私が、皆様に最初でサイゴのチャンスを与えましょう。サイゴがどのサイゴになるかは、あなた次第! よーく考えて行動してくださいね。この見世物小屋にうっかり入ってしまったあなたの好奇心を恨むのです。ついでに私の主人を恨んでください。そうすれば、彼は悪夢にうなされて、更に目の下のクマを濃くするでしょう。不眠症を悪化させてください。人形だって悪夢をみるのですよ。あはあは。
 では、時間がありませんので、早速ですがチャンスを与えましょう。そして輝くウルトラソウッ! はい! どういう意味か知りませんが、言ってみたかったのですね。言葉の響きが好きなのです。
 皆様の背後から特殊な光が発生します。要するに、光に当たると駄目なのです。どうすれば光に当たらずに済むかと言いますと……そう簡単に教えるとおもいますか? あはあは。冗談です。教えますよ。光に当たらないようにするには、お隣の人の協力が必要なのです。しっかりお隣の人の存在証明をしてあげてください。顔をよく見て、憶えておくのですよ。しっかり。しっかり憶えてくださいね。後で恨まれてもしりませんよ。後悔先になんちゃらと言いますでしょう。袖触れ? 袖? なんちゃらかんちゃらもなんちゃらって言うではありませんか! 一期一会のアレです。縁を大切に生きてください! 出会いを大切にするのです! そして持ってけマイソウル! ですよ!
 憶えましたか? 憶えましたね? これがお別れなんて悲しい事を言わないでくださいね。
 それでは皆様お疲れ様でした。一気に眩しくなりますので、消えないでくださいね。はい!
 さて、ドキドキの結果発表といきましょう!
 どれだけの人間が残っているか楽しみですね! とても楽しみです!
 って、思ったよりも少ないですね……。ウウム。どこで説明を誤ったのでしょうか。しかし、主人が喜びそうですし、このままいきましょう。
 私の声が届いているあなたは、少し原型をとどめておりますね。ちょっぴり崩れてしまっていますが、無問題です。大丈夫です。呻き声しか発せないのはコミュニケーションスキルのアップをお願いします。そちらのあなたは、腕が振袖ですね! 可愛いですよ! そちらのあなたは目玉が大きくてキュートですよ! これからの時代は多様性! 多様性の時代です! ですから、皆様のような妖怪変化は受け入れられますよ。妖怪変化に優しい世界です! 私はとても嬉しいです。主人が「満足」と言ってきております。主人が嬉しそうに連絡をしてきたので、良い感じです。おめでとうございます! あなたは生まれ変わったのです! 皆様は祝福されたのです! 祝え! 新たな妖怪変化の誕生を! ですよ!
 これから先の見世物が増えて、私、嬉しいです。これでしばらく主人の機嫌も良いままでしょう。あ、もれなく、主人に実験台にされますが、あらかじめご承知くださいね。どうせ人間と交流できないんですし、うふふ。あはあは。
 ちょうど時間となりました。お約束のセリフで終わりましょう。今の皆様にぴったりの言葉です。
 誰そ彼
(という感じのおはなしで終わります。読んでいただきありがとうございました)
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からっこ@がらす玉です
きましたー。ながら作業ですが見させていただきます。
28:23
末千屋 コイメ
わーい。おきらくさん。ありがとうございます~(どこにあるかわからなかった)
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『黄昏劇場』
初公開日: 2019年10月16日
最終更新日: 2019年10月16日
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一次創作作品のSS。『夕焼けの里』シリーズのもの。
自由気ままにタイピング練習を兼ねてやってます。